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高校野球

安定感、完成度は既にプロレベルの笑顔のエース 奥川 恭伸(星稜高)【時は来た!ドラフト指名を待つ男たち 高校生編】

奥川 恭伸(おくがわ やすのぶ)
●守備 投手●身長・体重 183cm・82kg
●生年月日 2001年04月16日●所属 星稜高
●球歴 星稜高●出身地 石川県●投打 右右
【写真提供:共同通信社】

 今年の星稜は「必笑」が合言葉で、笑顔が印象的だった。履正社との決勝戦の奥川も4番の井上にホームランを打たれた時も、マウンドで一瞬、「しまった」という顔をしたが、直ぐに笑顔に戻った。

 ところがゲーム後、スタンドに挨拶に行って戻ってきて、インタビューを受けた直後、号泣し始めた。閉会式の途中まで顔はうつむいたままで、肩が揺れていた。

 涙が止まらなくなったのはスタンドにいた「中学時代の恩師に声をかけられた」からだそうだ。

 その宇ノ気中時代、捕手の山瀬とともに全国優勝。そろって星稜に進学し、夏の決勝戦まで来たのだから、有終だろう。

 奥川の高校野球人生はドラマチックだ。星稜の1年生の春の北信越大会では早くもベンチ入り。秋にはエースの座に就く。2年のセンバツはリリーフで2戦連続逆転勝ちに貢献した。自らサヨナラヒットも打っている。

 夏は背番号1を背負い、甲子園の開幕ゲームの藤蔭戦で、先輩の松井秀喜氏の始球式の傍らにいた。2回戦の済美戦では13回タイブレークの末に11対13で敗戦を経験。6点を先取しながら自身は足をつって4回で降板している。

 3年のセンバツは履正社に完封勝ちするも、習志野とは「サイン盗み疑惑」のゲームで敗退。と、様々な出来事とともに歩んだわけだ。

 そして今年の夏。3回戦、智辯和歌山との激戦は名勝負の一つになった。延長14回、タイブレークでの決着。

 この試合で奥川は投手としてのポテンシャルのすべてを表現したと言っていい。

 奪三振23個、最速154キロ。球速は14回になっても150キロ台を計測している。被安打はわずかに3本。スライダー、チェンジアップ、フォークと全ての変化球を決め球として使って三振を奪った。与えた四死球3個と制球力も申し分ない。

 また、延長13回と14回。無死1、2塁からの送りバントを、2回とも自ら取って三塁で封殺して得点を与えなかった。マウンドを駆け下りる姿には鬼気迫るものがあった。

 昨年のBFA U18アジア選手権で永田監督が言っている。

「2年生の奥川は来年、中心選手となるように頑張って欲しい」

 その言葉通りに韓国で行われたWBSC U-18ベースボールワールドカップのカナダ戦、約束を果たす。ソロホームランを許したが7回を投げ、21アウトのうち、18のアウトを三振で奪った。投球数も規定の105球以内。最後のバッターは狙って3球三振に切って取って104球で収めた。

 それでも「ホームランは球種を間違えたし、満足をしていられない」とゲーム後に言っている。奥川はいつもそうなのだが、反省がまずある。謙虚でその向上心には感心する。

 スカウトの間で「巨人の菅野智之みたい」と言われているという。「高校生なのに変化球をコースに投げ分けて、緩急をつけられる」とも。

 すぐにでもプロで通用する力があるという人は多い。完成度、安定感は今年のアマチュア球界ではナンバーワン。松坂大輔や田中将大ぐらいの活躍をする予感がある。

(文・清水岳志)