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いざという時、いち早く支援を届けるために――プロ野球選手会が“選手会ファンド”を設立


©Civic Force

12月6日、日本プロ野球選手会(以下、選手会)は「日本プロ野球選手会災害支援基金(通称:選手会ファンド)」の設立を発表した。同基金は、災害支援のプロフェッショナルである公益社団法人シビックフォースとパートナーシップを組むことにより、「緊急対応」「復旧・復興」「防災」といった災害支援のあらゆるフェーズに貢献することを目的としている。

選手会は、これまでも様々な不測の事態にアクションを起こしてきた。新潟県中越沖地震では風評被害払拭のための復興支援に尽力し、その際にスタートした12球団の選手が集うキャッチボールイベント「ベースボールクリスマス」は現在でも続く選手会恒例の催しとなっている。

東日本大震災の直後には、選手たちが試合前に被災地を訪問するプログラムをNPBとともに実施。福島県の訪問事業の中からキャッチボールを競技化した「キャッチボールクラシック」が生まれ、福島発の競技として全国、そして世界へと広がっていった。

その他にも、宮崎の口蹄疫被害、熊本地震、広島や岡山での水害など、様々な局面で選手たちは自らの寄付、被災地の訪問、クラウドファンディングによる支援募集を実施してきた。昨今のコロナ禍においては、選手会が「新型コロナウイルス感染症:拡大防止活動基金(コロナ基金)」への協力をいち早く表明し、結果的に日本のクラウドファンディング史上最高金額となる8億超の寄付が集まって社会的ムーブメントとなった。

このようなアクションを通じて、毎年のように各地で災害が起きる中、「何かが起きてからではなく、いざという時のためにいち早く支援できるよう備えたい」「ただ寄付するだけではなく、より自発的・能動的に行動を起こしたい」という意識が選手たちにも徐々に芽生えていった。そして、選手だけが参画するのではなく、全国に多数存在する野球ファンの力も集約できるような仕組みづくりへと動くこととなり、この度選手会ファンドが発足した。

選手会の森忠仁事務局長は選手会ファンドについて、「まずは選手自身が意識を高めていくこと。その上で、“いつか考えればいいこと”を“今すぐ考えること”に変えていくための呼びかけを行ったり、被害が起きた時にはプロ野球ファンの皆さんに必要な支援を呼びかけたり。そういったことを、この基金を通じて実践していければと考えています」と期待を寄せている。

選手会ファンドでタッグを組むことになったシビックフォースは、東日本大震災以降、ほぼすべての国内災害でいち早く緊急支援活動を展開。近年は空飛ぶ捜索医療団ARROWSの一員として、捜索・人命救助や病院支援に力を入れ、避難所等での物資配布や復興を見据えたまちづくりのサポートにも尽力している。さらに発災時だけでなく、日頃からの防災活動にも取り組んでいる。同団体のこのような活動実績にプロ野球が持つ影響力・発信力が加われば、全国の野球ファンを巻き込んでさらに大きな支援を届けられることが期待できそうだ。

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選手会とのパートナーシップについて同団体の代表・根木佳織さんは、「各地で大災害が相次ぎ、私たちの緊急出動の機会も増えています。日頃の連携こそ、いざというときの迅速かつ的確な支援につながります。被災地の人々が再び立ち上がるために、一緒に活動を支えてくださる野球界の皆さんの存在がとても心強いです」と語っている。

選手会ファンド設立を機に、12月11日(土)12時(正午)より12球団の選手が参画するクラウドファンディングが開催される。このプロジェクトで集まった資金や選手会ファンドに直接寄せられた寄付は、シビックフォースの専門家としての見地・判断のもと、初動の現地調査を含む災害発生時の支援の費用として活用されていく。

この「初動の現地調査」が災害支援の肝とも言えるものだが、その重要性への理解はあまり進んでいない。根木さんは「ヘリコプターで調査をした結果、すぐに緊急支援が始まることもあれば、緊急支援は不要という結論に至ることもあります。いち早く現場の情報を取りに行くのは必要不可欠ですが、それだけで寄付を集めるのは難しいのが現状です。だからこそ今回初動の現地調査を含め支えていただけるのは本当にありがたい。私たちは安心して速やかに被災地へ赴くことができます」と言う。こういった災害支援の実態を啓発する意味でも、選手会ファンドの役割は大きいと言えるだろう。

クラウドファンディング実施以降も、災害が発生した際には選手会による緊急支援を行い、その際に集められた寄付も選手会ファンドに届けられ、同様に活用される。また、選手会はシビックフォースからのフィードバックを受け、社会に対して現状を報告したり、さらなる支援の呼びかけを発信したりといった役割も果たしていく。もちろん日頃から防災の啓発においてもメッセージを積極的に発信し、ゆくゆくは防災訓練の勉強会やイベントも開催する意向だ。

これからの時代は国民一人一人が自らの命を守るため、平常時からの“備え”を意識することが求められていく。今回のファンド設立は、単に支援を届ける役割だけにとどまらず、日本における防災の新たな意識づくりにも繋がっていくだろう。