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WHIPはそれほど気にしなくてもいい

写真提供:共同通信

■分かりやすく、計算も簡単

 野球界にセイバーメトリクスの概念が少しずつ広まり、メディアなどでさまざまな指標を目にする機会が増えている。中にはWARのように計算が複雑で解釈の難しい指標もあるが、OPSやWHIPなどは計算式も簡単で理解しやすく、この10年ほどで随分と一般化が進んだようにも感じられる。特にこのふたつの指標はMLBの公式記録にも採用されていて、セイバーメトリクスの代表的な指標として扱われるケースも少なくない。

 セイバーメトリクスにカテゴライズされる指標の中でOPSやWHIPは最も古いグループに含まれていて、さまざまな研究が進んだ現在では、これらの指標が分析の材料として使われることはあまりない。打者の分析でいえばwOBAやwRC、投手はxFIPやtRAなど、高度な計算に基づいた指標がその役を担っている。

OPS=出塁率+長打率
WHIP=(被安打+与四球)/投球回

 OPSやWHIPの利点は計算が容易なことだ。例えば出塁率と長打率の和であるOPSは、何十年も昔の野球の記録であっても計算に手間は掛からない。しかも計算式がシンプルな割に得点との相関もある程度高く、精密な分析を必要としない一般の野球ファンが打者の価値を知る上で、十分役に立つ。目の肥えたセイバーメトリクス通には物足りないかもしれないが、視聴者にライトファンが多いであろう野球中継などには適しているとも言える。

 ではWHIPも同様か……というと、必ずしもそれは正しくない。被安打と与四球の和を投球回で割る、という構造はシンプルで古い記録からでも計算できるメリットはOPSと同じだが、投手の能力を測る物差しとしては不十分であるためだ。

■結果の持つ価値

 WHIPは投手のイニングあたりの被出塁の数を表している。ランナーを出さない方が失点のリスクを抑えられるのだから、WHIPが低いほど安定感のある良い投手、とされている。一見説得力のありそうなロジックだが、問題は四球も本塁打もひとつの出塁としてカウントしている点だ。

 当たり前のことだが、四球というイベントの持つ価値と本塁打のそれはイコールではない。表1のRuns Valueはイベントごとの得点価値を表していて、例えば本塁打は1本あたり1.41点分の価値を持っていることを示している。本塁打は故意四球(敬遠)に対しておよそ8倍もの価値を持っているが、WHIPの上では同じ結果として扱ってしまっている。

 イベントごとに重み付けをすることで、問題の解消に近づくだろうか。単打のRuns Valueをベースに各イベントのRuns Valueとの比率を設定し、発生数と掛けたものを投球回で割ったものを仮にwWHIPとして表2、3に示した。長打を打たれることのマイナスが反映されるようになったため、基本的に各投手のWHIPよりも値が大きくなっている。特に被本塁打が20本を越える金子千尋(オリックス)や有原航平(日本ハム)のマイナスは大きい。また、WHIPに比べて四球を出さない投手の評価が下がるため、与四球率の低い秋山拓巳(阪神)などもマイナスの影響を強く受けている。

■WHIPの予測は難しい

 WHIPの問題点として、年度間の相関が弱いことも挙げられる。年度相関とはある年に記録した成績が翌年も継続するかどうかを測るもので、1に近いほど再現性が高く、0に近づくほどランダムな動きを取ることを表す。今回は2004年から2017年の間、2年連続で100打者以上と対戦した先発投手、のべ829名をサンプルとして計算を行った。

 相関係数は0.28で、まったく無関係とまでは言えないながら低い数字にとどまった。同じ条件で救援投手を対象とした年度相関の計算も行ったが、こちらも相関係数0.30と強い関係性は見られなかった。先発や救援を問わず、優秀なWHIPを記録した投手の翌年のWHIPは不安定で、正確に予測するのは難しいということだ。

 原因の多くは被安打にある。投手の被打率の年度相関は0.26と低く、再現性に乏しい。打球がヒットになるかアウトになるかは守備の影響を受けやすいため、投手が打球をコントロールするのは難しい、ということが研究の結果分かっている。例えばゴロを多く打たせることで長打の可能性を減らすことはできても、打球をアウトにできるかどうかに関して投手は責任を負いきれない。そして一般的な投手の場合、四球を与える数よりも被安打の数の方が多いため、被安打の多さ・少なさがWHIPに与える影響もそれだけ大きい。不安定な被打率に頼った構造である以上、投手を評価する指標としてのWHIPの信頼性も限定的にならざるを得ない。試みで計算した重み付けWHIPについても、同じような理由で投手の能力を説明する力は弱い。

 WHIPが説明できる範囲は「イニングあたりにどれだけ走者を出しているか」というところまで。投手の能力の根拠として言及してしまうと、誤解の元になりかねない。ライト層にも伝わる分かりやすい指標も大切だが、「使い方」を正確に理解することも伝え手には求められる。

※データは2017年10月1日現在

文:データスタジアム株式会社 佐々木 浩哉