- プロ野球
2017.06.30 17:30
データから救援投手の最適配置を考える
■サファテは6人もいない
もしもブルペンにサファテが6人いたら、監督や投手コーチはどんなに気が楽だろうか。起用法に頭を悩ませる必要などない。どのサファテをどの順番で登板させようが、点を取られることはめったにないのだから。
もちろん、このようなチームはどこを探しても見つからない。サファテ級の圧倒的な能力を持った投手はチームに1人いるだけでもありがたく、どのチームも多少なりともレベルにばらつきのある投手たちをブルペンに置いているのが実情だ。だからこそ、誰をどのような局面で起用するのか、あれやこれやと考えなくてはならない。2点リードの8回のマウンドには誰を送り、最後は誰が試合を終わらせるか。また、先発投手が序盤で大量失点してしまった場合は、残りのイニングを誰に消化させるのか。どれも、シーズンを通してチームが良い結果を残すために考えるものだ。
ところが、実際のシーズンにおいて、どのような救援投手の起用法がチームにとって最も大きなプラスとなるのか、これといった正解を出すのは極めて難しい。投手個々の適性もあれば、対戦する打者との相性もある。日々変化するコンディションの問題も無視できないだろう。言ってしまえば、ケース・バイ・ケースなのだ。
とはいえ、全く指針がないわけではない。基本的には、能力の高い投手ほど重要な局面で起用し、能力の劣る投手は大量点差など重要度の低い局面に割り当てることが、チームにとってプラスとなる。逆に、能力の劣る投手を重要な局面で起用すれば直接敗北を招きかねないし、能力の高い投手を点差が開いた局面で起用しても、不必要に体力を消耗させるだけだ。細かく見ればケース・バイ・ケースでも、こうした基本的な方針はどのチームにも共通するものだと思われる。むしろ、「優秀な人材に重要な仕事を」という考え方はどこの世界にもある普遍的なものかもしれない。
本記事では、こうした考えに基づきながら、各チームの救援投手の起用状況を考察していきたい。
■防御率では投手の能力を評価できない
話を展開する上でまず必要となるのが、「投手の能力」と「局面の重要度」を定義することだ。さらに、何らかの指標を用いて、この2つを客観的な数値で表現しなくてはならない。
1つ目の「投手の能力」は、「失点しない能力」と言い換えていいだろう。これは救援に限った話ではないが、チームが投手に求める一番の仕事は「失点を少なくすること」だから、その達成度合いで能力を評価するのはごく自然なことだ。
もっとも、それを数値化するときに、防御率や失点率(9イニングあたりの失点数)を用いるのはあまり適切とは言えない。なぜなら、これらの指標は打球の運や守備力の影響を受けてしまい、投手個人の能力が正しく反映されない場合があるからだ。セイバーメトリクスにおける投手の能力評価は、奪三振・与四球・被本塁打の3項目で行われる。打球の運や守備力といった、投手の責任が及ばない要素を排除し、より本質的な能力を評価しようというのが狙いだ。
本記事でもその考え方に則り、「tRA(True Run Average)」という指標を用いて「投手の能力」を数値化することにしたい。tRAは先ほど述べた奪三振・与四球・被本塁打の3項目に加え、フィールド内に飛んだ打球の質(ゴロ・内野フライ・外野フライ・ライナー)まで細かく評価し、打球の運や守備力の影響を排除した仮想的な失点率を求める。通常の失点率が「実際に何失点したか」を表すのに対し、tRAは「何失点分に相当する投球をしたか」を表すものだと考えるといいかもしれない。
参考までに、今季の救援投手のtRAランキングを掲げておこう。
■重要度を数値化する「レバレッジ・インデックス」
次に、「局面の重要度」だが、これは「勝敗への影響の大きさ」と定義したい。例えば、8回表で1点リードの局面と、7回表で6点ビハインドの局面では、1プレーが勝敗に与える影響の大きさが異なる。前者の局面でソロホームランを打たれれば同点となり、試合は振り出しに戻るが、後者の場合はすでに試合の決着が大方ついており、ソロホームランを打たれても形勢はほぼ変わらない。このように、勝敗への影響が大きい局面を「重要度が高い局面」、影響が小さい局面を「重要度が低い局面」とする。前述の理屈から言えば、当然、前者の局面では能力の高い投手が起用され、後者の局面では能力の劣る投手が起用される可能性が高い。
問題はこの「重要度」をどう数値化するかだが、「レバレッジ・インデックス」という指標を用いる。これは、イニング・点差・アウトカウント・塁状況から求められる勝利確率(Win Probability)を基に、この数値がプレーによってどう変動していくかを計算し、平均的な局面に比べてどの程度勝敗への影響が大きいかを割り出したものだ。複雑な算出方法は割愛するが、1.0が平均的な局面、それよりも値が大きいほど重要度の高い局面、小さいほど重要度の低い局面であることを表す。
こちらも参考までに、いくつかの局面におけるレバレッジ・インデックスを例として掲げておこう。
■2グループで高い能力を発揮する阪神
さて、前置きがだいぶ長くなったが、ここからが本題だ。投手の能力を表すtRAと、局面の重要度を表すレバレッジ・インデックスを用いて、どのくらいの能力の投手が、どのくらい重要な局面で起用されているかを、チームごとに考察していくことにしよう。セ・リーグから、現在の順位に沿って見ていく。
まずはセ・リーグの首位を快走する広島。簡単に図の見方を説明しておくと、横軸にtRA(投手の能力)、縦軸にpLI(局面の重要度)を取り、円の大きさで投球回(登板機会の多さ)を表現したものだ。pLIというのは、レバレッジ・インデックスを選手ごとに平均化したもので、要するに高いほど重要な局面で起用されている、という意味になる。図においては、右に行くほど能力が高く、上に行くほど重要な局面で起用されている、という見方になる。
では、広島の救援投手の起用状況はどうだろうか。見たところ、今村が最も重要度の高い局面で起用され、中崎とジャクソンがそれに次いで重要な局面を任されている。だが、3人ともtRAが3.50を超えており、起用法と能力がやや伴っていないようだ。一方で、tRAが2.16と優秀な一岡はさほど重要な局面で起用されていないが、今後はジャクソンが勝ちパターンから外れることもあり、より重宝されることになるだろう。
続いて2位の阪神。このチームは、少ない人数で明確に役割分担し、それぞれが高い能力を発揮している様子が見て取れる。やや重要度の下がる局面を担う高橋、岩崎、藤川もtRAは優秀で、勝ちパターンの3人を十分に補助できる戦力と言っていいだろう。それほど起用法について頭を悩ませる必要もなく、優秀な救援投手がそろっている、といった状況だ。
DeNAはここまでクローザーの役割をパットンと山崎康の2人で担っていたこともあり、重要な局面を何人かの投手で分担している状態だ。気になるのは三上の起用法で、tRAが5.10と芳しくない中で重要な局面を任されている。砂田との配置転換など、何らかの手当てが必要かもしれない。
中日もtRAが芳しくない投手が重要な局面を担う状態になっているが、岩瀬の復活が多少カバーになっている。また、これに加えて一時的に先発を担っていた又吉が重要な局面での登板機会を増やせば、さらに改善が期待できる。田島の抑え起用については、現状やや荷が重いと言わざるを得ない。
巨人は重要な局面をほぼマシソンとカミネロの2人に頼っている状態だ。なかなか勝ちパターンを任せられるような能力を備えた投手が現れないのが苦しいところだろう。また、カミネロはtRAで見ると低い評価を与えざるを得ず、長い目で見た場合、このまま重要な局面で使い続けるのは多少のリスクを伴うと考えられる。
6位と苦戦するヤクルトは、秋吉・ルーキ・石山とそれなりに能力の高い投手が複数そろっており、印象ほど悪くない布陣と言える。新入団のギルメットは外国人枠の関係で29日に登録を抹消されたが、tRAは前述の3人よりも優秀だ。失点率が5点台とここまで結果は出ていないが、辛抱強く使い続ければ重要な局面も担えるだけの投手になるかもしれない。
■芸術的な投手起用を見せる楽天
続いてパ・リーグ、首位の楽天から見ていこう。図を見て分かる通り、芸術的とも言える投手の配置を行っている。福山とハーマンの2人を除き、ほぼ全て、能力の高い投手から順番に、重要な局面を割り当てている。そう簡単にできることではないと思われるが、救援投手の最適配置というのは、こういった状態を指すのではないだろうか。
ソフトバンクも楽天に似て能力の高い投手がそろっており、局面の重要度とのギャップも少ない。違いを挙げるとすれば、楽天に比べて隊列が縦に伸びていない点だろうか。どの投手を起用してもそれなりに高い能力を発揮することから、比較的スクランブルな形で配置されているように見える。サファテ1人に依存していない状況、とも言えるかもしれない。
西武はやはり、最も重要な局面で起用されている増田のパフォーマンスが芳しくない点が気になる。被本塁打がすでにキャリアワーストの5本に達しており、抑えの役割を担うにはリスクの大きい登板が続いている。シュリッター、牧田との3人で7回以降をリレーしているが、この中での配置転換、もしくは武隈との入れ替えは十分に検討の余地がありそうだ。
オリックスは平野が非常に重要度の高い局面で起用されている。pLIが2を超えているのは12球団で平野だけだ。ずば抜けたtRAではないものの、黒木とともに重要な局面の多くをさばくことで、チームにプラスをもたらしている。ヘルメンは期待値の高い投手だが、現状は外国人枠の関係で能力を発揮する機会に恵まれていない。
前年王者ながら5位に低迷する日本ハムは、増井が高い能力を持って重要な局面を担う、という合理的な配置が特徴的だ。それ以外は谷元がやや荷が重い起用法になっているが、全体的な隊列はおおむねライン状に並んでおり、救援投手の配置による相応のメリットは受けていると考えられる。
ロッテは頼みの綱である内が離脱するとさらに苦しい状況に陥る。負荷をかけすぎない起用が何より重要かもしれない。益田は内に次いで重要な局面を任されているが、現状tRAが5.64であることを考えると、やや荷が重い起用となっている。
■チームは何を考え、どう行動しているのか
以上のように、駆け足ながら12球団を見てみたが、能力に応じた適切な配置ができているチームもあれば、さまざまな理由によりそうなっていないチームもある、ということを何となくイメージしていただけただろうか。
もちろん、今回「投手の能力」として使用したtRAは決して完璧な指標などではなく、ましてやシーズン半分が終わった時点の救援投手の評価に用いるのはいささか雑な分析と言えるかもしれない。だが、こうした観点を持って、各チームの救援投手が適切に配置されているかを見ていくのは非常に意義深いことだし、場合によっては球団の戦略が見え隠れすることもあって不思議ではない。シーズンが終わった時にまたこのデータを更新して、どのような変化が起きているかを見るのも楽しみのひとつだ。
今後も「采配」に関わる分析は重要なテーマとしていきたい。
※データは2017年6月28日現在
文:データスタジアム株式会社 山田 隼哉