2019.08.18 12:00
2019 WBSC プレミア12出場国の展望 ~メキシコの戦力分析~【WORLD BASEBALL vol.24】
「秋のメンバーがどうなるかわからない。そもそも自分が監督をするかどうかもわからないのだから」
3月に行われた侍ジャパンとのテストマッチを終えて、メキシコ代表、ダン・フィロバはプレミア12に向けてのチーム編成についての質問にこう答えていた。
前回大会、メキシコはプロアマ間の対立などもあり、「国外組」のアメリカマイナーリーガーの有望株はおろか、国内トップリーグのメキシカンリーグの選手もほとんど参加しない「二軍」以下のチームを送ってきた。
参加した選手のほとんどはマイナーの下位クラスもしくは独立リーグ所属のメキシコ系アメリカ人だった。国内での選手調達が難航する中、出場辞退によるペナルティを避けるための苦肉の策だったのだが、それでも蓋を開ければ、3位決定戦で侍ジャパン相手に大敗を喫したものの、東京ドームの準決勝まで駒を進め、メキシコ野球の層の厚さを世界中に示した。
この後、メキシコ球界は二大プロリーグである夏のメキシカンリーグ、冬のメキシカンパシフィックリーグ、それにメキシコ野球連盟が「挙国一致」体制を構築していく。今回のプレミア12には、現状で可能な限り最高のチームを送り込んでくるだろう。
おそらくは、3月のテストマッチで来日したメキシカンリーグの主力にアメリカに渡った有望株、それにFAとなったメキシコ人メジャーリーガーを加えた布陣になると思われる。まだ、ロースターが発表されていない時点であるが、ここでは「ベルデス・グランデ」(メキシコ代表チームの異称)の予想メンバーの中から注目選手を何人か紹介したい。
まず打線から。
3月に行われた侍ジャパン・シリーズにおいてスタンドのファンの一番人気は、ルイス・フアレス(ユカタン・レオーネス)だった。身長173センチで100キロを超える巨漢の彼が懸命にベースを駆け巡る姿は、日本のファンには少々ユーモラスに映ったようだが、彼はメキシカンリーグを代表する好打者である。WBCにも2013年大会に参加、今シーズンもここまで打率3割、2ケタ本塁打をクリアしており、プレミアでも主軸が期待される。
3年前秋の侍ジャパン強化試合で千賀(ソフトバンク)から左中間にホームランを打ったエステバン・キロスには攻守にわたる要が期待される。当時は名門、キンタナロー・ティグレスの不動のショートだった彼も、翌年以降はセカンドにコンバート、昨年レッドソックスと契約し、アメリカへ進出後は、順調にマイナーの階段を上がり、今シーズンはパドレス傘下の3Aでシーズンを過ごした。
また、シーズンの成績は今一つであったが、アジアの野球に慣れているという点を買って、クリスチャン・ビヤヌエバ(巨人)、エフレン・ナバーロ(阪神)の「日本組」の参戦もあり得るだろう。
投手陣についてはなかなか予測は難しいが、メキシカンリーグ組としては、打高投低のこのリーグにあって7年連続2ケタ勝利と安定した働きをしているエマニュエル・アビラは外せないだろう。また、今季は2ケタ勝利は難しいようだが、防御率はメキシコ人投手で2位(リーグ4位)のホセ・サマジョアも必要な戦力だ。このふたりもまた代表チームのメンバーとしてこの春に来日している。
また、今シーズンはメジャーのマウンドにも立ったが、もっぱら3Aで過ごしたメジャー通算25勝で前回WBCのメンバーでもあるフェルナンド・サラス(フィリーズ)もシーズンが終わればFAになる公算が強く、そうなれば翌シーズンに向けてのアピールも兼ねて本大会に参加するだろう。
ただ、ネックとなるのはウィンターリーグのスケジュールだ。この冬のシーズン開幕は例年通り10月第2週末。つまりプレミア12のスケジュールと重なっている。
メキシカンパシフィックリーグが「挙国一致」体制にどの程度協力するかがメキシコの浮沈を左右すると思われる。しかし、オープニングラウンドをこのリーグ所属のチャロス・デ・ハリスコの本拠、グアダラハラで開催することを考えると、プレミア12の結果はその後のリーグのファン動員にも影響を及ぼす。
そういう意味で、今回の布陣はかなり強力なものになることに期待したい。
文・写真=阿佐智