- 大学野球
2017.08.07 06:00
【新鋭校のチーム作り】報われるシステム作りと妥協なき姿勢を求めて(環太平洋大・野村昭彦監督)
2015年、2016年と2年連続で明治神宮大会8強に進んだ環太平洋大学(中国地区大学野球連盟)。指揮を執るのは就任5年目の野村昭彦監督だ。
野村監督は広島東洋カープ前監督の野村謙二郎氏の弟にあたり、大分・佐伯鶴城高校でエースとして甲子園8強、駒澤大では名将・太田誠元監督のもとで主将を務め、日本石油(現JX-ENEOS)では都市対抗野球優勝2度を経験してきた名選手だ。
そんな野村監督が日本石油と駒澤大のコーチを歴任した後、2013年に監督として就任したのが、当時創部7年目の環太平洋大だった。当時チームは中国地区大学野球連盟の2部リーグに低迷していたが、野村監督のもとで近年は全国大会上位を狙えるチームになってきた。
★成長の瞬間やきっかけを見逃さない
昨秋の明治神宮大会準々決勝、環太平洋大は佐々木千隼投手(現ロッテ)擁する桜美林大に敗れた。その試合後、野村監督は1人の選手を称えるとともに、他の選手たちに苦言を呈した。
7点ビハインドの8回裏に4年生エースの和田洸輝投手(現JR北海道硬式野球クラブ)が自らのバットで三塁打を放ち、一矢を報いた。そして、ベンチから差し出されたウィンドブレーカーの着用を拒んだ。
11月の寒さに加えて、雨も降りしきる中だったが「1点ずつ返していく」という姿勢をエース自ら示した。だが、次打者は空振り三振に終わった。9回も無得点に終わった。
「和田が気持ちを伝えたのに、それを返せなかった3年生以下に“何を教えてきたんだ”ということは言いました。1回1回リードオフもしていた和田の姿を、ベンチに出ていた者もスタンドにいた者も目に焼き付けておくようにと伝えました」
野村監督はこうした姿勢や振る舞いに関しては妥協なき姿勢を貫いている。「野球は人生そのものが出るんです」とも言う。そのため練習中は目を光らせ、気になったことがあれば、練習を1度止めてでも選手たちに改善点やその根拠を説いていく。そして、目を光らせるのはミスや短所ばかりではない。
「1球で下手になることもあれば、1球で上手くなったり、流れが変わるのが野球。そこを見逃さないようにしたいんです」と選手たちの成長やそのきっかけ作りにも心を砕く。
その最たるものが、年間通して多く行われる「部内リーグ」だ。155人の部員を4チームに分けて行う。チームの状況に合わせて戦力を均等にしたチーム編成にする場合もあれば、「学年の結束を高めて欲しい」と学年別にチームを編成することもある。
そして、そこで結果を残せば翌週から公式戦のベンチに入れることも多く、部内リーグには優勝チームへの理事長杯やMVP、首位打者のトロフィーまである。
岡田拓己内野手(3年・岡山東商)は、1年春にこの部内リーグで活躍しその年の6月からAチームに昇格。現在は主将を務める岡田は「みんなが上手くなれる環境があります」と話す。また野村監督も「頑張れば報われるシステム」と語る。こうすることで、全部員に競争意識が高まる。
この日の取材は、全体練習前に行われた。授業を終えた選手たちが続々と集まってくるが、先に着いた選手たちが学年に関係なく水撒きやグラウンド整備などを率先して行っていく。「自分たちが1球でも多く練習するためですから」と野村監督は平然と語るが、こうした細かな積み重ねが、全国大会の舞台で強豪校と互角に渡り合えている大きな要因であることは間違いない。
そして、その環境で過ごす4年間がかけがえのないものだと野村監督は言う。「18歳までの大きな夢である“甲子園”というものが終わった時にどう考えるか。1人との出会いで人生が変わることもある。大学は全国から人が来ていますから、その縁に気付いていくことができるはず。気持ちさえあれば伸びしろはいくらでもあるんです」
大学野球は高校時代に華々しい活躍した者しか立てない舞台ではない。有名選手はいなくても、それぞれが高め合うシステムを作り、その大切さに部員たちが気づいていくことができれば、全国大会で活躍を遂げることができる。
そうした説得力が環太平洋大のグラウンドにはあった。
文・写真=高木遊