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登録枠拡大はリリーフ酷使時代の歯止めとなるか【NISSAN BASEBALL LAB】

写真提供:共同通信

 NPBでは今季から、一軍の出場選手として登録できる最大人数が28人から29人に拡大された。若手選手の出場機会創出などを目的としたルール変更だが、当然ながらシーズンの戦い方にも影響が出る。

 もっとも、直接的なデメリットは特に思い当たらず、現場にとっては選択肢が増えるメリットしかない。開幕しておよそ1か月、各チームはこのルールをどのように活用しているのだろうか。

 今回のルール変更に際し、実際にその日の試合に出場させることができる「ベンチ入り」の人数は25人のまま変更がなかった。ただし、登録人数が29人となったことで、登録を抹消せずにベンチ外にできる人数が3人から4人に増えた。これによって、より柔軟な選手起用が可能となる。

 従来の28人制では、5人の先発投手を登録した場合、このうち3人をベンチ外にし、残り2人をベンチ入りさせるのが基本だった。ローテーション固定で6人の先発投手を登録する場合は、3人をベンチ入りさせる。

 ベンチ入りした先発投手のうち1人はその日の先発だが、残りの投手はよほどのことがない限り試合には出場しない。その結果、実質的に起用できる選手の数が削られ、人員配置に制限が生じていた。29人制になれば、この問題を少なからず解消できるというわけだ。

 では、実際にどうなっているか、データを確認しよう。

■29人制によってベンチ入り選手がアクティブになる

 これは、一軍登録されている先発投手の人数ごとに、各試合でベンチ入りした選手の内訳を示したものだ。昨季と今季、それぞれNPB全チームの平均値を表している。28人制だった昨季は、先発投手が4人しか登録されていない場合は野手16人、先発投手1人、リリーフ投手8人をベンチ入りさせるのが一般的となっているが、先発投手5人登録、6人登録になると野手かリリーフ投手の人数が削られていることがわかる。

 また、ベンチ入りの合計人数が24.4人、23.6人となっていることから、先発投手をベンチに入れても仕方ないのであえて25人枠を埋めないという選択もあることがわかる。

 対して、29人制の今季は先発投手を5人登録しても4人登録時と同じようなベンチ入り構成になっている。前述の通り、5人のうち4人をベンチ外にできるので、実質的に試合に出られない選手をベンチ入りさせる必要がなくなり、25人枠をフルに使えている状態だ。先発投手6人登録になっても、野手かリリーフ投手を1人削るだけで済んでいる。28人制では、2人を削る必要があった。

 このように、29人制によってベンチ入り選手をよりアクティブに使えるようになったことがわかる。ただし、その中で野手陣を手厚くするのか、リリーフ陣を手厚くするのかはチームによって判断が分かれるところだ。次は、チームごとのデータを見てみよう。

■対照的な巨人と楽天の人員配置

 これは、今季の各チームの出場選手登録とベンチ入りの人数の内訳を示したものだ。先発ローテーション投手が出揃う開幕6戦目以降、4月23日までの試合開催日を対象に平均値を表している。

 やはり29人制を利用し、先発投手を5人登録してそのうち4人をベンチ外、野手16人とリリーフ投手8人をベンチ入りさせているチームが多い。その中で特徴的かつ対照的なのが巨人と楽天だ。

 巨人は野手17人、先発投手4人、リリーフ投手8人を登録し、試合では先発投手3人とリリーフ投手1人をベンチ外とする方式を主に採用している。5、6番手の先発投手は外国人枠の影響もあり常時一軍には登録せず、ファームとの入れ替えをしながらやり繰りする形だ。
 
 試合でのブルペン要員は7人で、一般的なチームに比べると1人少ない。これは、先発投手のイニング消化に自信がないとできない戦い方だろう。

 菅野智之と山口俊はここまで全ての登板試合で6回以上を投げている。彼らのような計算できる投手がいるから、8人登録されているリリーフのうち1人を日替わりでベンチ外にし、7人のブルペンスタッフで試合に臨むことができる。

 事実、巨人の先発投手の平均投球回は12球団で最も多く(6.3回)、1試合あたりのリリーフ起用人数は12球団最少だ(2.6人)。野手17人は少しだぶついている感も否めないが、シーズン序盤のうちに多くの野手を一軍で使いたいという意図があるのかもしれない。また、クローザーのクックが離脱したため、今後はブルペンに人数を割く可能性もある。

 一方で、楽天は野手15人、先発投手4人または5人、リリーフ投手9人を登録し、先発投手3人または4人をベンチ外とする方式を採用している。特に、リリーフ9人体制は開幕から一度も崩していない。

 則本昂大、岸孝之の離脱によって手薄になった先発投手陣を、リリーフの枚数でカバーしようという意図が見て取れる。先発投手を5人登録してもリリーフ9人体制を維持できているのは、29人制の恩恵といっていいだろう。

■3連投をさせないためのリリーフ9人体制

 楽天のリリーフ9人体制についてもう少し掘り下げてみよう。今季の楽天はここまで高勝率を残していることもあり、勝ちゲーム要員である松井裕樹やハーマンに登板が集中している。前述の通り則本、岸が抜けた先発投手陣は6回未満でマウンドを降りるケースも多く、基本的にリリーフ陣への依存度が高い。

 チーム全体のリリーフ登板数、連投数ともに12球団最多と、残りのシーズンを考えるとやや心配な状況ではある。しかし、その中で3連投が一度もないのは意外だ。このあたりはチーム方針によって明確に管理されているようで、9人体制だからこそできる運用といえるかもしれない。

 もちろん、シーズンが進むにつれ、3連投を解禁する必要も出てくるだろう。今は疲労を溜めないことを最優先にしているかもしれないが、ペナントレースの上位が見えてきたら、連投中の松井やハーマンを投入せざるを得ない大事な試合、局面も増えてくるはずだ。ブルペン運用には時にチームのシーズン戦略が見え隠れする。

■リリーフ酷使時代に突入するのか

 近年のNPBは先発投手の平均投球回が徐々に少なくなり、リリーフ投手への依存度が高まっている。昨季は登板数70試合以上の投手が両リーグに3人ずつ現れるなど、一部の投手のハードワークが目立った。掲出のグラフの通り、NPB全体の3連投の回数も大幅に増加している。打高投低の傾向も手伝って、この流れはしばらく続きそうな気配だ。

 2連投はいいが3連投はダメというのもナンセンスかもしれないが、何がどの程度投手の肉体に悪影響を与えるかがはっきりとわからないからこそ、シンプルな運用ルールを作って投手を守る、ということも必要なのではないだろうか。
 
 その意味で、今回の登録枠拡大は一助となる可能性がある。実際に、今季の3連投の数は昨季の同時期に比べて3割減、特にパ・リーグでは3分の1にとどまっている。ロッテも4月中旬以降は楽天のようなリリーフ9人体制を採用しているようだ。

 先発投手陣が弱くリリーフへの依存度が高いチームや、故障者が出た時に代わりとなる投手が潤沢でないチームにとっては、特に恩恵があると考えられる。投手の打順に代打を用意しておかなければならないセ・リーグで野手を15人にするのは難しいかもしれないが、チームによっては検討する価値があるのではないだろうか。

 リリーフの登板過多が続けば選手の短命化につながる危険性もあり、チームだけでなくプロ野球界にとっても損失となりかねない。ルールをうまく活用し、質の高い野球と選手の健康が両立されることを願う。

※データは2019年4月23日時点

文:データスタジアム株式会社 山田 隼哉