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プロ野球

「人のことは気にせず」新人で2ケタHR。 オリ吉田正尚、2年目も図太く生きる。

米虫紀子=文
photograph by Kiichi Matsumoto

出場試合数は63にとどまったが、OPSも.854と高い指標を示した吉田。 来季はシーズン通じた中軸になることを求められる。

出場試合数は63にとどまったが、OPSも.854と高い指標を示した吉田。
来季はシーズン通じた中軸になることを求められる。

「もう1年か。早いっすね。あっという間です」

 今年のドラフト会議の前日、吉田正尚はしみじみと言った。1年前、青山学院大4年だった吉田はドラフト1位でオリックスに指名された。運命の日を、吉田はこう振り返る。

「当日は散髪に行って、身だしなみを整えました。なんか変な感覚でしたね。それまでは進路ってだいたい自分で決めるからイメージできるけど、プロの場合は、選ばれて、『あ、あそこか』という感じなので。

 僕はどこでもいいというスタンスでした。プロに入ってからが勝負だと思っていたので。呼ばれた時は……1位ですからね、やっぱり嬉しかったです。自分では1位ではないと思っていました。だって普通はやっぱりピッチャーでしょ、1位は。自分は外野手だし、3位ぐらいで行ければ上等じゃないですか」

 いつも落ち着き払ってどこか達観したところのある吉田らしい。

 ルーキーイヤーのスタートは、1月に左ふくらはぎ、2月に右脇腹を痛めて出遅れたが、オープン戦最後の3日間で猛アピール。開幕一軍に滑り込むと、1番DHで開幕戦にスタメン出場を果たした。そこから6試合連続安打を記録し、新人の開幕からの連続安打記録に並んだ。

 トレードマークはフルスイングだ。身長173cmとプロ選手としては小柄だが、全身を思い切り回転させ豪快に繰り出すスイングは竜巻を起こしそうな力強さだ。ただその分、体にかかる負担も大きい。腰椎椎間板症を発症し、4月24日に登録抹消となった。

■復帰してから9試合「まだ三振してないんですよ」。

 一軍復帰は8月12日まで待たなければならなかったが、その間、体の強化だけでなく、頭も柔軟にして帰ってきた。

 復帰から9試合を経た8月21日の試合後、吉田はぼそっとこう言ってほくそ笑んだ。

「復帰してからまだ三振してないんですよ」

 3、4月は84打席で13三振だったが、8月12日に一軍復帰してからは33打席三振がなかった。代名詞であるフルスイングは変わらないが、それ一辺倒ではない柔軟さが加わっていたからだ。特に追い込まれてからは、逆方向に運ぶような巧いバッティングが目を引くようになった。

「前は簡単に終わっていたんですが、今はなるべく、追い込まれたら逆方向を意識して、フォアボールも意識するようになった。以前は全部きた球を(思い切り)振っていたけど、それだとピッチャー有利になってしまうので。いろいろ勉強する時間がありましたから」

■「9本と10本では全然違うので、価値のある1本に……」

 ファームでのリハビリ期間中はテレビで一軍の試合を見て、横浜DeNA筒香嘉智らの打撃を参考にした。

 8月18日の北海道日本ハム戦でプロ初本塁打を放つと、ハイペースで9本の本塁打を積み重ね、3番を任されるようになった。その後、約2週間足踏みしたが、ホーム最終戦となった9月29日に10号を放った。

「9本と10本では全然違うので、自分的には価値のある1本になったかなと思います」

 ワンプレーにあまり一喜一憂しない吉田が、この時は素直に喜びを表した。

 1年目の成績は、4カ月近い離脱が響いて規定打席に届かなかったものの、打率.290、本塁打10、打点34。特に8月以降の活躍は、「大学日本代表で4番を務めた即戦力スラッガー」という前評判を証明するものだった。

 復帰後は、打席で自分の間(ま)を作る余裕もできた。1球ごとに、体の前でバットを揺らし、自分の間合いに引き込みながら構える。

■投手に怖さを与えても「人のことは気にしません」。

 シーズン終了後のフェニックス・リーグでこんな場面があった。10月18日の東京ヤクルト戦。ヤクルトの捕手・西田明央は、吉田が打席に立っているとき、投手の杉浦稔大に向かって「合わせるな! 合わせるなよ!」と何度も、スタンドにまで響く大きな声をかけていた。

 オリックスの田口壮二軍監督はこう語った。

「正尚の雰囲気でしょうね。基本的にはピッチャー主導で投げていくものだけど、打つバッターというのは、知らず知らずのうちにピッチャーが寄っていってしまうもの。やっぱりあれだけ振ると、ピッチャーも怖さは出るでしょうしね」

 ただ、当の吉田は、すぐ後ろにいる捕手のそんな声が全く聞こえていなかったという。

「集中してるので。人のことは気にしません。自分のペースで行くだけです」

 普段から先輩たちに「超のつくマイペース」と評される吉田は、打席でもマイペースを貫けるところが強みのようだ。

■守備走塁は「自分のためやと思って」謙虚に取り組む。

 振る力と対応力、そして相手を引き込む雰囲気。怪我さえなければ、打つことに関してはチームの主軸を担っていく存在であることは疑いようがない。

 そんな吉田がこの秋、テーマにしているのが“守備”と“走塁”である。

「僕は8回、9回に代えられてる選手なんでね。常に出るためにはそこが必要だと思っています。それに、バッティングは言われなくてもやるんで。守備走塁は今、佐竹コーチにいろいろ細かいところを言ってもらっています。自分のためやと思って、謙虚に取り組んでます」

 佐竹学一軍外野守備走塁コーチは、まずボールの握り方から指導したと言う。

「彼の投げるボールは回転が汚くて、取りづらいので、握り方から言って、きれいな回転のボールを投げさせるところから始めています。まずキャッチボールをしっかりすること。それに打球に対する寄り付きが遅いので、速く打球まで行くこと。そういう基本的なことがまだ一軍レベルのスタートラインまできていない。『アマチュアの時はそういうことに興味がなかった』と本人ハッキリ言いましたからね(苦笑)。一からです。

 打つことに関してはそれなりのものを見せてくれましたが、これから10年、15年レギュラーを張っていくにあたっては、守備、走塁も身につけてもらわないと。盗塁も、足が遅くてもやらないわけにはいかない。レギュラーを張る以上は年間10~15個ぐらいはしてもらいたい。彼自身も必要なことだと自覚しているし、興味が湧いてきたようです」

 今年のように試合終盤、守備固めや代走を送られて、最後の一打席をみすみす他の選手に渡してしまうことがなくなれば、来年以降、吉田が胸のすくスイングで、勝負を決めるシーンがきっと増えるに違いない。