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荒波翔が感じたメキシコ~海を渡り挑戦する人にエールを【Global Baseball Biz vol.25】

元・横浜DeNAベイスターズの荒波翔さんが青空を背景に立っている所

【撮影:戸嶋ルミ】

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 前回に引き続き、元・横浜DeNAベイスターズの荒波翔さんへのインタビューをお伝えしたい。前編ではメキシコ行きまでの経緯や、紆余曲折を経て所属したチームの話などを紹介した。後編では、メキシコで実際にプレーして感じたことや今後について語ってもらった。

>インタビュー前編はこちら
メキシコで「外国人選手」になってみて 荒波翔、海外への挑戦を語る【Global Baseball Biz vol.24】

■選手は何をありきでプレーするのか? メキシコの”Beisbol”と日本の”野球”の違い

 メキシカンリーグのモンテレイ・サルタンズでプレーをして、日本の野球とどういう違いを感じたか。荒波さんの意見を伺った。

「たとえば安打を一つの結果だとして、日本は前に飛べばオッケーで、メキシコはどうせ前に飛ばすんだったらホームランを狙います。日本の子どもたちのプレーを見ていると『三振したらいけない、怒られる』という思いが強いあまり、当てにいこうとする傾向が強いように感じます。

ケースバッティングやチームプレーを重視する日本の野球の良さを否定するわけではありませんが、あまりに結果を追い求めすぎるとスイングもスケールも小さくなっていってしまうのではと思いました。一方でメキシコに豪快なスイングの選手が多いのは『三振してもオッケーで、まずホームランを打とう』という感覚から始まっているところもあると思います」

荒波翔さんが打って走っている所

【写真提供=荒波翔】

「メキシコでは、純粋に野球を楽しんでいる人が多かったですね。プロだから当然結果を出すことは重要ですが……もっと単純に野球を楽しんでやればいいんだなと思いました。あまり結果に囚われすぎると、結果が出なかったときは落ち込んだり引きずってしまいますよね。

勝つことも大切だけれど、自分たちは野球が好きで野球をやっているわけなので。メキシコでは楽しんで野球をやっている分、試合に負けてしまったときも『また明日楽しく野球して勝てたらいいのさ』と、選手みんなが心からそう思って口にしていました。すごく気持ちの切り替えが早かったですね」

 勝利のため・結果を出すためフォームを崩してでも”当てにいく”バッティングをする日本に対し、”自分の出来る最大限のスイング”が結果につながっていくメキシコ。ミスしたら怒られるから、怒られないために限りなく結果を出せることをするのか。やった結果ミスになるかもしれないけれど、楽しく全力でやってみるのか。

 同じゴールを目指すにしても”何ありきで物事に取り組むか”で辿るルートは全く異なるものになるということを、荒波さんはメキシコで目の当たりにしたのだった。

■「外国人選手」になってみて 得られた新しい視点

元・横浜DeNAベイスターズの荒波翔さんが横浜を背景に後ろ向きで立っている所

【撮影:戸嶋ルミ】

 メキシコで感じたことはほかにもあった。現地の人たちは、言葉もあまり通じない荒波さんを暖かく迎え入れてくれたそうだ。言っている内容がわからなくても近くで喋ってくれたりと、自然と自分たちの輪に入れてくれたおかげでチームの中でも孤独感を感じることはなかったのだという。

「じゃあ、これが日本だったら?」荒波さんはふと考えた。グローバル化が進んでいるとは言っても、きっと必ずしもこうはいかないだろう。

 帰国後、荒波さんは日本球界で長年活躍している外国人選手に対して改めて深い尊敬の念を抱いたという。プレーはもちろんのこと、異国で長年生活するのは簡単なことではないと体感したからだ。

野球以外の面でも、街で見かける外国人観光客や外国人就労者に抱く感情にも変化が生まれた。言葉の通じない異国で”外国人”になってみたという経験は、自身の価値観に大きな影響を与えるものとなった。

元・横浜DeNAベイスターズの荒波翔さんが横浜を背景に笑顔で立っている所

【撮影:戸嶋ルミ】

 今後は、来日した外国人選手が日本の環境に馴染めるようにフォローなど協力していきたいという。また、自身の活動を通じて「いろいろなことに挑戦する人の背中を後押しできるような存在でいられたら」と話してくれた。

 これまでプレーを通じてたくさんの勇気をくれた荒波選手は、ユニフォームを脱ぎ、新たなフィールドへ歩みを進める。メキシコで得た経験と新たな視点で、これからもたくさんのことに挑戦し続けるだろう。

※取材日は2019年9月上旬
文:戸嶋ルミ