BASEBALL GATE

プロ野球

「信じることをやめないで」 苦しむロッテドラ1佐々木を原点に返らせた唄


最後は大きく曲がったスライダーで空振り三振を奪った。2回を投げて3奪三振、無安打、無失点。ストレートは148キロを計測した。石垣島キャンプで行われたマリーンズの紅白戦。黄金ルーキー・佐々木千隼投手は見事な実戦デビューを飾った。

■プロ1年目、戸惑う日々で原点に戻れる曲―馬場俊英「スタートライン~新しい風」

 最後は大きく曲がったスライダーで空振り三振を奪った。2回を投げて3奪三振、無安打、無失点。ストレートは148キロを計測した。石垣島キャンプで行われたマリーンズの紅白戦。黄金ルーキー・佐々木千隼投手は見事な実戦デビューを飾った。

「いやあ、緊張しましたね。地に足がついていなかった。結果が出て、よかったです」

 初めてのプロのキャンプ。しっくりと来ない毎日を送った。初めての環境になかなか順応できない。思い通りにいかず、もがいた日々を自身の右腕で憂さ晴らしをした。

 吉田裕太捕手をストレートで見逃し三振。荻野貴司外野手は大きく曲がるスライダーで空振り三振。根元俊一内野手のバットは伝家の宝刀・シンカーで空を切った。立ち上がりこそ、ボール先行になり、死球も当てるなどドタバタだったが、そこから開き直った。「いいところに投げようと思うな。アバウトでいい。その球なら例え真ん中に来ても簡単には打たれないから」。マスクを被る同じ年の田村龍弘捕手の助言を信じ、開き直って腕を思いっきり振る事だけを考えてミットめがけて投げた。

 キャンプ初日からチームで一番の注目を浴びた。ブルペンでは多数のテレビカメラがそのボールを追った。練習が終わるたびにメディアから質問を浴びた。これまで経験がしたことのない事。初めての経験に戸惑い、知らず知らずのうちに力みが生まれた。なかなかイメージ通りのボールが投げる事ができずに苦しみ、フラストレーションをためた。

■雑草人生支えた歌詞…「もうダメさ これ以上は前に進めない。そんな日が誰にだってある」

 そんな苦しい時に原点に戻れる曲があった。高校時代からお気に入りの曲。馬場俊英さんの「スタートライン~新しい風」。その歌詞を佐々木は自分の人生そのものに感じることができる。中学までは軟式野球部。高校では一塁と外野手として都立高校で名門私立校を倒そうと頑張った。野球エリートではない中で挫折を繰り返し、試行錯誤しながら歯を食いしばった日々。いつもこの曲が励ましてくれた。

「どんな時も 信じることをやめないで きっと チャンスは何度でも 君のそばに~」

 その歌詞の部分を聞き終わると不思議と勇気が出る。プロに入った今でも原点に戻れるこの曲の存在は特別だった。

「大学2年の時ですね。全然勝てなかった。歯が立たなくて、自分にも自信がなくて、そんな落ち込んでいる時にこの曲を聞いたんです。負けても、なにもうまくいかなくても、頑張らないといけない。人生とはそのようなものだなって。奮い立たせてもらいました」

 大学から本格的にピッチャーとしてマウンドに上がるようになった。しかし、球種も少なく、なかなかうまくはいかなかった。2年の時にチームが1部昇格をするとなおさらレベルの差を感じた。負けるのが、打たれるのが悔しく、どうしようもなく辛かった。自信など微塵もなかった。何度も諦めようかと思った。だけど、不思議と逃げ出そうとした時に、この曲がいつも耳に入ってきた。

 唄は「もうダメさ これ以上は前に進めない。そんな日が誰にだってある」で始まる。ハッとさせられた。大学生活はまだ半分も終わったわけではない。自分を信じ練習の虫となる事を決意した。今まで積極的ではなかったウエートにも挑戦をした。また挫折をしそうになると、この曲を聞いて自分を励ました。

■背番号11が経ったスタートライン「自分を信じて頑張ろうと」

 そして、大学3年になると頭角を現すようになる。2015年には元横浜ベイスターズ(現DeNA)で長らくエースとして活躍をした野村弘樹氏が特別コーチとして野球部に合流した事も転機となった。大きな出会いだった。プロの第一線で活躍をされた方からの直接のアドバイスに目からウロコが落ちる思いがした。基本中の基本であるボールの握り方から修正を施され、投球に取り組んだ。自信なさげに投げるマウンドでの立ち振る舞いも指摘された。

「もっと堂々と投げろ。打たれてもクヨクヨするな。マウンドでも、ベンチでもクヨクヨせずに堂々と投げろ」

 少しずつ結果が出ると自信が伴ってきた。ちょっとしたことがキッカケでグングンと力が伸びていった。140キロそこそこだったストレートは150キロに達した。気が付くとドラフト注目選手となり、そして、昨秋プロ5球団が1位指名。縁があり、マリーンズのユニホームに袖を通した。打たれては悩み、苦しみ、逃げ出しそうになった2年時を考えると夢を見ているような瞬間だった。

 お気に入りの曲が「信じる事をやめないで」と優しく語りかけるように背中を押してくれ、そのメッセージを信じてガムシャラに投げてきた結果だった。あきらめなかったことでキッカケが訪れ、実直に進み抜いた事で、成長につながった。唄は佐々木にどんな状況下でも自分を信じるという生き方を教えてくれた。

「これからも、未知の事ばかりですが、このスタートラインから自分を信じて頑張ろうと思います」

 2月21日、長きに及んだマリーンズの石垣島キャンプは終わる。オープン戦、公式戦と続く道。その先に何が待っているかは分からない。決めた道を行くしかない。曲の歌詞の中にある言葉が佐々木の脳裏をよぎる。プロの壁にぶち当たる時もあるだろう。だけど、そんな時、また大好きな曲の歌詞に勇気づけられ、前に進むつもりだ。背番号「11」のスタートライン。千隼伝説はまだ幕を開けてはいない。

(記事提供:パ・リーグ インサイト)

マリーンズ球団広報 梶原紀章●文 text by Noriaki Kajiwara

関連リンク