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プロ野球

【内田雅也の追球】「アシスト」となった粘り

 ◇交流戦 阪神8―2ソフトバンク(2019年6月12日 ヤフオクD)

<ソ・神>4回1死、原口(中央)は和田(左)から右前打を放つ(撮影・坂田 高浩)

 日本語で次打者席と呼ばれるネクスト・バッターズ・サークルは直径5フィート(約1メートル52)の円形である。アメリカでは俗に「デッキ」と呼ぶ。

 この場所でバットを持ち、素振りする打者もいるが、座って待つのが本来のあり方だ。

 そして見るのである。

 状況を把握し、集中力を高め、相手投手の投球を観察する場所なのだ。

 阪神のヒーロー、梅野隆太郎は次打者席でよく見たことで殊勲打を打てたのだ。4打点を呼んだのは目の前で打席に立っていた原口文仁である。サッカーで言えば、ゴールを決めたのは梅野で、原口はアシストだった。

 たとえば、1点を先取された直後の4回表1死、原口は6球連続ファウルするなど9球粘り、右前打で出塁した。内角速球に詰まりながら、打球は右翼線にポテンと落ちた。粘り勝ちである。

 直後に打席に入った梅野は2ボールからの3球目直球を左翼席に逆転2ランを放ったのだ。

 梅野は「グッチ(原口)がしぶとく塁に出てくれたので、自分も後ろにつなぐ意識で打席に立ちました」と話していた。原口の打撃やその姿勢をよく見ていたのである。

 6回表の原口は連打での無死一、二塁で打席が回った。今度も3本のファウルで粘り、8球目の外角チェンジアップに泳ぎ、打球は三塁前へボテボテのゴロとなった。進塁打となって1死二、三塁をつくった。

 すると梅野も原口を見習うかのように外角チェンジアップに食らいついた。ゴロは三遊間を抜ける左前2点打となった。

 原口は梅野の目の前で懸命に粘っていた。梅野は相手投球に加え、打者の対応をよく観察できた。この5、6番のコンビでソフトバンク先発の和田毅をKOしたのだ。

 プロ13年目、38歳の和田の投球にはベテランの味があった。緩急や変化球を巧みに使い、さらに間(ま)を上手く使っていた。走者なしでも長い間合いを取り、当初、阪神打者は対応に戸惑っていた。4回表の原口も和田がサインをうかがっている最中に頭を下げてタイムを取ったほどだった。

 ピュリッツァー賞を4度も受けた米国の詩人、ロバート・フロスト(1874―1963年)は「詩人は、野球の投手のごとし」との名言を残した。「詩人も投手も、それぞれの間を持つ。この間こそが、手ごわい相手なのだ」。

 そんな手ごわい投手の攻略に向け、原口は食らいついた。大腸がんから復活した原口は4日ロッテ戦で復帰し、代打での出場が続いていた。この夜は復帰後初先発で見事に役目を果たしたと言えるだろう。

 =敬称略=

 (編集委員)