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<打球速度考察>研究者から見る「打球速度」、飛距離を伸ばすための条件とは?【NISSAN BASEBALL LAB】

■打球速度とヘッドスピードの関係性

 新たなテクノロジーの開発とともに発展を続ける野球界。新たなデータが次々と提示されているが、その中で今、最も注目を集めている指標が「打球速度」である。

 海の向こうのMLBでは、2015年から全球場において新たなデータ収集システム「Statcast」(スタットキャスト)が導入され、様々なデータが収集可能になった。その中で「打球速度」も計測され、メジャーの一線級の選手たちは180km/台から190km/h台の打球を連発させている。

 日本でも昨年7月に開催された「マイナビオールスターゲーム2018」のホームランダービーで打球速度を計測して話題を集めた。

 それでは、この「打球速度」を上げるためにはどうすればいいのか。国立スポーツ科学センターでスポーツバイオメカニクスを専門に、10年ほど前から「打球速度」について研究してきた城所収二氏によると「ヘッドスピードを上げることが最も大事になる」という。

図1)

引用元:城所・矢内(2017)バイオメカニクス研究.21(2):52-64.

引用元:城所・矢内(2017)バイオメカニクス研究.21(2):52-64.

 城所氏が収集したデータ「打球速度とヘッドスピードの関係」(図1)を見る。ここで注目したいのは、右上がりの赤線より上にデータがないことである。例えば打球速度160km/hを出そうとすれば、ヘッドスピード130km/hが最低でも必要ということがわかる。

 だが同時に、「図で見ても分かるように、同じヘッドスピードでも打球速度にはかなりバラつきがある」と城所氏は補足する。これは、打球速度が速くなる条件として「インパクトの際の正確さが重要になる」ということ。ホームランに最低限必要な打球速度は確かに存在するが、そのためにはヘッドスピードの速さとともに、ボールをバットの芯できちんと捉えることが大事であるということが、データ上でも改めて分かる。

■打球速度を大きくするインパクトの条件

 打球速度が速くなれば、必然的に飛距離は伸びる。ただ、それには条件がある。飛距離を伸ばす要素は「打球速度」だけでなく、打球の「角度」と「回転数」が関係する。城所氏が説明する。

 「飛距離に与える影響が一番大きいのは打球速度ですが、それだけではありません。ホームランを打つためには水平面から20度から35度ぐらい上向きの弾道が理想的です。しかし、打球速度だけを考えると、ボールの中心を捉えることが最も重要ですので、フライよりもライナーの方が速くなります。

 つまり、ホームランの打球は、その選手にとって一番速度の大きな打球ではなく、わずかに中心を外した打球といえます。そして、もう1つの要素である回転数は、確かに同じ速度と角度の打球ならば、強いバックスピンほど飛距離を伸ばします。しかし、打球速度と回転数は密接に関係しており、回転数を上げようと過度にボールの下側を叩くと打球速度が低下してしまいます。そのため、ボールに対してバットをどう当てるかが重要になります」(図2を参照)

図2) 図2打球速度を大きくするインパクト条件

 ここで効果的になってくるのが、「アッパースイング」である。城所氏は「打球速度を大きくして飛距離を長くしようとした時、アッパースイングは絶対条件になる」と語る。そして大事なのは、「アッパースイングという言葉の解釈」だと強調する。
 
 「最初に高い位置にバットを構えていて、そこから振り下ろしながら身体とバットを回転させて、フォロースルーで上に向かう。その軌道の中でバットにボールを当てる。アッパーなのは、インパクトの瞬間だけとのこと。

 ただ闇雲に下から上に振り上げるスイングは良くないですけど、下手に上から下に叩くという意識でスイングすると飛距離は伸びない。それよりも身体の前で捉えることが大事になりますし、前の方でボールを捉えようとすれば自然とアッパースイングになる。それができれば自然と打球に角度が付きつきやすくなります」

 MLBでは「フライボール革命」が流行しているが、そのためのアッパースイングは、打球速度を上げて飛距離を伸ばす点から見ても理に適っているということになる。

■良いバッターの条件とは!?

 打球速度を上げるためにはヘッドスピードが重要であり、飛距離を出すためにはアッパースイングが必要になる。そしてヘッドスピードを速くするには、「身体を勢いよく回転させるために、地面を強く蹴るということが大事になる」と城所氏は言う。

 そして、その「地面を蹴る強さ」というのは、筋力の強さ、身体の大きさがどうしても強く影響する。ひと昔前と比べれば随分と変わって来てはいるが、MLBのトップレベルの選手たちと比べると、まだまだ日本人はその部分で見劣りする。

 その事実を踏まえた上で、城所氏は「打球速度が速ければ、それだけで一流選手かと言われれば、そうとは言い切れない。打球速度は、打者の打った打球の特徴を表す一つの指標に過ぎない」と語る。

 事実、打球速度が遅くても優れた結果を残す選手も多く存在し、侍ジャパンも世界舞台で頂点に立った過去がある。だが同時に、「打球速度の有効性」も認める。

 「打球速度が速かったとしても、野手の正面ではアウトになりますし、スタンドに入りさえすれば飛距離の大小にかかわらずホームランはホームランです。ただ、速いスピードでバットを振れるというポテンシャルがあれば、多少バットの芯を外してもホームランになり得ますし、8割の力で余裕を持ってバットを振れるというプラスもある。それにホームランを打てなかった時にどうなるか。打球速度が速ければ、例え角度がつかずホームランにならなくてもヒットになる確率は高くなるでしょう」

 昨年のオールスターでは、柳田悠岐(福岡ソフトバンク)がホームランダービーで平均打球速度164km/hをマークして「日産ノート e-POWER賞」を受賞したが、その柳田のバッティングについて「インパクト直前のアッパースイングが特徴的であり、飛距離を出すための理想的なスイングをしていると思います」と城所氏は語る。

 これから先、柳田のスイングを真似した子供たちが多く育つこと。それが日本人打者の破壊力と魅力をアップさせ、日本野球の改革へと繋がることになるはずである。

城所氏写真

「打球速度」について研究してきた城所収二氏

■城所収二 博士(スポーツ科学)
1985年12月20日生まれ。愛知県出身。新城東高―中京大―早稲田大大学院スポーツ科学研究科。
国立スポーツ科学センターのスポーツ研究部に所属し、スポーツバイオメカニクスを専門に野球、ソフトボール、卓球や、スキー・スノーボードなどの雪上競技を中心に、研究やアスリートサポートを行っている。

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