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高校野球

元女子校の啓新 伝統校を勝利の方程式で撃破【第91回選抜高等学校野球大会】

2回戦進出を決め、笑顔で応援席へ駆けだす啓新ナイン=甲子園 【写真提供=共同通信】


 5日目第3試合は関東王者の神奈川・桐蔭学園と福井県3位の啓新との対戦。

 桐蔭学園は16年ぶりの出場だが、夏の1971年に優勝経験があって、高橋由伸前巨人監督などプロ野球界にも多くの人材を輩出した伝統校だ。

 一方の啓新はそもそもの発祥が女子校だった。母体は1927年創立の福井精華女子学園で62年に福井女子高校に。そして共学になった98年、今の校名になった。今でも全生徒の約半数が女子で生活文化科、食物科などの特色あるコースで学べる。
 野球部は2012年にできたばかり。東海大甲府の名将、大八木治氏を招聘し、力をつけた。

 名門と新鋭のカードだ。

 今回の桐蔭学園にはキャプテンでショートを守る森敬斗という支柱がいる。森は秋の公式戦13試合で18打点、4本の価値あるホームランを放っている。中でも関東大会の常総学院戦は逆転満塁サヨナラホームラン。森が打てば勝つ、というチームだ。

 試合は啓新が序盤、3対2とリードして桐蔭学園に追いつかれることなく、最後は5対3で逃げ切った。

 森は3安打を放って1打点を挙げた。しかし、2回裏、2点を挙げて追い上げた2死満塁のチャンスで3球三振した場面が痛かった。

「(3安打も)満塁のチャンスで何かを起こそうと思ったけどできなかった。自分の責任です」と悔やんだ。
5回、レフト線を抜く当たりで、ファーストベースを踏み忘れて、セカンドに進塁できないミスも犯した。
「この大会で自信を得たことはない。ここでそんな気持ちになったら成長が止まってしまう」と夏を見据えた。

 森はさらにチームを引っ張る存在になってほしい、と片桐健一監督がキャプテンに指名したのだと言う。
「結果として今日は数字が出ました。成長した部分は感じます。ただ個人の能力を伸ばすだけではなく、勝利に繋げることですね。キャプテンなんで、どう牽引していくか私も含めて課題になると思います」
 森に期待を込めた。

 啓新の植松照智監督は「みんな、ずっとリラックスしているんです。甲子園に来たのかな、と言うぐらい」とゲーム前に笑っていた。
山澤太陽遊撃手(2年)が証言する。
「みんなが一つになって甲子園を楽しもう、と監督からいわれてたのでチームの雰囲気もよかったです。のびのびやれている。たとえ逆転されても不安はなかったです」
 そんな雰囲気の中、啓新は文字通り、自分たちの野球を実践した。

 まず、秋の啓新の粘り強い戦いを紹介する。
 若狭との県の3位決定戦、優勢に進めたが6回降雨ノーゲーム。再試合は延長10回を1点差で勝ち抜いて北信越大会の出場権を勝ち取る。

 北信越の初戦、富山第一とは0対2から6回に逆転。遊学館(石川)には2対2から7回に勝ち越し、準決勝の上田西(長野)は0対2から7回に4点を取って逆転勝ち。星稜との決勝は再試合で敗れるが、15回の延長戦を今大会ナンバーワン投手と言われる奥川恭伸と渡り合って引き分けてもいた。

「粘り強くついていく展開が理想。先発の安積(航大・3年)が粘って、リリーフの浦松(巧・3年)にうまく繋ぐ展開になれば。うちの勝利はそれしか、見出せない」とまで植松監督は言っていた
 必勝リレー。
啓新が勝つパターンとしてはこれがハマった時、と言っていい。

 安積は7回まで10安打を許したが自責は2点。130キロ中盤のストレートに変化球を低めに決めて粘投した。大量点を与えなかったことが大きかった。
「浦松にはいつでも行けるように準備をしておけと常に言っています。イニングの頭からリリーフさせたい」と植松監督が言っていたように、8回頭から浦松にスイッチ。これ以上の展開はなかった。
浦松はサイドスローながら球威のあるストレートで押した。ランナーは一人も出さない完璧な内容だった。

 植松監督は勝ってびっくりしたと言う。
「苦しい展開でヒヤヒヤしていた。先制して今までにない展開で怖さもありました(笑)。ピッチャーが低めを丁寧に投げてくれた。秋の大会も継投できて、今日もいい展開になった。完投できるピッチャーがいればいいんですが、まだその力がない。本当に二人で凌いで勝ってきたので」

 ピッチャーをリードしたキャプテンの穴水芳喜(3年)主将が言う。
「二人がそれぞれの個性のある投球をして、コントロール良く投げてくれる。タイプが違うので、むしろリードし易いんです。安積が代わるときは打たれたり疲れが出てきている時で、本人も納得しているはず。また浦松はピンチでも抑える自信を持っていると思う」

 植松監督は大八木氏が神奈川・相洋の監督の時の教え子だ。恩師に請われて2013年に福井にやってきた。
「高校生の時は、桐蔭学園さんとは対戦しないで終えてます。でも、あの名門のユニフォームを見ると強いなぁ、というイメージしかないんです」と笑った。

 故郷との小さな因縁も相まって、創部7年の学校がスタートを切った。

(文・清水岳志)