- プロ野球
2019.11.21 12:00
実力人気ともに台湾一の球団が何故身売り? Lamigoモンキーズのこれまでとこれから<前編>【Global Baseball Biz vol.33】
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2019年秋、ある台湾球団が一つの時代に幕を下ろした。
Lamigoモンキーズ――台湾シリーズで三連覇を果たした中華職業棒球聯盟(CPBL)最強チームで、観客動員も国内最多を誇る。そんな彼らは、2020年シーズンから新しいチームとして生まれ変わる。楽天株式会社への球団売却が決まったのだ。
今回は球団社長兼GMの劉玠廷(リュウ・ジエティン)氏にインタビューを行い、Lamigoの”これまで”と”これから”についてを伺った。前半となる今回は、これまでの歩み、そして売却に至った理由を振り返りたい。
■事業運営にチーム整備、グッズ制作から鳴り物応援まで
劉氏はLamigoの前身であるLa Newベアーズ設立時の2004年から球団に所属。在職中に数年間海外へ留学し、帰国して現在の役職に就いたという。球団社長兼GMとして、実際にどのような業務をしていたのだろうか。
「日本の会社組織と違って規模が小さいため、社長としては事業面に携わり、GMとしてはチームの戦力面なども見てきました。また、MD(グッズ)についても担当しました。日本では外注が多いと思いますが、台湾は市場規模がそこまで大きくないこともあり、自社内で企画・制作をしていたんです」
「また、台湾の球団は、応援(鳴り物応援)も自社で取り組んでいるので、そういった点も日本球団とは違うと思います。業務内容が多岐にわたるため仕事は大変でしたが、どのジャンルの知識や経験も得ることができたので、自分にとっては良いことだったと捉えています」
大変で疲れることもあったけれど、苦労と感じたことはなかったそうだ。これだけのマルチタスクをこなしながら潰されないのには、理由があった。
「2012年までは球団の経営で特に苦労した時期もありましたが……2013年に球団として大きな改革の時期を迎えて、新しい物事にどんどんチャレンジしていくようになり、次第に多くの方が球場に足を運んでくれるようになりました。そういった過程を自分が関わっている中で実現することができたので、辛いとか、苦しいという風には感じませんでした」
とはいえ、犠牲にしてきたものもあった。家族との時間だ。
「唯一あるとすれば、家族には申し訳ないなと。みんながお休みのときは自分にとっては繁忙期なので、家族と休みが合わずになかなか一緒に過ごす時間を作れなかったので」
■本拠地移転と球団名変更直後に訪れた低迷期 応援改革で一躍人気球団へ
Lamigoは2011年に高雄から桃園に本拠地を移転し、同時にチーム名もLa Newベアーズから変更したという経緯がある。新しい土地でのリスタートは、翌2012年になってもなかなかうまくいかなかった。そんな中で多くの人に受け入れられ、人気を得たきっかけが「野球応援」だった。
「2013年に電子音楽を使った応援スタイルを取り入れた際、ファンの皆さんに受け入れてもらえただけでなく、今まで来たことがなかった方が球場にたくさん詰めかけるようになったんです。そして、今のような大きなご声援をいただけるようになりました。これが今までやってきたことの中で一番嬉しかったことですね」
現在の応援スタイルは、韓国プロ野球リーグ(KBO)の応援に着想を得て台湾用にローカライズされたものだ。2012年に韓国・釜山で行われたアジアシリーズがきっかけとなったという。この応援スタイルが定着した今では、Lamigo、そして台湾野球の魅力に「応援」を挙げる人も少なくない。
「CPBL全体を見ても、弊社はずっと観客動員数一位を保っています。これは皆様から多数のご支持いただけているということと受け止め、大変喜ばしく思っています。また、ここ数年はチームが特にいい成績を残してきていますので、そういったところでもやるべきことをやってきた結果と感じています。しっかり取り組んできた結果、このような『良きもの』をみなさんに遺すことができたのではないかと思います」
■球団を手放すこととなった今 心境は
劉氏は、「20代の頃から40代の今までずっと共に歩んできたこの球団を手放すこととなり、とても名残惜しい」という。しかし、売却に至ったのは極めて前向きな理由からだった。
「名残惜しさはありますが、しかしながら、弊社のような中小企業がプロ野球チームを経営するという一つの時代が終わったのではないかと認識しています。日本の大企業である楽天が経営していくにあたり、企業体力の大きさからより充実した球団経営が出来るのではないかと思い、譲渡を決意しました」
2020年シーズンは楽天が参入するだけでなく、新たに5球団目が参入する予定とのこと。CPBLにはそこから更なる発展を願っているという。
「私の考えとしては、将来的にもう1チーム増えて大企業が経営する6球団のリーグになれば台湾球界全体が盛り上がると思います。野球をやる子どもたちも増えて、より一層活気づくのではないでしょうか」
次回後編では、Lamigoとして最後の一年について、今後のチーム・リーグへの展望などを紹介したい。
インタビュー後編はこちら実力人気ともに台湾一の球団が何故身売り? Lamigoモンキーズのこれまでとこれから<後編>【Global Baseball Biz vol.34】
文:戸嶋ルミ