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球団のスタッフを支える存在であり続けたい【Baseball Job File vol.12】

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 プロ、アマを問わず野球界にかかわるさまざまな人々にスポットを当てる連載。今回は、埼玉西武ライオンズのスコアラーとして活躍する若桑誠さん。球団職員の中でも専門性が高い印象の部署においてどのような仕事をしているかを中心に、さまざまな話を聞いてみた。

埼玉西武ライオンズのスコアラーとして活躍する若桑誠さんがインタビューを受けている

■僕はスコアラーという看板を掲げる“何でも屋”

── 一般的にスコアラーと聞くと試合中にスコアブックをつける人というイメージなのですが?

若桑 球団には複数のスコアラーがいて、それぞれで役割は違うんです。チャート表をつけながら相手打者を分析する人もいれば、相手投手を見ているスコアラーもいます。しかし僕はそのどちらにも属していないです。

──では、普段はどのようなお仕事を?

若桑 主となるのは、スコアラー内のIT全般と動作解析です。各スコアラーから上がってきた情報をもとに、選手やコーチがこの選手の映像がみたいといったら、分析して、ひと目で比較できる動画を作っています。

 あとは、スコアラーが提出する資料をまとめたり、入力分析映像のシステムに不具合がないかチェックしたり、何かトラブルがあった場合には、業者との間に入って交渉をしたりしています。

──仕事は多岐に渡っているんですね。

若桑 他部署のスタッフから依頼されたパソコン関連の操作説明や不具合対応とかもしますし、頼まれれば個人のスマホなどのトラブル対応や、人が足りなければ、バッティングキャッチャーもやりますね。僕が、好き好んでやっているだけですけどね(笑)
 
 僕の中では、これが自分の仕事ですっていうのを作らない“何でも屋”だと思っているので、まったく苦ではないんです。

埼玉西武ライオンズのスコアラーとして活躍する若桑誠さんがノートパソコンを見ている所

■ID野球を目にしてデータに興味を持つ

──若桑さんが、球団のスタッフとして働きたいと思ったきっかけは何だったのでしょうか?

若桑 子どもの頃から野球が好きで、自分でもやっていました。僕が小学生、中学生の頃は、古田敦也さんが全盛の時代。キャッチャーをやっていましたから、ミットは古田さんモデルにしたり、将棋が強いと聞けば、父親と毎晩のように将棋を指したりしていましたね。

 その古田さんの代名詞といえばID野球ということで、データというものに興味を持ったんです。

 データスタジアムに勤務していたのも、野球のデータを扱いたかったからなんです。

──データスタジアムで働かれていたんですね。

若桑 パソコンの知識とかまったくないのに、野球の仕事がしたいというだけで面接にいきましたから(笑)。そこで、あまりの知識のなさに、「何しにきたん? ここIT企業だぞ」って言われたのは覚えています。でも、そこでITとはなんぞやパソコンとはというのを学びました。

──データに関する知識は、そこから深まっていった感じですね。

若桑 データスタジアムに入ったのは大きかったですね。2年後にはベースボール・タイムズ編集部に出向し、チーフアナリストとして出版の現場にも立ち会え、その後データスタジアムに戻ってからは、球団向けのシステム営業もやりましたから。

 僕はライオンズに入る前に、東北楽天ゴールデンイーグルスでも仕事をさせていただいたのですが、システム営業をやっていたことで採用してもらえましたから、本当にありがたいですよね。

■憧れの星野仙一さんのもとで日本一を経験

──楽天時代もスコアラーの部署にいらしたのですか?

若桑 最初は、チーム戦略室という部署に配属され、その後スコアラーに異動になったんです。スコアラーになりたいという気持ちがあったから、異動になったときは本当にうれしかったです。

 あと、当時の監督は、僕が尊敬する星野仙一さんだったことも、喜びを倍増させましたね。

──なかなかない経験ですよね。

若桑 マイカーのナンバーを77にしていた時期もあるくらい、尊敬する人でしたから。そのような方のもとで、チームが日本一になる現場に立ち会えたのは、僕の財産になっています。

埼玉西武ライオンズのスコアラーとして活躍する若桑誠さんが笑顔で正面を向いているところ

■座右の銘は“品質は真心、スピードは誠意”

──現在は地元球団のスタッフとして働かれていますが、若桑さんがモットーにしていることはありますか?

若桑 タイムスケジュールは余裕をもって、前もってやれることはやっておく。後でやるという選択肢は持たずにすぐにやることですね。そうすることで、突発的な依頼が来ても、すぐに対応できますから。

 こう思うようになったのは、ベーボールタイムズ編集部にいたときあるデザイナーさんの面接をしたことがありました。その方が、面接のとき「品質は真心、スピードは誠意」と言ったんです。これがいまだに心に響いていて、座右の銘になっているんです。だから、依頼されたことに対して早くやるというのは僕の誠意なんです。

──スコアラーという職業についてよかったと思うときはどんなときでしょうか?

若桑 野球に関してプロ経験のない僕が、プロ野球の現場で働けているわけですから、それだけでありがたいことです。今はバックネット裏で試合データを入力していますが、隣で大ベテランの亀井チーフスコアラーがいて、野球について色々教えてくれる。本当に勉強になりますし、良かったと思います。

 だから、今後も選手はもちろんですが、球団スタッフを支えるスタッフという“何でも屋”の立場を貫いて、どんなことでもやっていきたい。その中で昨年のように、チームがリーグ優勝という結果がでればいいですね。


▼プロフィール
若桑 誠(わかくわ・まこと)/1981年生まれ、埼玉県北本市出身。
2006年にデータスタジアムに入社し、プロ野球速報やシステム営業を担当。
2013年に東北楽天ゴールデンイーグルスのスタッフとなり、スコアラーなどを歴任。
2015年から埼玉西武ライオンズのスコアラーとして、一軍に帯同し、多くの役割を担っている。

取材・文/松野友克