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史上初2年連続トリプルスリーに光を。 山田哲人、成功率9割超の積極盗塁。

日比野恭三
Kyozo Hibino

バッターボックスに入れば強打、塁に出れば一球の隙をも見逃さず次の塁を狙う。 山田の存在は相手投手にとって脅威以外の何物でもない。

バッターボックスに入れば強打、塁に出れば一球の隙をも見逃さず次の塁を狙う。
山田の存在は相手投手にとって脅威以外の何物でもない。

 史上初の大記録であるわりに、世間でさほど話題になっていないように感じる。

 2016年、山田哲人は2年連続のトリプルスリーを達成した。

 昨季はセ・リーグを制しながら今季5位に沈んだスワローズのチーム状況も、山田の偉業への注目度を弱くさせてしまっている面はあるかもしれない。だが、柳田悠岐とともに達成した昨季のトリプルスリー自体、13年ぶりという稀有な成績だったのだ。それを2年連続で達成したのだから、プロ野球史上、最高の総合力を備えた打者であることを証明したといっても過言ではない。

 CS、日本シリーズの盛り上がりのなかで忘れられがちだが、今季の山田はセ・リーグ盗塁王のタイトルも2年連続で獲得した(30盗塁)。38本塁打、102打点は筒香嘉智に次いでリーグ2位。102得点、97四球はリーグトップだった。

■松井稼頭央との対談の中で触れられた走塁への積極性。

 そんな山田の万能性は、選手視点から見るとどのように映るのか。2002年に打率.332、36本塁打、33盗塁をマークし、昨季まで“最後のトリプルスリー達成者”だった松井稼頭央と山田との対談がNHK「サンデースポーツ」で放送されていた。

 17歳も年の離れた2人は打撃論やメジャーへの思い、結婚観などについて語り合っていたが、そのなかで特に興味深かったのは山田の走塁に対する意識だった。

「大事にしてるのは準備。常に僕は、いくっていう姿勢です。いつでもスタートいけるぞ、いけるぞっていう姿勢で」

 そう語った山田はおもむろに立ち上がり、実際にリードをとっている時の姿勢をやって見せた。体重を常に進塁方向に傾ける山田の姿に、松井はただ驚くばかりだった。

 松井はトリプルスリーを達成した翌年、3割、30本塁打こそ2年連続で到達したが、盗塁は33個から13個へと大幅に減らしてしまった。そうした自身の経験からも、山田の体勢に表れる積極性に衝撃を受けたのだろう。

■初球から走っていくスタイルを鈴木尚広氏も称賛。

 スタジオにゲストで呼ばれていた“走塁のスペシャリスト”鈴木尚広氏も、山田の走塁技術を絶賛していたのも面白い。

「初球から積極的に走っていくし、かなりの確率で成功している。自分主導の盗塁で、受け身になっていないことが彼の素晴らしいところ。初球で走るのは僕でも難しいくらいですから。いかにピッチャーに間合いを合わせないで自分が準備ができているかということになる。もう、すごいの一言しかないですね」

 鈴木氏が触れたとおり、山田の盗塁は初球から走っていくのが特徴だ。

 2014年、山田は15盗塁を記録したが、そのうち初球に走って成功させたのはわずか2個だけだった。そして2015年、その数は34盗塁のうち16個と、仕掛ける数も成功率も飛躍的に増えた。2016年もトリプルスリーを確定させる直前で、その積極性は発揮された。8月26日の阪神戦でマークした29個目、9月6日のDeNA戦でマークした30個目の盗塁はいずれも初球に走っているのだ。

■「もともと足にはいちばん自信がありました」

 思い出すのは以前、インタビューした時のことである。山田は盗塁についてこう語っていた。

「もともと足にはいちばん自信がありました。守ることよりも、ホームランを打つことよりも。だから、コツさえつかめれば絶対いけると思っていた」

 天性の足の速さに技術が加わったのは昨季のことだ。三木肇、福地寿樹の両走塁コーチの徹底指導のもと、スタートの切り方などの練習をシーズンが始まってからも毎日のように続けた。

 山田は続ける。

「前までは、しんどいな、次の塁にいけたらいいな、ぐらいの気持ちだった。でも、走塁に興味をもてるようになってきたんです。走ることでいっぱいプラスがある。その走塁で試合に勝つこともあるんだってわかってから勉強しましたね」

■今季の盗塁失敗は2度だけ、成功率は驚異の.938。

 体重は前がかり、初球からガンガン走る積極性を持ちながら、ほとんど失敗しないのが山田の盗塁の卓越した点だ。今季の盗塁死はわずかに2度。32回の企図で30回成功させ、成功率は.938という驚異的な高さを誇る。ちなみに今季はパ・リーグで糸井嘉男と金子侑司の2人がハイレベルな盗塁王争いを繰り広げたが、53盗塁でタイトルを分け合った2人はともに70回の企図があり、成功率は.757だった。

 山田が牽制で刺されたのも9月4日の広島戦、ヘーゲンスに虚を突かれたのが今季初。「逆を突かれたかもしれないが、それでも戻るという練習通りのことはできたと思う。(攻めの)意識は変えないようにしたい」と山田は振り返ったという。

■「全体的な雰囲気を見ながら、盗塁にいく」

 塁上の山田は、投手のどこを見ているのか。そう尋ねた時の答えは、意外というべきか、山田らしいというべきか、ふわっとしたものだった。

「全体を見ますね。全体的な雰囲気を見ながらいく。クセがあるピッチャーとかやったら見ますけど、今の時代、あんまりクセのある人もなかなかいませんから」

 ’14年にブレイクしてから、山田は常にトリプルスリーという言葉とともに語られるようになった。

 15盗塁を記録した’14年のシーズン終盤に聞いた時は「30盗塁なんて無理」と言いながら翌年、トリプルスリーを達成した。

 38本塁打を記録した’15年のシーズンが終わってから聞いた時は、「ホームランが無理。38本は異常過ぎた」と言いながら今季も同じ数だけスタンドに放り込み、2年連続、NPB史上初となるトリプルスリーを達成してしまった。

■まだ25歳。トリプルスリーを“スタンダード”に。

 冒頭の松井との対談で、来季への展望を聞かれた山田は言った。

「全然考えてないです。でも、ある程度、目標は決めてます。(それは3年連続トリプルスリー?)そうですね。個人的にはやっぱり……けど、まったく自信がないです。来年は無理です」

 これまで繰り返してきたように、盗塁が、本塁打が、という山田特有の“言い訳”もさすがにもうできなくなってきた。

 来年になっても、まだ25歳という若さだ。当面、山田にとってのトリプルスリーはふつうの成績、クリアしても誰にも驚かれないスタンダードになってしまうのかもしれない。