- 高校野球
2019.10.15 18:00
ヒジ痛の長期苦渋の日々も、大器がプロに挑む
井上広輝(日大三高)【時は来た!ドラフト指名を待つ男たち 高校生編】
井上はいつ、投げるんだ。
今年は春からそんなことを思っていた。春の終わりに取材を申し込んだこともあったが、「ヒジの故障は回復してるけれど、最後の夏に向けて追い込みでもあるので取材は断ってる」と話を聞くことはできなかった。ただ、プロ志望届を提出するというので、一安心だ。
二つ上の兄、大成の弟として注目され、1年時夏からベンチ入り。西東京大会でも登板した。秋の都大会では修徳戦に先発して完投勝ちするなど7年ぶりの優勝に貢献した。
そしてセンバツに選ばれて初戦の由利工戦、リリーフで6回を無失点でデビューを飾る。147キロを計測した。続く三重戦では先発。6回3失点と好投したが、チームは敗れた。
その直後、右ヒジを痛めたのが2年の春の都大会だった。
夏の西東京大会での登板はなかった。でも、同学年の広沢らの頑張りもあり、チームは甲子園出場を果たす。
甲子園の2回戦、なんとか奈良大附戦で先発して3回をノーヒット、0点に抑えた。最速も150キロまで伸ばした。準決勝の金足農戦でもリリーフして2イニングを0点に抑えている。
秋の都大会はまさかの初戦敗退だったが、暮れの東京都選抜メンバーに入ってキューバ遠征は5イニング11個の三振を奪い、復調を印象付けた。
最後の夏は準々決勝の桜美林戦で満を持してエース登板。
序盤から3点をリードされて3回、ピンチでマウンドにあがったが追加点を許す。さらに中盤以降も得点を与えた。6回を投げたが8安打を喫した。
ストレートは140キロ中盤が出るが制球されない。結局、打線もつながらず涙をのんだ。
試合終了後は目をはらし、うなだれていた。声をかけるのもはばかられるほどうなだれて、声は消え入りそうだった。
「精神的に弱かった。エースなのにピンチで抑えられなくて」
ただ、3年春の時点では高校代表候補入りするなど、素材は申し分にない。
腕の振りがしなやかで、ソフトボールで鍛えられたという強い手首が生かされて変化球も鋭い。
2年の段階で、奥川とともに翌年はドラフト上位候補になるという人がいた。そして現在のスカウトの評価も落ちていない。
「ビッグ4と変わらない。指先が優れていると思う、ボールを操れる感覚がある」
「器用でセンスを感じるピッチャー。フォームもきれいで将来性がある。体格もいいし、球に角度がある」
ケガの怖さがなくなった時のフルパワーが見てみたい投手なのだ。
そのケガもあり、日大三の小倉監督には慎重に育てられたはずだ。チームの間近で広沢という好投手をみてきて、奮起もしただろう。大器の開花はこれからだ。
(文・清水岳志)