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侍ジャパン

立浪和義氏&和田一浩氏が語る 「侍ジャパンへの期待」と「WBCで得たもの」 記事提供=Baseball Crix

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 ともに中日ドラゴンズを牽引した看板選手、立浪和義氏と和田一浩氏。立浪氏は2013年の第3回WBCで打撃コーチを務め、和田氏は2006年の第1回WBCに選手として出場しており、WBCとの縁という共通点もある。そんな両氏に、間もなく開幕するWBCについて侍ジャパンが勝ち抜くためのポイント、そして、コーチや選手として参加したWBCでどんな経験を得たのかなどを聞いた。

「問題は投手。会場の東京ドームに怖さ感じる」(立浪)

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――以前、立浪さんはあるインタビューで、「WBCでは大谷翔平選手(日本ハム)を投手に絞って起用してはどうか」とおっしゃられていました。背景には、侍ジャパンのバッターに対する一定の評価があったかと思います。

立浪 はい。バッターは、それなりにミートがうまい選手がそろっていると思っています。ただ、本番で打てるかどうかは分からない。大会がはじまった時点で、どれだけ状態を上げられるかという問題はありますよね。それよりも、今回はピッチャーが問題だろうと思っていて、ここ一番となると大谷くらいしかいないなと思っていました。そこで、大谷が離脱してしまった……。となると、菅野(智之/巨人)、則本(昂大/楽天)か。則本は後ろなのかな?

和田 中継ぎですかね。

立浪 球数制限が5球減ったし、中継ぎも大事になるからね。でも、やはり先発は大事ですよ。武田(翔太/ソフトバンク)や藤浪(晋太郎/阪神)は制球面が気にかかる。前回大会、打撃コーチではありましたがベンチに入らせてもらって、フォアボールの心配をしないといけないピッチャーはやはり不安。あと、今回は会場がホームランの出やすい東京ドームというのも投手にとっては厳しい。しかもいきなり、「よーいどん」でキューバと当たるんで怖いですよね。ホームランの出方次第で、どうなるかわからない。もちろん、侍ジャパンのバッターにとってのメリットにもなるけれど。

――まず先発投手が頑張ってもらって、というのが上にいく最初の条件。

立浪 野球って8割……は少しオーバーかもしれないですけど、プロ野球でも先発投手でそれくらい勝敗が決まりますよ。それ次第では、今回微妙やな。

和田 先発が踏ん張れないと、危ないかもしれないですね。頑張ってほしい。

――和田さんは、今回の侍ジャパンの準備を見ていてどのあたりに目がいきますか?

和田 やはりピッチャーですね。特にボールについて。これは永遠のテーマですが、どの大会でもボールへの対応は課題として出ます。そのうえ、3月の時期の東京ドームってとても乾燥しているんですよ。沖縄よりも乾燥しているはず。だから、キャンプで一生懸命ボールに慣れても、当日は絶対に滑る。外野手の自分でも滑るような感覚があったので、ピッチャーだとなおさらだと思います。持っている能力は高いピッチャーはたくさんいるのですが、ボールに対応できた投手とできなかった投手の差はどうしても出る。ローテーションを組むときに、状態の悪いピッチャーはもちろん、ボールに慣れきれていない投手をしっかり見極めることができるか。その部分に関しては、バッターも同じですけどね。すごいバッターでも、調子が悪ければあっという間に終わるので。

立浪 うん、大事なのは監督とコーチの見極めに尽きる。

「WBCはプロの戦いという意識。五輪とは少し違った」(和田)

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――「あっという間に終わってしまう」というのは、コーチ、選手としてWBCを経験した方がおっしゃると重いですね。

立浪 僕は経験していないですよ。あくまでも、コーチとしてベンチにいただけですから。そこは、和田さんに聞いてください。

和田 いやいや。ぼくも大したことしてないですよ。ほとんど補欠でしたから。

立浪 出場したのは、第1回か。なんでベンちゃん使わないんだよ。

和田 いやいやいや(笑)。

――第1回のときは、和田さん以外にも、宮本慎也さん(当時・ヤクルト)や谷繁元信さん(当時・横浜)などベテラン選手も代表に名前を連ね、出場機会は限られていましたものの、チームを支えたと伝えられています。

和田 うーん、そんなでもないですけどね。WBCは、あくまでもプロフェッショナルの集まりですから。アマチュアの大会としてのルーツでもあるオリンピックにも出場しましたが、なんとなくそれとは違う空気があったと思います。WBCは、意識としては完全にプロの戦いです。

――プロとして、個々に責任を果たすということが先にくる。

和田 大会に対する選手のモチベーションはそれぞれ違うと思います。あくまで僕の場合なので、他の選手のことはわかりません。ただWBCの場合、第1回、第2回で優勝したので、周囲から当然のように優勝を求められている。先入観のないなかで戦えていた第1回のメンバーよりも、いまの侍ジャパンの選手のほうが苦しいと思います。

立浪 前回3位になっているから気は楽でしょう(笑)。

――立浪さんたちは、そういうプレッシャーをかなり受けながら戦ったかと思います。

立浪 プレッシャーはあったんですけど、自分はコーチですからね。選手のほうがもっと感じていたと思います。ただ、負けたときにきつく叩かれるのは覚悟していました。関係ないことまでね。

和田 僕らの頃より、いまのほうが間違いなくハードルは上がっていますよ。

「中田翔をつきっきりで指導できたのはいい経験」(立浪)

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――振り返ってみたとき、野球人としてWBCを経験したというのはプラスになっていますか?

和田 プラスになったと思います。いま、選ばれている選手もいいモチベーションを持って過ごしていると思うんですよね。そういう時間はこれからに向けてプラスになるはずです。打ったり抑えたりすれば当然プラスになるし、失敗したってプラスになる。

――ペナントレースにも生きるようなプラスなのでしょうか?

和田 WBCやオリンピックは、ものすごいプレッシャーのなかで戦うことになるので、ペナントは余裕を持って臨める感じにはなりました。そういう面でプラスになるかなとは思いますね。

――立浪さんはコーチを通じて、新しい発見や得たものはありましたか?

立浪 コーチといっても、集まっているのはいい選手ばかりなのでね。ひとつ言うなら、中田翔(日本ハム)がいたので、ずっとつきっきりでやったことかな。まだあまり形ができていなかったのでやりがいもあった。次の、つまり今回のWBCの主軸ということで、伸びしろも考えて山本浩二さんが選んだ選手を指導できたのはいい経験でした。試合がはじまったら、それこそ祈るような気持ち。「頑張ってくれー!」って感じでした。

――シーズンを通して指導する球団のコーチとは意味合いが違って、気持ちよく自信を持たせて送り出すためのサポート役という部分もあるのでしょうか。

立浪 時期も早いから、なかなか調子上がらない選手もいる。前年の成績が全然参考にならないところがあるからね。そういったことも難しいポイントです。

――最後に、相手で気になる国があれば教えてください。

立浪 前回大会で優勝したドミニカ共和国ですね。名前だけ見たら、すごい選手がたくさん出ていますから。アメリカもそう。でも、そこまで行かないといけないんですよね。2次ラウンドで戦う韓国とかオランダ、あのあたりにもメジャーリーガーは多いですから。繰り返しますが、なによりも1次、2次の試合がすべて東京ドームというのが怖いですよ。1、2点差だと一発で引っ繰り返ってしまう。アメリカの球場だったら、そんなにホームランが出ることはないという感覚はあるんですけど……。あとベンちゃんが言ったように乾燥、それから寒さも気になるよな。

和田 はい。そうですね。

立浪 今回はある程度、点を取られることを覚悟して、打線が点を取っていかないといけない。先制した後も、1点でも多く取りにいく姿勢を持ち続けてほしいね。

(プロフィール)
立浪和義
1969年、大阪府生まれ。PL学園3年時に甲子園で春夏連覇を達成。主将としてチームを牽引。その秋のドラフト会議で中日ドラゴンズから1位指名を受け入団。22年間、中日一筋でプレーし、「ミスタードラゴンズ」の名を受け継ぐ選手として愛された。通算487二塁打のプロ野球記録も持つ。2009年をもって引退し、現在は野球解説者を務める。2013年の第3回WBCでは、打撃コーチを務めた。

和田一浩
1972年、岐阜県生まれ。県岐阜商から東北福祉大、神戸製鋼に進み1996年のドラフト会議で西武ライオンズから4位指名を受け入団。打力を評価され捕手から外野手にコンバートし才能が開花する。2005年には打率.322で首位打者を獲得。2007年にFA宣言し、翌年中日へ移籍。2015年には、史上最年長で2000本安打を達成。引退してからは野球解説者として活動。国際大会には2004年のアテネ五輪、2006年の第1回WBCへの出場経験がある。

文/BBCrix編集部 写真/榎本壯三

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