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高校野球

習志野のしたたかさに はまった九州の雄・明豊【第91回選抜高等学校野球大会】

習志野―明豊 3回表習志野2死一、三塁、打者桜井のとき、一走との重盗を決める三走根本。捕手成田=甲子園【写真提供=共同通信】


 松井秀喜の5敬遠試合。
その時、星稜に勝った明徳義塾は次のゲームは大敗だった。他にもこういう例は多い。甲子園で物議をかもすと、だいたいは次のゲームで負けてしまう。悪者扱いされて精神的にダメージがあって当然だから。

 今大会、星稜戦でサイン盗み疑惑で騒ぎになった習志野。やった、やらないはともかく、習志野の隙をつく、そつがない、ミスにつけ込むなどなどの試合巧者ぶり。高校生らしくない勝負強さがある。
 
明豊は習志野のそんなところに取りこぼしてしまった準決勝だった。

 明豊は1回裏、表悠斗外野手(3年)の先頭打者ホームランで先制する。
さらに単打と四球で出た二人を置いて、5番の薮田源(3年)がレフト頭上を越えるツーベースで3点。ゲームの主導権を握った、かに見えた。

 表主将が言う。

「幸先良く3点を取れた。そこから続かなかったのがこちらの甘さでした」

 そして、川崎絢平監督が振り返った。
「最初の入りは最高でした。そこから向こうのピッチャーの配球が変わってきたのに対応が遅れて、中盤淡白になった。外からの変化球をバッターはボールと思ってしまう。チェンジアップも使われて的を絞れなかった」

 明豊はここから習志野の術中にはまっていく。

 3回表1死で、二塁ランナーは根本翔吾外野手(3年)。次打者の普通のショートゴロで三塁に進む。ショートの突っ込みの甘い守備を見逃さなかった。3番・角田勇斗(2年)が四球で2死一、三塁。
 4番の3球目、角田がスルスルとディレードスチール。明豊のキャッチャー、成田武蔵(3年)が二塁に送球。手からボールが離れる前、というタイミングで根本がホームに突進する。ダブルスチールが鮮やかに決まった。

 成田が悔やんだ。

「一塁走者のスタートが遅かったのでセカンドに投げてアウトでチェンジかと思いました。サードランナーのスタートがすごくよかった」

 習志野は4番・櫻井亨佑内野手(2年)のヒットで計2点を返した。この打球も変化球をバットに引っ掛けて一、二塁間を渋く抜いた当たりだった。

 6回まで両チーム無得点で進む。明豊の4、5、6回は三者凡退。習志野の先発、2年生左腕の山内翔太を捕まえられなかった。

 2試合連続逆転勝ち、こういう展開が習志野ペース。案の定、明豊の若杉晟太投手(2年)が持ちこたえられず、7回表に長短打で同点に追いつかれた。

 決勝点は8回、櫻井のソロホームラン。前の回に変わっていた明豊・大畑蓮(3年)から奪ったものだ。

 習志野のいやらしさはここからも続く。
2死から投手ながらバッティングのいい飯塚脩人(3年)がツーベース。8番兼子将太朗(3年)が三遊間を抜く。

 明豊・野上真叶左翼手(2年)は「ランナーが三塁ベースを回ってくるとは思わなかった」と言う。気持ちのスキがあったかも知れない。

片や習志野の三塁コーチ、佐々木駿太(3年)が明かす。

「試合前のノックを見てレフトの肩はあまり強くないと思っていました。二塁走者がピッチャーの飯塚なので二死ですが、アウトになった場合、疲れた状態でマウンドに立つので迷いがありました。レフトのボールへのチャージがゆっくりだったので迷いなく回しました」

 習志野はさらに攻撃の手を止めない。

 ヒットと死球で満塁。2番・竹縄俊希外野手(3年)は初球にセーフティバントの構えをする。投手・大畑の視界に入ったのか、投球がワンバウンドになってキャッチャーが後逸、3点差になった。

 成田は習志野に幻惑された。

「向こうは、いろんな動きをしてくる。ボールを多く逸らてしまったのも(記録上は暴投1のみ)、機動力を考えて警戒しすぎてしまった」

 明豊はこの日投げた若杉、大畑の他にも複数投手陣を揃える。また、大会前のチーム打率が出場校中3位。もともと打撃が持ち味のチームだ。

 川崎監督は智弁和歌山で1997年夏、初優勝した時に1年でベンチ入りして、以後、3年連続出場を果たす。大分出身の夫人の家族の事情もあり、大分にやってきた。そこから人との幸運なめぐり合わせもあり、2011年に明豊の部長、翌年から監督になった。
高嶋仁前智弁和歌山監督の教えを受け、教育者としての人格も申し分ないと言う。

 代打で4点目のタイムリースリーベースを放った青地七斗。昨年、大阪桐蔭の優勝メンバーの青地斗舞の弟だが、川崎監督を慕った一人だ。

「大阪桐蔭でお兄ちゃんと一緒にやりたい気持ちもありましたが、明豊は甲子園に出られると思ったので大阪から来ました。ここで敗れて、お兄ちゃんが優勝したすごさがわかりました。夏は優勝を目指します」と前を向いた。

 この大会では横浜、札幌大谷、龍谷大平安と強豪を倒した。川崎監督も多くのことを学んだと言う。

「いろんなタイプのチームとやらせてもらった。それらが財産になった。最後、1点取って粘りも見せた。習志野は派手ではないけど個人個人がしっかりしてる。堅実で辛抱強く、いいチームだなと思いました。うちも謙虚にしたたかに泥臭く。そういう気持ちでやれば夏まで伸びていくと思う」

 明豊の校歌は南こうせつ氏が作ったことは有名だ。

♪ 未来を創る旅 夢をあきらめないで 勇気 自分を信じ ♪

(文・清水岳志)