- 高校野球
2019.09.30 17:00
侍ジャパンの主砲 センバツV投手は野手で勝負 石川 昂弥(東邦高)【時は来た!ドラフト指名を待つ男たち 高校生編】
高校生野手のトップランナーはセンバツの優勝インタビューで、落ち着き払っていて大物感が漂っていた。
主将、エース、3番で優勝の立役者になった。決勝戦で2本のホームランと完投勝利。お立ち台で大体は「最高です」というような決まり文句を言うものだが、石川は「夢のような時間でした」と落ち着き払って言った。甲子園の4万の観衆が見つめるインタビューなのに動じない。粋な言葉を発した。
閉会式を終えた後のインタビュー通路での取材の時も、笑顔で自分の言葉で応じた。おそらく取材を受けるのが好きだ。聞き手の質問内容をよく理解して、クレバーに過不足ない答えを返してくれる。
まず、初回の先制ホームラン。7球目の123キロの甘く入った変化球をバックスクリーンの右に。打球が早くて見失うほどの当たりで、センターも途中で追うのをやめていた。
「打てるボールが来なくて、追い込まれたんですが、コンパクトにバットが綺麗に出た」
そして5回の2本目。2死二塁。ピッチャーは様子見のようなスライダーを放ったが、軽く当てたようなスイングで右中間スタンドまで運んだ。
「ベンチに戻って監督から素晴らしい、と言われました」
このお立ち台でのコメントもひねりがある。
高校1年春からベンチ入り。直ぐにショートのレギュラーを獲る。そして1年秋には4番でサード。
2年のセンバツでは4打数無安打、花巻東に初戦敗退。ここから反攻が始まる。
2年秋に東海大会で優勝。センバツは平成元年以来、30年ぶりに東邦に優勝をもたらした。平成の最初と最後を制するという強運も持ち合わせる。
WBSC U18ベースボールワールドカップでは全試合、4番を任されて24打数8安打、1ホームラン、9打点を残した。甲子園の決勝で結果を残したり、何かを持った選手だ。
「木製バットで余計に目立つ。一人だけ、打球の音が違う」というスカウト評がある。
華やかさがあり、野球頭がよくて目立ちたがり屋。加えて実践向き。
石川の好きな選手はエンゼルスの大谷翔平だそうだ。大谷は投げて打って走れる。石川も実は走れるのだ。自ら言う。
「どのタイミングで走ったら盗塁で成功するか、というのが感覚的にわかるんです」
盗塁の失敗はほとんどないというし、野球センスの塊だ。
いつだったか、「キャプテンも自分がやるべきものだと思っていた」と言う。その自信の裏にどれだけ練習してきてか、という拠り所があるのだろう。
しかし、明るくブレない大黒柱が大泣きしていて驚いたことがある。WBSC U-18ベースボールワールドカップ韓国戦でのことだ。サードを守っていた自らの送球ミスで同点に追いつかれ、延長で敗れた。負けられないゲームで責任を背負ったのだ。
ここから石川の新しい野球人生の反攻がスタートする。
(文・清水岳志)