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陽気なマインドと「好きを楽しむ」気持ち 中南米の野球の強さの秘密【Global Baseball Biz vol.6】

写真提供=龍フェルケル


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 日本プロ野球のみならずメジャーリーグでもチームに欠かせない存在といえば、中南米出身の助っ人外国人選手ではないだろうか。恵まれた体格とパワーで剛速球を放ち、バットに当たった瞬間ピンポン玉のようにボールを飛ばす。中にはその陽気なキャラクターでベンチからチームを盛り上げることも。

 しかし、なぜ中南米からたくさんのプロ野球選手が排出されるのだろうか? 実際に現地取材した経験があり、関連著書も執筆されているフリーライターの中島大輔(なかじま・だいすけ)さんにお話を伺った。


写真提供=龍フェルケル


 中島さんは小学生の頃から野球観戦を楽しむ野球ファンで、大学時にはスポーツ新聞記者を志していた。当時手にしたサッカーW杯のムック本の巻末に掲載されていた”スタッフ募集”に応募したことでメディアの世界へ。2005年に中村俊輔(現・ジュビロ磐田)選手がセルティックFCに移籍した際は、スコットランドに4年間在住し現地通信員として取材を行った。2009年に帰国した際にパ・リーグのムック本の制作を手伝ったことがきっかけとなり、現在は野球中心に取材活動をされている。

 中南米の野球に関心を持ったのは、大学時に遡る。当時テレビでドミニカにあるカープアカデミーの特集を観たことがきっかけだった。いつか取材をしてみたいと思い続けていると友人のカメラマンにこの話をしたところ、猛烈に背中を押されたのだそう。とはいえ、アジアにも東アジアから西アジアまでがあるように、中南米も非常に幅広い。中島さんは中南米の中でも特に野球が盛んなドミニカ、オランダ領キュラソー島、キューバ、ベネズエラを訪れることにした。


写真提供=龍フェルケル


 まず最初に訪れた国は、ドミニカ。予てから気になっていた『ドミニカカープアカデミー』のほか、サンディエゴ・パドレスとクリーブランド・インディアンスのアカデミーなどメジャーリーガーを夢見る選手たちのいるところから、ストリートベースボールや少年野球チームまでも見て回った。

 カリビアンの国の取材の仕方は日本と全く異なり、事前に申請を出す……というわけではなく、親しい人を探し出して電話番号をゲットしてアポを取るそうだ。ドミニカの場合はドミンゴ・マルティネス氏(現・中日ドラゴンズスカウト)とカープアカデミーへは日本から取材連絡を取って向かったが、あとは現地でコネクションを持つ人物を探し出して”なんとかする”のだという。これはドミニカだけでなくカリビアンの国はほとんど共通のやり方で、中島さんは英語が話せるため英語と現地の言葉が話せる通訳を雇い、このアミーゴなやり方を駆使。そして”なんとかなった”結果、フリオ・フランコ氏の家にも訪問することもできたそうだ。


写真提供=龍フェルケル

 ドミニカで驚いたのは取材方法だけではない、というより現地での見るものほとんどが驚きの連続だったという。

「ドミニカで見る景色は日本と180度真逆と言うか……ドミニカ人選手はゴツいイメージがあるかもしれないですが、現地の子どもの足なんてものすごく細いんです。発展途上国で食べ物に恵まれていないし、道路は舗装すらされていませんでした。生活は裕福ではないけれど、それに対して現地の人は悲観的ではなくて、むしろ楽観的でした」

 日本では、用具の購入負担などの金銭面から野球をやらせたくないという保護者からの声も聞かれている。だが、ドミニカはそもそもがスポーツをやっているどころではないくらいに貧しいのに野球をしている。それは、日々の貧しさも気にしないくらい楽観的で陽気なカリビアン思考と、そもそも野球が楽しいからではないだろうかと中島さんは推察する。陽気な精神は当然彼らの野球観にも深く根付いており、実際にウインターリーグなどでドミニカに行った選手は口を揃えて「楽しかった」と言うそうだ。野球を始めた頃の無垢な気持ちを思い出させてくれるという。

 次に中島さんが訪れたのは、オランダ領のキュラソー島。キュラソーはオランダ領ということもあり、ラテンアメリカとしてはかなり先進的な場所だ。観光産業が盛んでリゾート地としても人気がある。街中どこに行ってもほとんど英語とオランダ語が通じて、島民はコミュニケーション能力が高く非常に知的な印象を受けたそうだ。日本で言えば種子島くらいの小さなこの島は実に不思議な場所で、なぜだかメジャーリーガーを次々輩出している。人口比で言えば圧倒的に世界一ではないだろうか。ちなみに東京ヤクルトスワローズのウラディミール・バレンティン選手の出身地も、ここキュラソーだ。

写真提供=龍フェルケル

「この島にはプロリーグはないですが、子どもの頃から高校・大学生くらいまでの選手を育てています。あと、ヘンスリー・ミューレンスの作ったアカデミーもあります。人数も規模も小さい分、(野球をやる子どもたち)みんなをちゃんと育てようという思想と思考がしっかりしています。メジャーリーガーになった人たちにある『自分を育ててくれた地域に還元しようという』という精神がキュラソーには特に根付いていると感じました」

 キュラソーは以前はサッカーが人気だったが、アンドリュー・ジョーンズがそれをひっくり返したという。島自体の人口が少ないため野球をやる子どもも多くないが、そこで少数精鋭部隊を養成するのではなく、あくまでエンジョイベースボール。野球をする子どもたちの「もっと上手に打てたらいいな」とか「もっとこういうふうに投げられたらいいな」という気持ちに対して、大人たちが手助けをしてくれる。上達することで一層野球が楽しくなって、もっと好きになる。好きこそものの上手なれ、そんな積み重ねがこのキュラソーの野球実績を生み出しているのだった。

 後編では、キューバとベネズエラの訪問記、そしてカリビアンの野球観についてをお伝えしたい。

文/戸嶋ルミ