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プロ野球

楽天投手陣に見る、カーブの活用法

写真提供:共同通信社


■0ストライクからカーブを狙う打者は少ない

 野球の長い歴史と共に、多種多様な発展を遂げてきた変化球。近年では、シュート(ツーシームやワンシームもこれに類する)やカットボールといったムービング系の球種が隆盛を極めている。高速で小さく変化させることでバットの芯を外すことに主眼を置いたこれらのボールは、うまく機能すれば少ない球数で凡打の山を築けるため、特に先発投手にとっては習得する価値が高い。実際に直近10シーズンにおける球種別投球割合の推移を見ると、近年はシュートやカットボールが漸増しているのが見てとれる。

 ところで、他にも増加傾向の球種があるのにお気付きだろうか。数ある変化球の中でも、最も基本的なボールとされるカーブである。この背景としては、ディクソン(オリックス)に代表される、従来のカーブよりも鋭く曲がるナックルカーブの使い手が増えたことが挙げられるだろう。とはいえ、球速が遅く変化も大きい、前述のムービングボールとはまさに対極といえる球種が流行しているのは、いささか意外にも映る。

 では、カーブを投じるメリットとは何か。最も単純で明快なのは、基本的に打者が狙ってこない球種ということだ。ここ5年間でストライクゾーンへの投球がどの程度の割合で打者にスイングされたかを、球種とストライクカウント別にまとめたのが表2である。見ての通り、カーブに対するスイング率の低さは際立っており、特に0ストライク時はわずか27.6%にとどまっている。乱暴にいえば、0ストライク時にカーブをストライクゾーンに投げさえすれば、7割以上の確率で見送りストライクを奪えるということだ。確かに、打者が若いカウントからカーブにタイミングを合わせてくるのはあまり見かけない姿であるし、狙っていないボールに手を出して凡退でもしたら悔いが残るという心理も少なからず影響しているのだろう。

■カーブを多投する楽天先発陣

 そんなカーブを今季最も積極的に投じているのが、パ・リーグの首位を快走する楽天の先発陣である。ローテーションに定着している5投手を昨季と比較すると、全員が同球種の投球割合を増加させているのだ。中でも、辛島航は昨季の倍近く、則本昂大はほぼ倍の頻度で投じており、美馬学に至っては全投球の23.7%を占めている。これが球界屈指のカーブボーラーである岸孝之の加入にインスパイアされたものかは定かでないが、先発投手全体に同様の変化が生じていることから、チームとして何らかの狙いがある可能性も考えられる。

 さらに、その使い方も興味深い。今季の楽天先発陣のカーブは、ただ投球割合が増えただけでなく、特に0ストライク時に集中しているのである。表4、5は、先発投手がどのカウントでカーブを投じたかを割合にして表したものだが、0ストライク時における楽天の49.7%という数値はリーグ内でも際立っており、昨季の自軍と比較しても4ポイント弱高い。一見すれば、球速が遅いだけにたやすく痛打される危険があるボールを、同じカウントで投げるのは不用意にも思える。しかし、0ストライク時のカーブといえば、打者がストライクゾーンの7割以上を見逃すのは前述した通り。見方によっては、データに基づいた合理的な配球という解釈もできるだろう。

■カーブでカウントを稼ぎ、優位に立つ

 実際に、ここまではその配球が実を結んでいる。表6の通り、0ストライク時の投球がストライクになった割合(安打、凡打など、インプレー打球になった投球を除く)はリーグトップの57.6%を記録。もちろん、他の球種でも安定してストライクが取れてこその数字ではあるが、ここにカーブの多投が大きく作用しているのは間違いない。

 そして、着実に1ストライク目を奪うことは、高い確率で打者を追い込むことにつながっている。表7は全ての打席に占める2ストライクになった打席数の割合を示したものだが、楽天の54.6%という数値は他球団と比べてもひときわ高いことが分かる。言うまでもなく、2ストライクになれば三振の可能性が生じるため、打者はボールゾーンに手を出しやすくなり、投手が圧倒的に有利な状況になる。ここまで先発防御率がリーグ2位の3.24と安定しているのも、こうした投球の組み立てが一助となっているのかもしれない。

 今季はカーブを駆使して優位なカウントを築いている楽天先発陣だが、あくまで「0ストライクからカーブを狙う打者は少ない」という傾向が、現時点ではその通りに出ているにすぎない。仮に他球団がカーブを徹底的にマークするようになれば、これまでのパターンが崩されてピッチングに窮するかもしれないし、むしろそれを逆手に取った配球で抑え込む可能性もある。こうした腹の探り合いも、野球というスポーツにおける醍醐味(だいごみ)のひとつだろう。今後はペナントレースの行方とともに配球などもつぶさに観察していくと、水面下での攻防に気付くかもしれない。

※データは2017年5月17日現在

文:データスタジアム株式会社 佐藤 優太