BASEBALL GATE

侍ジャパン

大山悠輔と中塚駿太のWプロ入り。
白鴎大・黒宮監督はただただ祈る。

安倍昌彦
Masahiko Abe

強打の野手として注目された大山(右)と、150km超の剛速球を投げ込む中塚。大山は金本監督たっての希望で1位指名を受けた。

強打の野手として注目された大山(右)と、150km超の剛速球を投げ込む中塚。大山は金本監督たっての希望で1位指名を受けた。

白鴎大学から最初にプロに進んだ飯原誉士(外野手・’05年ヤクルト指名)はドラフト5位だった。

 翌年のドラフトでソフトバンクに指名された高谷裕亮(捕手)は3位。’11年のドラフトで同じチームに進んだ塚田正義(外野手)も3位だった。

 そして、その後白鴎大からプロ入りした選手たちも、みんなドラフトの下位か、育成枠での入団だった。

「それが、今年は1位と2位でしょう。ウチの選手に差をつけるわけじゃないですけど、やっぱり責任の大きさ、感じますよ。頼むから、期待に応えてほしいー! って」

 白鴎大学・黒宮寿幸監督が体の奥から絞り出すように声をあげた。生まれ育った栃木の言葉の響きが、耳にやさしい。

■やっぱり期待より不安ですよ、ほんとのところ。

 内野手・大山悠輔、阪神タイガース1位。

 2016ドラフト候補生の中で、唯一の右打ちの長距離砲といってよいだろう。三塁、遊撃も守り、二塁からシングルヒットで生還できる脚力を持つ。

 投手・中塚駿太、埼玉西武ライオンズ2位。

 日本ハム・大谷翔平の“160km”を追いかけられるとすれば、まず田中正義(創価大)とこの超大型右腕だろう。192cm、102kgの雄大な体躯から投げ下ろす快速球は、まさに大谷さながらのきれいな逆スピン。コンスタントに140キロ後半をマークする。

 黒宮監督は、共に無名の高校時代から人知れず注目し続けた。手元に置いてからの4年間は、時にきびしく、時にあたたかくその成長を見守ってきた愛弟子の2人だ。

「どこの親御さんも同じだと思うんですけど、やっぱり期待より不安ですよ、ほんとのところ。彼らのすばらしいところも知ってますが、まだ幼い面も誰よりもよく知ってますから。でもね、自分があんまり不安を表に出して、彼らに余計なプレッシャーになってしまってもいけないし」

■大山の阪神1位には疑問符がつけられたが……。

 とりわけ、大山悠輔の阪神1位は世間に大きな反響を生んだ。

 そのほとんどが、阪神は1位を佐々木千隼(桜美林大)でいくべきだった。大山悠輔は2位でも十分に獲れた。論調は、ほとんどがそうした内容のものだった。

「阪神は人気球団ですから、ほかより反響が大きいのは当然です。これから、本人が慣れていかなきゃならない部分なんでしょうけど、今はまだ大山本人に免疫がないですから。どうか、あんまりびっくりするような書き方だけはしないでくださいって、これ、誰に向かって言ったらいいのか、僕にもわからないんですけど。もう祈るばかりですね」

 阪神は、ほんとに2位で大山悠輔を獲れたのか?

 ならばちょっと、シミュレーションをしてみよう。

■2位だとウェーバー制の妙で獲れなかった可能性が。

 阪神が1位で佐々木千隼を指名したとする。

 さらに、1位指名の抽選で田中正義と柳裕也(明治大)を外した4球団は、実際の外れ1位を指名したとして、佐々木千隼を外れ1位にした千葉ロッテは同じ投手で高い評価を得ていた「立正大・黒木優太」を指名したと仮定する。

 2位のウェーバー制先頭になるオリックスは、3位で高校生遊撃手・岡崎大輔を指名しているのだから、2位で京田陽太(日大)が残っていれば、そこで京田を指名することが考えられる。

 2位指名で2番目の中日は、実際には京田を指名したが、1つ前でオリックスにさらわれている場合、ここで「大山悠輔」を繰り出してきた可能性が十分にあった。

 さらに、阪神の1つ前で中塚を2位指名した西武だって、チーム事情から打てる三塁手は欲しいし、3位で源田壮亮遊撃手(トヨタ自動車)を指名しているぐらいだから、2位で大山にいくことも考えられた。

 このように、阪神は1位で大山を獲っておかないと、2位では他球団が先に指名してしまう可能性は少なからずあったのだ。

■「こうなったら、1位という現実を勲章と考えて……」

「そうですよね……。大山が六大学や東都にいたら、もっと大騒ぎされてたでしょうね。守れるっていうのが大きいですよ、足だって悪くない。右で飛ばせるバッターも、ほかにいませんものね。今年のドラフト候補を見渡して冷静に考えれば、貴重な存在だったといえるのかもしれませんよね」

 ただ送り出す者の本音としては“2位だったら……”の思いは正直、あるという。

「飯原や岡島(豪郎・楽天・外野手)みたいに、わりとひっそりと入って、じっくり力をつけて、後で考えたら結構いいじゃないこの選手みたいな。そういう線でいってくれてもよかったかなぁ……って」

 そんな弱気じゃいかんですね、と黒宮監督、すぐに気を取り直した。

「こうなった以上は、1位という現実を勲章と考えて、タイガースというチームの期待、金本監督の期待に命かけて応えていくことが、彼の使命ですからね。返していけばいいんです」

 半分は、自身に向かって言い聞かせているようなもの言い。

 教え子の行く末とは、ある意味、送り出した者への答え合わせでもあるのだ。

■中塚は真っ白な子ですから。マイペースなヤツでね。

「中塚はまだ真っ白な子ですから。ウチのスクールカラーがブルーで、西武さんもブルー。白鴎のブルーから西武のブルーに、染め替えてもらえばいいんですよ」

 3年の秋から実戦で投げ始め、そしてこの秋のリーグ戦で野球人生初の完投を、完封で飾った中塚駿太は、まだ“夜明け前”みたいなピッチャーだという。

「あんまり大きな期待かけても、ボクじゃ無理ですよ……とか、笑いながら言いかねないですから、中塚は」

 ほんと、マイペースなヤツでね。黒宮監督がおかしそうに笑っている。

「この前、中塚に言ったんですよ。お前、ウチでひとシーズンしか働いてないんだから、もう1年ここで働いてから行ってもいいんじゃないか、ってね」

 教えたかったこと、気づかせたかったこと、今ごろになって、次々浮かんできてねぇ。

 ひとりごとみたいな言い方だった。

■大山も中塚も、自分の子供を見るかのような心境に。

「今までは、“後輩”がプロに行くみたいな感じで、頑張ってこいよ! ってボーンと背中叩いて送り出せたんですよ。それがなんだか、今年はちょっと違ってて」

 自分の子供を巣立たせるような気分だという。

「大山も中塚も、ほんといい子でね……。そういう年になったってことなんですかね、ボク自身が」

 今年、黒宮監督は46歳になる。

 ご自身の息子さんも間もなく高校進学の年になったという。

「自分の子供だったらここはちゃんと叱らないと、自分の子供だったら、ここで見捨てちゃダメだなって。そういう基準でやれるようになってきて、選手たちにどう接したらいいのか見えてきたみたいで」

 優等生・大山は放っておいても自分で練習できる選手だったようだが、未完の大器・中塚には手を焼くこともあったそうだ。

「あんまりゆるい練習やってるんで、中塚に『帰れ!』って怒ったら、あいつ、ほんとに帰っちゃったことがあったんですよ。しょうがないなって、こっちも頭に来てたんですけど、なぜか部員全員に、『みんなで中塚、探しに行って来い』って言えたのも、もしかしたら、あいつをオレの“子供”だと思ってたからなのかもしれない……。今になって思うんですよ、そんなこと」