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高校野球

2ホームランと完封の石川 東邦が平成最後も制す【第91回選抜高等学校野球大会】

選抜高校野球大会閉会式  優勝しナインに胴上げされる東邦・石川主将=3日、甲子園球場【写真提供=共同通信】

こういうエンディングもあるんだなぁ。しみじみと感じさせる決勝戦だった。

 平成元年に優勝した東邦が平成最後にまた優勝する。そんな筋書きを後から、なぞるような東邦の6対0の快勝だった。

 石川昂弥(3年)というエースで3番で主将という大黒柱の存在が際立った。森田泰弘監督は石川にずっと言っていたという。

「お前が投げて打たなきゃ勝てないぞ」

 石川は前日の準決勝で143球を投げている。石川はトレーナーにマッサージをしてもらった、という。
「昨日の夜と今朝、聞いたら万全だというんで先発を決めました」と森田監督。

 1回表、習志野の1番、根本翔吾(3年)がセンター前ヒットで出塁する。しかし2番のピッチャー前のバントを石川が機敏にさばいてダブルプレー。最初のプレーで気分が乗ったはずだ。

 1回裏、東邦の攻撃、1死一塁で石川。

 ここまで1ホームランは出ているものの、打率は1割台。
「これまでピッチングに神経を使っていて、打席では集中できていないんですが、状態は悪くない」と自己分析していた。

森田監督も「今日は打ってくれると思う」とゲーム前、心配していなかった。

6球目まですべて外角の変化球でフルカウント。

「打てるボールが来なくて、追い込まれたんですが、コンパクトにバットが綺麗に出た」と7球目。123キロの甘く入った変化球をバックスクリーンの右に打ち込んだ。打球が速くて見失うほどの完璧な当たりで、センターも途中で追うのをやめた。

 5番・長屋陸渡(3年)のヒットと6番・吉納翼(2年)のスリーベースで計3点にする。

東邦打線は習志野の左腕山内翔太(2年)の低めの変化球にまったく、手を出さない。前日の明豊はそのボールで打ち取られていて、その分析ができていたのではないか。

 追加点はまたも石川のホームランだった。

5回、2死二塁。その回の途中からピッチャーが右の本格派、飯塚脩人(3年)に代わる。その飯塚の投げた初球、まずは様子見のようなスライダーだった。軽く当てたようなスイングだったが右中間スタンドまで運んだ。

「ベンチに戻って監督から、素晴らしい、と言われました」と石川はお立ち台ではにかんだ。

「(大会記録の3本のホームランで)能力のある子だと思ってます。人間的にもおおらかで気配りのできる子。去年打てなくて、今年にかける思いを近くで感じてました」
 森田監督のあらためての評価だ。

 5―0。

「満塁ホームランでも追いつかれない5点差をつけようと言っていたので、楽になった」と石川は言う。

 だが実は、ゲームが始まってすぐ、森田監督は不安だった。

「試合にはいって成沢(巧馬捕手・3年)が今日は石川のボールが来てない、というんです。石川に大丈夫かと聞いたら、任してくださいと」

 成沢が証言する。

「1回、2回と石川のボールにキレがなかった。肩の張りとか疲れではなく、上から投げると力が入らないと。4回に『横から投げるわ』と言ってきた。そこからキレが戻ってきた。横から角度のついたボールで相手も打ちづらかったと思います。秋の県大会でも横から投げていましたが、東海大会では上から。適応力、センスの高さはさすが」

 5回、習志野に送りバントをさせずにキャッチャーフライに打ち取ったり、詰まらせたファーストフライが多かった。4回と8回の2度のダブルプレーも大きかった。

「今大会を通じコントロールとキレは抜群。右、左打者のそれぞれに内角攻めができたことも勝てた要因だと思います」と成沢は言う。

 東邦の守りも光った。内野陣は強い打球を確実に取って、ファーストへの悪送球もない。
 また、外野の守備位置が的確だった。特に習志野の9番・小沢拓海(2年)の打席。極端に前に守ったが、ヒット性の当たりを3回にライト、6回にセンターが好捕する。

 ベンチ外の西出陽佑(2年)が明かす。

「メンバー外の何人かで相手チームの分析をします。打球の方向、スイングの傾向、配球などです」

 センターの松井涼太(3年)が続ける。

「試合前、分析してくれたデータをもらいます。それが当たった形です。後ろに逸れる恐さもありますが、石川のコントロールとテンポが良く、ストライク先行なのでポジショニングも大胆にとりやすい」

 被安打3、与四死球1。打席に立ったバッターは28人。ランナーを二塁まで進ませず、残塁1の投球内容。石川の繊細な制球力と緻密な守備陣形。それを堅実にアウトにする高度な守備力があった。

「個の力、組織力、完成度で点差以上の差があった。見習うものばかりだった」と習志野の小林徹監督をうならせた。

 両親が東邦の卒業生でもある石川は夏を語った。

「昨日、ミーティングで世代ナンバーワンだと思ってやれと言われました。優勝は自信になると思う。夏まで、また一からやり直す。この優勝は過去なので」

 森田監督は泣かなかった。

「平成の最初の優勝を見た瞬間(同校コーチ)に鳥肌が立って涙が出た。監督になった時(2004年)はこういう場に立ちたいなと思っていた。選手に感謝しかないです。
 伝統校として、最多の優勝校(選抜最多5回と最多勝利)として、出る時は必ず優勝しなきゃいけないと最近気づきました(笑)。平成の最後、是が非でもうちが取るんだと。肩の荷がおりました。春夏連覇を狙えるのははうちだけ。令和の夏に向けて明日から、やっていきます」

 万葉集から引用された元号。『初春の令月にして・・・』。

平成の春に作られた東邦の歴史は令和の夏へ、まだ続く。

(文・清水岳志)