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田中将大が3年目で飛躍遂げた要因 「防御率1.94」、数字が示す大きな違い


ヤンキースの田中将大投手は今季、大きな飛躍を遂げた。メジャー3年目にして初めて1年間、先発ローテーションを守り、31試合登板で14勝4敗、リーグ3位の防御率3.07をマーク。大台のシーズン200イニングには1/3イニング届かず199回2/3で終えたものの、名門球団のエースとしての立場を確立した。

■投球スタイルの変化が「ようやくハマった」、今季は「すごくいい循環に」

 ヤンキースの田中将大投手は今季、大きな飛躍を遂げた。メジャー3年目にして初めて1年間、先発ローテーションを守り、31試合登板で14勝4敗、リーグ3位の防御率3.07をマーク。大台のシーズン200イニングには1/3イニング届かず199回2/3で終えたものの、名門球団のエースとしての立場を確立した。

 チームはトレード期限までに主力を大量放出しながら、若手選手の躍動で盛り返し、終盤までプレーオフ進出を争った。最後に惜しくも脱落したものの、田中個人は米メディアの報道でサイ・ヤング賞候補として名前を挙げられるほど、存在感を見せた。来季は日本人初の栄誉に期待がかかる。

 ヤクルト、日本ハム、阪神、横浜の4球団で捕手としてプレーし、テレビで大リーグ中継の解説も務める野口寿浩氏は、さらなる飛躍へ向けて田中には明るい材料があると指摘する。

 まずは、今季、田中が飛躍を遂げられた理由として、野口氏は新たなピッチングスタイルの“確立”を挙げる。昨季開幕前から取り組んできたツーシーム主体の投球をようやく自分のものにしたというのだ。

「ピッチングスタイルをツーシーム主体に変えたのが、今年はようやくハマってきました。昨季よりも強いツーシームになってきた。ようやく慣れてきたという印象です。ツーシームが良くなってきたおかげで、また外のフォーシーム(直球)も投げられるようになった。そうなってくると、フォーク、スライダーが生きてくる。すごくいい循環になっていることは間違いないですね。まずはピッチングスタイルがハマって、田中のものになったというのが大前提にあります」

■田中の輝きが増した後半戦

 メジャー1年目の2013年、田中は力強いフォーシームとスプリットを中心とした投球で、開幕から14試合目まで11勝1敗、防御率1.99と圧巻の成績を残した。16試合連続でクオリティースタート(QS、6回以上を投げて自責3以下)もマーク。メジャーを席巻したが、一方でフォーシームをスタンドインされる場面も目立ち、5試合連続で被弾することもあった。さらに、7月には右肘靭帯部分断裂を負い、約2か月半の長期離脱を強いられた。

 2年目はキャンプからツーシーム主体の投球に取り組んだが、昨年も24試合で25被弾と一発に泣くことは多かった。今季は31試合で浴びた本塁打は22本。下位打線までパワーのある打者がそろい、失投が命取りとなるメジャーリーグ。被本塁打数は、日本時代から考えると、まだまだ多く感じるが、大幅に改善したことは間違いない。ツーシーム主体で凡打に仕留めながら、勝負どころではスプリットやスライダーで三振を奪うスタイルで好投を続けた。9月15日のレッドソックス戦では、7回4安打1失点の好投で、日米通じて初の奪三振ゼロという“珍現象”もあった。

 メジャー3年目にして、高い適応能力で結果を残し始めた田中。野口氏は「周りに96、97マイル(約155、156キロ)のフォーシームをバンバン投げる投手がいるから、田中としては『それと張り合っても……』というところではないでしょうか。そういうピッチングも出来るピッチャーだとは思いますけど、そうでなく抑える術があるならば、そっちを取るのもいいと思います」と話す。

 そして、田中の投球がより輝きを増したのが後半戦。これに、驚異のルーキーとしてヤンキースファンを熱狂させたゲーリー・サンチェス捕手が貢献していることは間違いない。53試合で打率.299、20本塁打、42打点という圧倒的な打力が注目されたサンチェスだが、女房役として田中との相性は抜群だった。それまでレギュラー捕手だったブライアン・マッキャンとは、いったい何が違ったのか。野口氏は言う。

■防御率「4.17」、「2.16」、「1.94」が示すもの、「田中は圧倒的に試合を支配できる」

「変化球でカウントを取って、変化球で勝負する。マッキャンと組んでいる時は、基本的にそういう形でした。そうなってくると、どうしても苦しい。何とか抑えても、すごく苦しそうな投球に見えました。おそらくですが、マッキャンの言い分としては、『あれだけいいスライダー、いいスプリットを持っているから、その場その場で勝負している』ということでしょう。ただ、(試合の)流れどうこうではなく、プレーボールの最初のボールから変化球を使って、追い込んで、真っ直ぐを見せて変化球勝負、となってしまっていた。これでは長持ちしなくなります。

 逆に、サンチェスはオーソドックスだった。立ち上がりはフォーシームやツーシームといった速球中心でいって、追い込んだらスプリットやスライダーという形です。あとは、もう1人の捕手の(オースティン・)ロマインやサンチェスだと、田中は首は振らないけど、頷かない。自分が思ってる球種が出るまで、待っている。マッキャンだと少し遠慮があるのかな、というのもありました。ちょっと田中自身が思ってるのと違うサインが出ることも多かったのではないかと。特に、スプリットが続いたりとか。もちろん、時にはそういうことが必要な時もありますけど、マッキャンはそれが多かった。今季はまずツーシームを使えるようになって、さらに自分が思うように組み立てられるようになってきたのだと思います」

 数字の違いは明らかで、今季はマッキャンと組んだ15試合が防御率4.17、ロマインと組んだ9試合が同2.16、そしてサンチェスと組んだ7試合は同1.94となっている。来季も田中が先発の試合はサンチェスが先発マスクを被ることが確実なだけに、期待が持てる。

 ただ、サンチェスは若い捕手だけに、当然、来季も続けてうまくいくとは限らない。今年もリードに改善点が見られることはあったという。

「速球中心でいって、追い込んだらスプリットやスライダー。サンチェスは、まだ判を押したようにリードがそうなってしまう。だから、追い込んだ直後にストライクからいいところに落ちていくスプリットを見逃されることがある。なので、マッキャンのリードのいいところも取る必要があります。それが出来れば、田中は圧倒的に試合を支配できる。今年も支配はしていましたけど、圧倒する感じではなかった。いい時のダルビッシュのように、相手が手も足も出ないピッチングが出来るようになるのではないかと思うのです」

 確かな手応えを掴んだスタイルで、活きのいい若手捕手と共にメジャーの猛者たちを牛耳る。来季、サンチェスとのコンビがさらに良くなれば、日本人初のサイ・ヤング賞という快挙が現実味を帯びてくる。

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