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高校野球

石岡一・岩本が強力打線を翻弄 「最後の最後に焦ってしまった」【第91回選抜高等学校野球大会】

盛岡大付―石岡一 11回裏盛岡大付1死満塁、島上の投ゴロを岩本(右)が本塁へ悪送球し、三走平賀がサヨナラの生還。捕手中山=甲子園


 今年の高校生最速投手は岩手県・大船渡の佐々木朗希投手と言われている。最速157キロを記録している快速右腕だ。盛岡大付は秋の県大会準決勝で10安打を浴びせて下した。

 日々のバッティング練習は高性能マシンを170キロのスピードに設定して、さらに1、2メートル前に置いて練習することもあるという。花巻東時代の大谷翔平(エンゼルス)に打ち勝ったこともある、伝統的に打撃には自信を持っているチームだ。

 ゲーム前に盛岡大付の関口清治監督の相手エース攻略法はこうだ。
「まっすぐに振り負けない。高めの速球につられないようにして低めの変化球を見極める。選手はストレートを特別に意識せず、速くないと思い込んほしい」

 対する茨城・石岡一は21世紀枠で選ばれた。県大会は夏の代表、土浦日大を準々決勝で破り、ベスト4に進出した。
その原動力となったのが右のオーバーハンドの岩本大地(3年)。中学時代、軟式野球の全日本大会でベスト4になって知られた存在でもあった。岩本が石岡一ならと集まった選手が多く、甲子園が実現した。

岩本は土浦日大から12奪三振、準決勝の藤代とは延長タイブレークでサヨナラ負けだったが12回、16個の三振を奪った。
175センチからのストレートは最速147キロ。見た目以上に伸びがある。スライダー、カット、チェンジアップ、カーブと変化球も多彩で今大会注目の一人だ。
岩本対盛付打線、が見所だった。

 岩本は1回先頭から4者連続空振り三振と最高の立ち上がり。カットボール、スライダーが低めに決まる。100キロ台のカーブはタイミングを外した。144キロだったストレートをより速く見せていた。走者が出てもプレートを外したり、けん制を入れて打者の打ち気をそらすことも忘れない。
盛岡大付の4番・岡田光輝(3年)が言う。

「序盤に高めのボール球を振ってしまった。ストレートと同じ軌道のスライダーがキレていた。(大船渡)の佐々木投手のボールも見ましたが、岩本君は総合力では負けていない。初回3者連続三振には驚きました」
3番の平賀佑東(3年)は佐々木から3安打した好打者だ。
「いいピッチャーと聞いていましたが、その予想を超えるさらにいいピッチャーだった。佐々木投手のときは真っすぐだけに張って対応できたが、岩本君は変化球のキレがあって、今日は苦しかった」

 岩本は8回まで被安打2、11奪三振で完璧な投球だった。石岡一は3回に四球とバントに相手エラーで先制。9回表には二死から3安打を集めて1点を追加。勝利は目前だった。
 しかし、9回裏。「終盤にボールが上ずっている」(岡田)ことを盛岡大付は見逃さなかった。2番がヒットで出塁する。3、4番があわやホームランという大きなセンターフライ。6番がライト線二塁打で二死2、3塁。
岩本は七番・小川健成(3年)をスライダーを2球、空振りさせて追い込む。
石岡一の2年生捕手、中山颯太がこのシーンを振り返る。
「外のスライダー2球でバッターが打席の内側に入ってきた印象があったので、まず内角のストレートを見せ球にして、その後のスライダーで打ち取るつもりでした」

 ところが岩本は「最後は自身のあるストレートで勝負にいった」と証言している。ここにバッテリーの小さなズレがあったかもしれない。
 内角ではなく甘くなったストレートは弾き返されて一、二塁間を抜けて同点。

 決着は延長11回裏。2四球とエラーで一死満塁。7番・島上真綾への170球目。インコースに詰まって岩本の左前へのボテボテのゴロ。岩本はキャッチャーに送球したが体勢を崩し、キャッチャーの右に外れて、盛岡大付のサヨナラ勝ち。
「ホームダブルプレーを狙って、焦ってしまった」と岩本はマウンドに片膝をついた。

 石岡一は1910年に農学校として創立された。今も普通科と各学年40人ずつの造園科と園芸科がある。
 石岡市そのものが米、野菜、果物栽培が盛んな地域。もちろんOBには農家も多い。近隣住民から差し入れられた米で練習中に間食をとったり、ミカンでビタミン補給をする。

 野球部員も49人中22人が農業系の生徒だ。園芸科はブドウ、梨、ブルーベリー、栗、ダイコン、白菜を作る。一方の造園科は土を掘り起こして土台となる柱を打ち、石の配置も学ぶという。
「園芸科は農場があって季節に合わせて野菜、果物、花を育てます。収穫して食べたり職員、地域に販売もします。造園は竹垣を作ったり木の剪定、葉を整えたり、庭のレイアウトを学びます」(林健一郎部長)

 造園、園芸科の生徒は実習が多く、全体練習は短いというハンディもある。そこは毎日の個人目標を1冊のノートに書いて共有したり、管理栄養士、理学療法士の協力もあってカバーしてきた。川井政平監督は「たくさんの方々の思いが結実した甲子園の舞台だと思います」と言う。

 岩本は造園科で学ぶ。そう、農業系といえば、昨年夏の金足農の活躍だ。岩本はエースだった吉田輝星(日本ハム)を手本にした。フォームを参考にしてスピンの効いたストレートは全国レベルに通用した。
「勝ちきれなく悔しい。終盤、勝たなきゃって、ちょっと、プレッシャーを感じてしまった。最後の最後に・・・」
ゲーム後、涙はなかったが声は消え入りそうだった。結果という勝負の差は小さな部分だ。また、夏に雪辱するチャンスはある。

 川井監督はインタビューで一瞬、涙ぐんだ。
「岩本は気持ちも入っていて、ナイスピッチングでした。守備も今の100パーセントで守ったと思います。子供達を勝たせてやりたかったんですが。プラスに目標を持ってやれたし、勝負は甘くないことも学んだでしょう。甲子園でやれることがいか嬉しいことなのか。それに感謝する気持ちが彼らに芽生えたと思う。ここから石岡一の歴史がまた、始まります」
 自信と悔しさ。

濃厚な2時間26分だった。

(文・清水岳志)