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社会人野球

「育成指名でプロ野球」は是か非か。
教え子を送り出す監督の内心は?

安倍昌彦=文
photograph by NIKKAN SPORTS

磐田東高校時代の加藤脩平は、甲子園の地に立つことなく3年間の高校野球生活を終えた。プロでは花開くだろうか。

磐田東高校時代の加藤脩平は、甲子園の地に立つことなく3年間の高校野球生活を終えた。プロでは花開くだろうか。

「育成なんて、とんでもない! 私の教え子なら、育成でプロに出すなんて考えられないですね。絶対に出さない。だって、待遇が違い過ぎるでしょ。契約金はひとケタ違うし、年俸だって半分か3分の1ですよ。育成で入れば“三軍”ですから、ファームはグラウンドで練習してるのに、三軍は室内で、陽も当たらない場所で練習してるらしいですよ。

 今はどうか知りませんけど、育成の最初の頃は、3ケタの背番号も、110番とか119番とか、そういう心ない背番号まで付けられて、球場に来た子供たちに指さされて笑われてたって聞きましたよ。私、自分の教え子にそんな情けない思い、絶対させたくありませんから」

 すごい勢いだった。

 ここまで、一気にまくし立てられた。

 高校野球のある強豪校の監督さんと話をしていて、たまたま話題が育成制度にさしかかった時、監督さんのスイッチがいっぺんに“ON”に入ってしまった。

■巨人の育成2位、加藤脩平とはどういう選手か。

 2016ドラフト。

 読売ジャイアンツは1位指名で田中正義(投手・創価大)、佐々木千隼(投手・桜美林大)を抽選で外すと、一転、内野手の吉川尚輝(中京学院大)を指名。

 すると、その後の2位から7位までの6人の指名をすべて投手で一貫させると、「育成ドラフト」の1位でもBC新潟・高井俊投手を指名し、1位・吉川尚輝に次ぐ野手の指名は、育成2位の加藤脩平外野手(磐田東高)となった。

 磐田東高・加藤脩平。

 ならば、どのような選手なのか。

 あるスカウトは、「東海地区の高校生では、U18で3番を打って活躍した鈴木将平(静岡高・西武4位)に次ぐ好素材」という評価をしていた。

 177cm84kg、右投げ左打ち。

 通算28本塁打、投手としても140キロ台のスピードをマークして、50m6秒0の俊足も兼備する身体能力豊かな外野手だという。

■「私は脩平のこと、尊敬しちゃいますけどね」

「調査書は8球団から送られてきたし、新聞の報道でも結構高い評価をされているようだったからね、通常のドラフトで指名されるのかな……と思ってましたよ。ただ、いちばん熱心だった西武さんが、4位で鈴木将平を指名しちゃったからね。こりゃあ、ないかもなって、ちょっと心配もしてたんですけどね」

 磐田東高・山内克之監督は、来年で高校野球監督生活40年目を迎える、大の付くベテラン監督である。

 生まれも育ちも、そして監督生活も、ずっと静岡で過ごしてきた。

 浜松西高から早稲田大学に進むと、準硬式野球部で遊撃手として活躍し、卒業後は藤枝北高に始まり、浜北西高、掛川西高、浜名高、現在の磐田東高と指導者生活を続けてきた。掛川西高監督で3回、浜名高で1回、甲子園の土も踏んでいる。

「育成についていろんなことを言う人がいますけど、私はね、育成でもすごいと思う。指名しようと思えば、社会人だって、大学生だっているのに、そこで高校生でしょ。高校生が、たとえ育成だとしても、プロから認められるってことは、私は十分にすごいと思って、(加藤)脩平のこと、尊敬しちゃいますけどね」

 山内監督のもの言いは、いつもスッパリとして忌憚がない。

■高校生の野手で指名されたのはたった11人。

「今年のドラフトだって、高校生の野手で指名されたの、たった11人なのね、調べてみたら。そのあとの育成ドラフトで、脩平は高校生の野手の2人目で指名されてるから、今年の高校生野手で、上から15人目っていう評価されたんだって考えたって、そんなに違ってないよね。私は、そういうふうに考えたいんですよ」

 特に今年は、高校、大学、社会人、すべてのカテゴリーで野手の人材不足が叫ばれた年だった。

「プロ志望届を出していない選手の中にも実力者は何人もいるだろうけど、届けを出した時点で、もう彼らとは“世界”が違っちゃってるわけだからね。プロで勝負したい! っていう志があってさ、調子悪くてどんなに打てない時だって絶対4番外さなくて、それでも誰も文句言わなかったほどのヤツですよ。育成でも結構! プロから名前挙げられる名誉を感じながら、頑張ってこい! って。背中たたいて、送り出してやろうと思ってますよ」

■2年前にも、ソフトバンクに育成選手を送り出した。

 山内監督は2年前にも、ソフトバンクの育成選手として、齋藤誠哉投手をプロに送り出している。

 持てる能力をなかなか発揮しきれずに苦しんだ時期もあったが、しなやかな腕の振りから投げ下ろす速球を評価された長身サウスポーだ。

「明るくなった、友だちも増えた、きちんと話ができるようになった……。人と接するのが苦手みたいなところがあったヤツだから、そんな近況を聞くだけでもすごくうれしいですよ。野球のほうは、なかなか話が出てこないんだけどねぇ」

 オフのウインターリーグにも派遣されて、育成選手ながら徐々にチャンスをもらえるようになってきた。

「かわいがってもらってます、なんてね。この前、電話で言ってましたよ。そんな表現できるヤツじゃなかったんですよ。成長してるのかなぁ……少しずつでも」

■「コイツなら一軍でやれる」という確信があるか。

 この秋、中日ドラゴンズでは、3人の育成選手が1年目、2年目で戦力外通告を受けた。

 磐田東高の“すぐそば”で、そんな現実が今、ある。

「心配ですよ。支配下だって心配だと思いますよ。何年やらせてもらえるのか。すぐポイされるんじゃないのか」

 育成選手には、3年間という期限が設定されている。

 3年間で支配下登録されなかった育成選手はいったん自由契約となり、“先”のある選手だけが再び、育成契約を結んでもらえる。

「契約金だって、引っ越し代ぐらいしか出なくて。タダで拾ってきたもん、誰が大事にしますか!」

 そんな激烈な表現で育成制度を疑問視する指導者の方もいた。

「脩平が行くジャイアンツだって、今年7、8人の育成が解雇になってますよね。中には1年目もいましたから、送り出すこっちにとっては、やっぱりショックですよ。ただ、そういうことは“結果”だからねぇ……。

 要は“確信”だと思うんですよ、選手と監督の。入る時は育成でも、コイツなら支配下になれて、一軍でもやれる。だから送り出す、だから行く。それさえあれば、私はすごいことだと思うし、胸張って送り出せますよ」

■社会人に進んだ齋藤の同級生が来年の上位候補に。

 山内監督には、来年もう1つの“楽しみ”がある。

 高校時代、ひと足お先にソフトバンクに進んだ齋藤誠哉と2本柱で投げていた鈴木博志が、社会人野球・ヤマハの2年間でぐんぐん成長して、今季は150キロに達した快速球を武器に、ストッパーとしても奮投している。

「誰かが止めないと、いつまででも練習してるヤツだから、そっちのほうが心配で……」

 うれしそうに、山内監督が話してくれる。

「アスファルトの道、走るなんてやらなきゃいいのに、10キロだかロードワークやって、それで疲労骨折だって」

 あきれながら、すごくうれしそうだ。

 猛烈な逆スピンでミットをはね上げてくるような捕球感。数字のスピードだけじゃない。インパクトで破壊力を発揮できる快速球。

 ヤマハ・鈴木博志は、2017ドラフトの上位候補に、今から挙げられている。

■送り出したあとに監督ができる温かい“援護射撃”。

「2月のキャンプ、宮崎に行けば誠哉もいるし、脩平もいる。私、キャンプに博志を連れてこうと思ってるんですよ。先にプロに行って、キャンプで汗にまみれてる2人を見て、博志が何を考えるのか、ね。私が“心構え”みたいなことグダグダ言うより、1000倍ぐらい博志には効果があるでしょ」

 楽しみだなぁ、と笑っている。

「それと、それ以上にね……」

 快活に話し続けていた監督に、ちょっと間があった。

「それ以上に、誠哉と脩平の刺激になってくれたらね……。送り出したあとの監督ができることなんて、そんな“援護射撃”ぐらいなんだから、私はしてやりたいと思いますよ。そういう味方が必要な時期なんだからね、まだまだ」

 2人目の“育成”を送り出す山内監督にも秋がやってきていた。