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【奪え!主役の座②センバツ2017】「クセがすごい!」不思議系左腕・川口龍一(至学館)

3月19日に阪神甲子園球場で開幕する第89回選抜高等学校野球大会(以下、センバツ)。

その開幕戦に登場する至学館(愛知)の先発投手として登板濃厚なのが左腕・川口龍一だ。背番号10をつけ、サイド気味の角度から投げ込んでくるサウスポーである。変則タイプで、驚くような球種こそないが、昨秋の公式戦で好投した不思議な魅力に迫る。

川口龍一(かわぐち・りょういち)・・・2000年2月28日生まれ。富士シャーク(軟式)→東山クラブ(軟式)→至学館高3年。171cm・70kg。左投左打。至学館高に隣接する名古屋市立矢田中の出身。左サイドハンドから内外にストレート、スライダーなどを投げ込み打たせて取る。背番号10だが昨秋公式戦では16試合中15試合で先発を務めた。

★“抜け球”こそベストボール

上背もなければ、球速も十人並み。そんな左のサイドスローだから、投球はまとまっているのかと思いきや、コントロールも案外アバウトだという。

麻王(あさお)義之監督は「ヒットを打たれて毎回のようにランナーを出すけれど、なぜか相手にチャンスで一本が出ない。ただ、川口がナイスボールを投げたというわけでもなくて、投げ損じてもいるんですけど…。左打者のアウトコースに投げたつもりが、コントロールがないのでインコースに抜けるんです」と解説する。

その“抜け球”が、川口にとってのベストボールでもある。捕手の井口敦太は「逆球が川口の一番いい球です。中京大中京戦(昨秋の東海大会準決勝)では、左打者がインコースの球に詰まってフライを打ち上げてくれました。逆球は、捕球する僕でも反応しきれないときがあります」と証言。

ギャップが打者を戸惑わせる。麻王監督も「偶然の産物というか…。でも実際、まとまりだすと打者に見切られるし、ひっかかって左打者のアウトコースしかいかないようでもダメなんです」と付け加える。

投球フォームはかなりインステップで踏み込む。川口自身も「インステップで投げれば、左打者にとっては背中からボールがくる感じになる」と意識している部分だ。クセの強さが打者に効く。麻王監督は「通常のインステップよりもさらにインステップしている。普通ならストライクも入らないぐらいで、なかなか投げられないボールの軌道ですよね」と個性を認めている。

★素顔も不思議系?

指揮官は、川口を「何を考えているのか分かりづらい、難しいタイプの子」と表現する。

「ポーカーフェイスで調子がいいとか悪いとかの自己主張もないし、調子もその日になってみないと分からない。背番号1は、ピッチャーらしい性格の新美(涼介)のほうが似合うんです(笑)」。

ただ、のんべんだらりとした雰囲気と、予想できない荒れ加減が武器にもなる。麻王監督は笑いながら話を続けた。

「いいバッターが的を絞れない。キャッチャーが捕りにくいぐらいだから、バッターはなおさら読めない。指導している僕らも予測できないんですから(笑)。そもそも甲子園に連れていってくれるピッチャーだなんて、当初は思いもしなかったです」

愛知県は「私学4強」と呼ばれる愛工大名電、享栄、中京大中京、東邦が伝統的に強い。至学館は昨秋、公式戦で4校すべてと対戦し、いずれもサヨナラ勝ちするミラクル劇を演じた。その4戦で先発し、終盤までロースコアの接戦に持ち込んだのはやはり川口だった。感情こそ表に出さないが、本人は私学4強を前に「他のチームと対戦するときより気持ちが高ぶって、やってやるぞという気持ちでした」と、さらりと振り返る。

背番号10の謎めいた左腕は、センバツでも「いけるところまでいき、リリーフの新美につなぎたい」と静かに闘志を高めている。

文・写真=尾関雄一朗