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数字で検証! 侍ジャパンの4番打者は中田が打つべきか、筒香が打つべきか
記事提供=Baseball Crix

(C)共同通信

 NPBの各チームでクリーンアップを担うような強打者が数多くそろう侍ジャパン打線。最も効果的で適切なオーダーを組み立てるのは容易なことではないが、ファンにとっては喧々諤々の議論のネタとして、楽しみな要素のひとつでもある。

 今回のテーマは、侍ジャパンの4番に誰を据えるべきか。小久保裕紀監督は4番打者を「誰が見ても手本になる人」という表現に留め、明言を避けている。過去のデータなどを用いて、侍ジャパン打線の“顔”にふさわしい打者を探った。

数字で見る過去の四番打者

 最適な4番打者の選定を行うに当たって、まずは過去のWBC本大会での4番打者の実績を振り返っておきたい。2005年の第1回大会では松中信彦、第2回大会は村田修一と、村田の故障離脱後の稲葉篤紀、そして前回の第3回大会は主に阿部慎之助が大役を担った。

 松中の大会打率.433の好成績を筆頭に、各選手とも期待に応える活躍を見せていることが分かる(表1参照)。過去3大会で2度の優勝を誇る日本代表の成果に、4番打者のバットは大きな貢献を果たしている。

 4番に抜てきされるだけあって実績が豊富で、その時々で脂が乗っている打者ばかりだ。大会前年のNPB打撃成績を参照すると、表2の通りとなる。ここで示しているwOBAという指標は、野球を統計的見地から、客観的に分析するセイバーメトリクスの指標のひとつ。打者の実力を評価する指標は数多く存在するが、wOBAはその合理的な構成から、現在のところ最も信頼性の高い打撃指標のひとつとされている。

 指標の意味するところは打席あたりの得点への貢献度の高さで、数字が高いほど打者として優秀であることを表している。基本的には出塁率が高く、高い確率で長打を打てる打者が評価される。

 松中、村田、阿部の3人は、当時のWBC日本代表メンバーのなかで、それぞれの年代で最も高いwOBAを記録している。好成績を残してきた過去の事例に則るのであれば、シンプルに2016年のwOBAが最も優秀な打者を選べば良い、という訳だ。

四番は本当に重要なのか?

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 では早速昨年のwOBAを……とここで数字を並べるのは簡単だが、その前に4番打者の持つ意味、というものを確認しておきたい。野球のルールを知っていればほとんど無意識に「4番打者=最強打者」という認識を持つに至るが、これは果たして実態に沿ったものなのだろうか。WBCと同様にDH制を採用しているパ・リーグの過去10年間のデータを用いて、実態と傾向を明らかにしたい。

 表3は打順別の通算打撃成績を表している。4番打者が通算1429本と頭ひとつ抜けて本塁打を放っているのは印象通りだが、wOBAでは3番打者の方がわずかに高い。これは3番打者には出塁能力と長打力のバランスが取れたタイプ、例えば柳田悠岐や糸井嘉男などの打者が配置されているのに対し、4番打者はより長打力寄りの中村剛也や中田翔などのタイプが起用されていることが影響している。

 環境はどうか。表4に、得点圏で打席を迎える割合を打順別に示した。4番打者はチャンスで打席に入る機会が最も多い。そして3番打者もわずかの差で続く。上位に出塁率の高い打者を据え、送りバントなどで恣意的に得点圏の状況を作り出している側面はあるが、基本的な野球の構造として3番打者や4番打者にはチャンスの打席が多く巡ってくるため、ここに優れた打者を配置することは理にかなった判断と言える。

 得点圏に関係なく打席数の多い1、2番に最優秀打者を置くことで機会損失を回避する、という考え方もあるが、侍ジャパンのような出塁率の高い打者の選択肢が複数存在する環境では、よりリターンの大きい中軸で好機の到来に備えたい。

 そして重要な問題として、最も優秀な打者は3番ではなく4番に置くべきである、という事実がある。表5は3番打者と4番打者が、どのような局面で打席を迎えるかという割合を表している。局面は3つのアウトカウントと8つの走者状況を掛け合わせた24のシチュエーションで、注目したいのが二死走者なしの項目。最も得点の期待を持ちにくいこの状況で、3番打者は4番打者よりも10%以上も多く打席を迎えている。

 初回は必ず一番打者からはじまる野球の構造上、どうしても3番打者は二死走者なしの場面に立ち会いやすい。アウトカウントが少なく、走者の数の多い場面に優秀な打者を立たせるのが理想である以上、4番に出塁率と長打力を備えた打者を置くのが合理的だ。

 メジャーリーグでは2番に強打者を据えるトレンドが目立ち、クリーンアップへとつながる“流れ”に変化が生じつつあるとされている。日本でもヤクルトの川端慎吾やDeNAの梶谷隆幸など従来の2番像とは異なるタイプの打者を配置するケースも増えてきてはいるが、中軸へつなぐ2番という発想は未だ根強い。

4番にふさわしいのはDeNAの主砲

 データによって最強の打者を4番に置くべき、という裏付けが取れたところで、2016年のwOBAの確認に戻りたい。昨季両リーグで最も高いwOBAを記録したのは筒香嘉智。本塁打王と打点王の二冠に輝く活躍でついに本格化し、メディアなどでも侍ジャパンの4番として本命視されている。対抗馬として名前の挙げられることの多い中田は、実はチームの中で12番目の値と振るわない。

 投手有利の札幌ドームを本拠地としている不利はあるが、出塁率が低く、物足りない長打の確率などがこの数字につながっている。小久保ジャパンの誕生以来、何度も侍ジャパンの4番を務めてきた中田の経験を買う声もある。指揮官の判断の決め手がどこにあるかは分からないが、データの上では筒香に当確ランプがともる。

シミュレーションが導き出した最強クリーンアップ

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 最後に、シミュレーションソフトを使って最適なクリーンアップ構成を探った結果を示したい。今回用いたソフトウエアはデータスタジアムが開発した『シミュレー太くん」。プロ野球の結果予測に用いるソフトで、過去のデータに基づいて選手個々にパラメータを設定し、ひたすら対戦を繰り返して勝率や平均得点などを算出する(※参考:プロ野球結果予想とは? http://www.baseball-lab.jp/about_expectation/)。

 今回のシミュレーションでは筒香、中田、山田哲人の3名をクリーンアップ候補とし、それ以外のメンバーを固定した6つの打順パターンで平均得点の比較を行った。対戦投手はオランダ代表にも選ばれているソフトバンクのバンデンハークを設定し、数字を安定させるためにそれぞれ10,000試合以上のシミュレーションを行った。ちなみに、青木宣親のデータは成績の比較的近しい西川遥輝で代用している。

 6つのパターンで最も得点力の高かった組み合わせは、3番・中田、4番・筒香、5番・山田の平均得点5.28(表9参照)。最も優秀な打者である筒香が4番を担い、wOBAではチーム3位の山田が5番として続く形が最適の解を示した。

 逆に最も得点力の低かった組み合わせは3番・筒香、4番・中田、5番・山田と続くクリーンアップ(表10参照)。3番に筒香を据えるデメリットが現れた格好となった。仮に経験を買って中田に4番を任せるケースでも、筒香の3番だけは避けた方が良い、とデータは語っている。

※文章、表中のデータはすべて2016年シーズン終了時点

(著者プロフィール)
データスタジアム株式会社
スポーツデータの解析や配信を手掛けるスペシャリスト集団
URL:http://www.datastadium.co.jp/

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