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独立リーガーが語るベネズエラ野球(後編)アレックス・トーレス【WORLD BASEBALL vol.36】

アレックス・トーレス投手

 プレミア12に出場する強豪、ベネズエラ。来日する選手は少なくないが、この国の野球がどんなものかを知る人は少ないだろう。今回も前回に引き続いて、ルートインBCリーグの群馬ダイヤモンドペガサスで活躍するベネズエラ人選手のインタビューからベネズエラ野球を探る。

 今回は、メジャーの舞台にも立ち、WBCでも代表チームのメンバーに選ばれた経験をもつ、アレックス・トーレス投手にスポットを当てる。

 ベネズエラ人の男子の多くがそうするように、トーレスも、ものごころついた時には野球に興じていたという。

 彼がエンゼルスと契約を結んだのは、2005年、17歳の時、契約金4万ドル(約440万円)、月給600ドル(約6万6000円)からのスタートだった。エンゼルスは、当時ベネズエラにアカデミーをもっておらず、彼はドミニカのアカデミーに送られることになった。同じラテン系の国と言えども、やはり外国には違いない。17歳の少年にとっては、それなりに気苦労があったという。

 「ドミニカは、言葉は同じスペイン語で、食べ物は多少違ったけど、そこは気になりませんでした。ただ、ドミニカの文化というものをまったく知らなくて、そこには違和感を感じました。それで、ドミニカでワンシーズン送った後、翌年にはアメリカに行くことになりました」

 2006年のルーキー級・アリゾナリーグを皮切りにトーレスは順調にマイナーの階段を上がっていき、レイズに移籍。2Aでシーズンを送った2010年のオフにはベネズエラのウィンターリーグでもデビューを果たす。

 ベネズエラ人がここでプレーするには、国内クラブからスカウトされファームチームから始めるか、メジャー球団にスカウトされ、アメリカのマイナーでスキルアップした後、ベネズエラ球団と契約を結ぶかのどちらかになる。マイナーのベネズエラ人コーチの多くは、ベネズエラ・リーグの指導者も兼ねていて、彼らはアメリカでの夏のシーズン、スカウトとして冬のシーズンに必要な選手を物色しているのだ。

「メジャーの球団とベネズエラの球団が提携していて、メジャー球団がベネズエラで育ててほしい選手をベネズエラのチームに提示するんです。それでお互いの話がついて初めてベネズエラの国内チームと契約できます」

 トーレスはハイレベルなベネズエラ・リーグでの初めてのシーズンを送った翌年、ついにメジャーデビューを果たし、初勝利も挙げている。トーレスがレイズで初めてメジャーのマウンドに上がったときのことは今も鮮明に覚えている。

 両国のトップリーグを経験した彼の目には、意外だが、我々日本人がしばしば同一視する、両国の野球には違いがあると映っている。

 「やはりラテン野球には、プレーしたい、という熱さがすごくあると思うんです。アメリカ人の場合、もっと考えてプレーしていますね。私には、ベネズエラ人がもつハングリーさが大事だと思うのですが、私の目からは、アメリカ野球むしろ日本野球に似ているんじゃないでしょうか。野球に対する考え方だったりとか。スモール・ベースボールは日本の強みじゃないですか。我々からすると、だからどちらかと言うと、アメリカ野球はそういう日本野球に似ているのではないかと思いますね」

 むしろ日米の野球に違いがあるのは、スタンドファンの気質だとトーレスは言う。

「ベネズエラとアメリカのファンはだいたい似ています。チームが調子良かったら喜んで応援するけれど、調子が悪いとファンも黙ってしまうんです。でも、日本のファンには本当に感心します。マナーを守って、チームが攻撃している時には、凄く応援してくれるじゃないですか。負けていても勝っていても、チームとファンが一体となって応援します。味方の攻撃が終われば、相手チームが同じことをしていて、ファンの温かさを感じます。非常にありがたいですね。独立リーグでもそうですから。

 NPB(プロ野球)の試合も観に行ったことがあるんですが、熱気はすごかったです。ベネズエラではカラカスとマガジャネスというのが2大チームで、日本で言うと巨人と阪神みたいな感じですごい熱気なんですが、日本ではすべての試合が熱気に包まれていますね。ワールドシリーズでプレーしたことがある選手でも、日本のスタジアムでプレーするのは簡単じゃないなと思います」

 この冬も、トーレスはウィンターリーグでプレーするという。しかし、国情の悪化は彼らにも暗い影を投げかけている。高給取りの野球選手は強盗の格好の狙い目なのだ。

 トレース自身、2年前には試合後に車で追いかけられたが、危うく難を逃れている。彼も、他のメジャーリーガーの多くがするように、アメリカへの移住も考えたが、永住権を得ることができず、いまだそれを果たしていない。

 しかし、母国を離れるということと、「ベネズエラン」であり続けることとは別物である。国際大会、とくにWBCともなると、母国に帰ることのなくなったメジャーリーガーたちもベネズエラの誇りにかけて戦うという。トーレス自身、2013年大会の代表チームの一員としてその舞台に立った。

 「やはり子ども頃から国を背負うのは光栄なことだと思っていました。実際にWBCの代表に選ばれた時は、本当に光栄に感じました。それに、周りが凄いスーパースターばかりだったので、それが一番印象に残っています。我々には日本と韓国みたいに特別なライバル関係にある国はありません。相手が誰だろうが目の前の試合を勝ちに行くんだという気持ちです」

 強豪と言われるベネズエラだが、プロ参加の主要な国際大会で目立った成績はあげれていない。トーレスは、それはベネズエラ野球の構造に原因があるという。

 「我々には日本ほど国際大会に対する準備期間を設けていません。ベネズエラの選手は、アメリカの球団と契約を結んでいますので。自分のシーズンにも集中しないといけないし、ケガの心配もせねばなりませんから。だからチームとして練習する期間は少ないと思います。本気か本気じゃないかというより、準備の問題だと思います」

 代表チームの編成も、個々の大会の代表チームのゼネラル・マネージャーから声がかかるだけで、日本のように入念な選考が行われるわけではない。今回のプレミア12ではトーレスに声がかかることはなかったが、彼自身は、代表チームから声がかかれば、喜んでプレーしたいと国際大会への意欲を見せた。

文/写真:阿佐智