- プロ野球
2018.03.23 19:15
オープン戦から変異の予兆を探る
■オープン戦は絶好のアピール舞台
各地で桜の開花が報じられ、オープン戦も残すところわずか。いよいよ、シーズン開幕の足音が聞こえてきた。2月24日から始まったオープン戦は、成績次第で開幕一軍の切符をつかめるかを判断されるケースが多く、一軍当落線上の選手にとっては大事な機会となる。この重要な試合で今年もさまざまな選手が活躍を見せ、開幕前の話題をさらった。
野手では楽天の5年目・内田靖人が打率.441と絶好調で、開幕一軍がほぼ確実視されている(表1参照)。大和の加入で遊撃の絶対的な立場を脅かされている倉本寿彦(DeNA)も、好成績を残している。表2の本塁打を見ると、若手の宗佑磨(オリックス)や岡本和真(巨人)が上位につけていて、昨季4位からの浮上を目指す両チームにとっては明るい材料だろう。
■打撃成績はあてにならない
ただし、これらオープン戦の好成績はシーズンの活躍を約束するものではない。これは、ほとんどの方に実感があると思われる。実際に、オープン戦で30打席以上、レギュラーシーズンでは100打席以上の選手を対象にして、16年のレギュラーシーズンと17年のオープン戦、17年のオープン戦とレギュラーシーズンの相関係数を各成績別に算出したのが表3だ。三振割合や打者の長打力を示すISOなどは弱い相関が認められるものの、打率などはほぼ無相関となった。
オープン戦はレギュラークラスにとって調整の場であり、レギュラーシーズン中に一軍で対戦することのない選手も、実力の見極めや経験を積ませるために起用される。そして、143試合あるレギュラーシーズンと比較すると、オープン戦は試合数の少なさがネックだ。十分なサンプルサイズを確保できる連続年のレギュラーシーズンでも相関の弱い指標だけに、この結果は意外なものではない。
それでは、表3のような打席結果になる過程、つまり守備など打者個人がコントロールできない要素を除いたスイングや打球といったデータではどうだろうか。代表的な指標として「ボールゾーンスイング率」「コンタクト率」「フライ割合」の3つの項目に絞り、表3と同じ対象条件で相関係数を求めたのが表4で、こちらはすべての指標で一定の相関が認められた。つまり、外的要因を減らしたデータならば、オープン戦とレギュラーシーズンはある程度似た傾向になることを意味する。
■オープン戦の変化の影響を探る
17年のレギュラーシーズンから18年のオープン戦にかけて、ボールゾーンスイング率が大きく変化していた選手のランキングが表5となる。元々選球眼の良い島内宏明(楽天)やオープン戦で最も四球を選んでいる秋山翔吾(西武)が上位にランキングされ、昨季ブレークした上林誠知(ソフトバンク)はボール球に手を出す傾向に拍車がかかっていることが分かる。
このようなオープン戦で大きく傾向が変化している選手は、レギュラーシーズンでも似たような数字を残すのだろうか。それを以下で検証していきたい。
まず16、17年のレギュラーシーズンで100打席以上、17年オープン戦で30打席以上の選手のうち、表5のように傾向が大きく変わった選手を抽出する。ここでは、各項目で変化の絶対値が5ポイントより大きかった選手を対象とした。
次に上記選手の
1)16年のレギュラーシーズンと17年のレギュラーシーズン
2)17年のオープン戦と17年のレギュラーシーズン
の相関関係をそれぞれ求める。
これは、前年のレギュラーシーズンから当年のオープン戦で傾向変化が大きい選手に限定しても、年度間のレギュラーシーズン、または当年同士のオープン戦とレギュラーシーズンで再現性があるのかどうかを確認するためだ。
これらの計算結果が、表6となる。オープン戦で変化が大きかった選手に対象を絞っても、16年と17年のレギュラーシーズンの相関はかなり強い。一方、17年のオープン戦とレギュラーシーズンにもある程度の相関性がある、という結果になった。
■結果ではなく、過程を
基本的にはオープン戦の変化によらず、前年に近い数字を当年のレギュラーシーズンでも残すようだ。とはいえ、オープン戦の変化は当年のレギュラーシーズンと無関係ではない。例えば、近藤健介(日本ハム)は、16年のレギュラーシーズンから17年のオープン戦で、ボールゾーンスイング率が28.0%から19.1%と大幅に良化していた。そして17年のレギュラーシーズンでは11.7%まで改善され、57試合の出場ながら打率.413をマークするなど、大きなインパクトを残した。
ここまでの変貌をオープン戦から予測するのは困難だろうし、今回の検証ではオープン戦の試合データを取得し始めた17年を軸にしたため、今後データの蓄積が進むとまた異なる傾向になるかもしれない。しかし、その結果によほどの違いがない限り、変異の予兆を知るためにもオープン戦の段階からアンテナを張っておく意味はある。このようなサインをつかむことで、選手のパフォーマンスの上下動をいち早く伝えることができれば幸いだ。
※データは2018年3月22日時点
文:データスタジアム株式会社 小林 展久