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小中学野球

野球の未来へ ‐ 用賀ベアーズの取り組み

日本野球界の頂点に位置するのがNPBなら、底辺を支えているのが学童野球だ。ただ、少子化の影響もあり、全日本軟式野球連盟の小学生の軟式野球登録チーム数は2010年から2014年までの4年間で、2000チーム近くが消滅したと伝えられている。だがそんな中でも、子供たちに愛情を注ぎ、熱い指導をしているチームは今もたくさんある。
ある日曜日、東京都世田谷支部予選決勝の会場にうかがい、この試合に勝利した用賀ベアーズAの取り組みを取材した。

東京都世田谷支部予選決勝で勝利し、写真におさまる用賀ベアーズナイン

結果はどうあれ、野球に正面から向き合ってほしい

「学童野球の甲子園」と呼ばれる大会があるのを知っているだろうか。それは全国に約1万2千ある(2016年度)学童野球チームの頂点を決める「マクドナルド・トーナメント」(正式名称:高円宮賜杯全日本学童軟式野球大会マクドナルド・トーナメント)だ。市区町村大会を勝ち抜き、都道府県大会出場となったチームには細長いワッペンが、都道府県大会を勝ち抜き、全国大会出場となったチームには四角いワッペンが贈られる。学童野球の球児にとってこのワッペンは憧れであり、これをユニフォームの右袖に付けることは誇りでもある。ちなみにNPBの中にも「マクドナルド・トーナメント」全国大会に出場したことがある選手は少なくなく、例えば今年のWBCに侍ジャパン野球日本代表として出場した東北楽天のエース・則本昂大投手も、多賀少年野球クラブ時代に出場している。
 昨年、この「マクドナルド・トーナメント」全国大会につながる東京都世田谷支部予選を勝ち上がったのが、用賀ベアーズである。世田谷区で2チームが東京都大会に進める中、用賀ベアーズは「A」だけでなく、「B」も準決勝に勝って出場権を獲得。そのため、決勝は世田谷大会初の同一チーム対決となった。
 同じチームで2チームが、出場するのも難しいと言われる都大会へ。実はこれは用賀ベアーズの取り組みの成果でもある。
 「ウチは学年ごとにA(6年)、B(5年)、C(4年)、D(3年生以下)と4チームに分かれていて、それぞれで活動しています。監督やコーチも異なります。AからDまでの中で一番いいチームを作ろうと切磋琢磨している感じでしょうか。ただこれができるのも64名と世田谷区では部員数が多いのと、協力してくれる親御さんがいるから。父兄コーチは全部で40人くらいいるんですよ」

用賀ベアーズはAからDまで、たくさんの父兄コーチが指導にあたっている

 教えてくれたのは用賀ベアーズAを率いる阿久津太監督。「A」の選手たちを「C」の時から監督として指導している。高校球児だった阿久津監督は14年前、長男の用賀ベアーズ入団を機に父兄コーチに。長男の卒団後、監督になった(用賀ベアーズは原則的に父兄の時は監督ができない)。少年野球指導歴は、中学の野球部を指導していた4年間を含めると今年で15年になる。選手たちには「結果はどうあれ、1つの物事として野球に正面から向き合ってほしい」と考えている。

生還した選手を出迎える阿久津 太監督と父兄コーチ

試合はあくまで選手たちの成長を披露する場

用賀ベアーズAは今年の東京都世田谷支部予選を制し、2年連続都大会出場に花を添えた(昨年のチーム名は用賀ベアーズB)。ただ阿久津監督は「勝つことで、目標を達成することで、学ぶことは多い」としながらも「試合はあくまで子供たちの成長を披露する場なので」と、目先の勝ち負けにはこだわっていない。

試合中に投手のもとへ行き、アドバイスを送る阿久津 太監督

「今のチームはたまたまいい選手に恵まれて勝たせてもらってますが、以前、監督をしていた時のチームはあまり勝てなかったんです。チームが強くてもそうでなくても、この思いは同じです」
試合では肩・肘にかかる負担と将来を考慮し、投手は必ず継投でいく。取材したナインスターズとの東京都世田谷支部予選決勝でも、先発・小川隆太郎君、二番手・村上迅太君、三番手・細澤貴道君と、3人のリレーとなった。

二番手として登板した村上 迅太君

用賀ベアーズBとして出場した昨年の都大会は、5年生だけのチームということもあり、阿久津監督いわく「こてんぱんにやられました」。ただ悔しい思いは選手たちの最大のモチベーションになっているようだ。投手兼一塁手で、打っては四番とチームの中心を担う小川君は「今年の都大会では去年のリベンジをしたい。東京で3位までに入って全国に行きたいです」と目を輝かす。小川君の将来の夢はプロ野球選手。「北海道日本ハムの大谷翔平選手のように、投げて、打って、走れる選手になりたいです」。

東京都世田谷支部予選決勝で先発した小川隆太郎君

用賀ベアーズは1978年発足。少子化が叫ばれるようになってからも、部員数は例年60名前後と変わらない。これまで積み重ねてきた愛情あるチーム作りの賜物だろう。卒団部員数は440名を数える。前述の通り、用賀ベアーズはAからDまでの4チームが切磋琢磨しているが、試合の時は″オール用賀ベアーズ″で一丸となって応援するなど、代々まとまりもある。モットーは「礼儀・集中力・感謝そして協調~強靭な身体と思いやりの心の育成を目指して~」。AからDまで、正月以外の毎土日、祭日は地元の中学、小学校の校庭で練習に励んでいる。
「昔はいろいろな遊びの中で基礎体力がついたんですよ。でも今はそういう時代じゃない。だからこそ、広いところで思い切り体を動かす機会を作ってあげたいんです」とチーム代表の鎌田嘉次さん。野球界の礎を支え続けてきた用賀ベアーズは、来年2018年に発足40周年を迎える。

普段はAからDまで分かれて活動しているが、試合時は「オール用賀ベアーズ」で一丸となって応援する