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高校野球

奥川17奪三振 優勝候補・星稜が快勝発進【第91回選抜高等学校野球大会】

「選抜第1日」 履正社―星稜  履正社を完封し喜ぶ星稜・奥川=甲子園 【写真提供=共同通信】

初日、第3試合は終盤、点灯した。
石川・星稜のクリーム色のユニフォームはそのカクテル光線によく映える。
北陸の〝雄〟は箕島との延長18回の伝説の激闘や小松辰雄、松井秀喜などを擁して、これまで甲子園で歴史を刻んできた。だた、あと一歩で優勝という栄誉を勝ち取っていない。

今年は右の本格派、奥川恭伸(3年)がいる。優勝候補の一番手に推す声が多い。奥川は昨年のセンバツと夏から3季連続出場。夏の2回戦、済美戦に先発したが、足をつって4回で降板してチームもタイブレークでサヨナラ負けした。それでも潜在能力を評価され、U―18の代表に唯一、2年生で選ばれた。しかし宮崎で行われたアジア選手権では2試合、2イニングの登板に終わっていた。
 当時、代表の永田裕治監督が「来年は奥川が先頭に立って引っ張っていかなきゃいけない。もっと成長してほしい」と注文をつけていた。

 平成最後のセンバツ、奥川はどう、大きくなっているか。
秋の北信越大会初戦、先頭打者から連続10奪三振。準決勝を完封した翌日、啓新との決勝は引き分け再試合になったが延長15回、183球を投げ切った。明治神宮大会も広陵、高松商を相手に14イニング1失点。世代ナンバーワンと言われるまでになった。
奥川がこの春、どういうスタートを見せるか。初戦の相手は履正社という実力校。優勝候補同士が1回戦でぶつかる好カードだ。

履正社の岡田龍生監督はゲーム前に奥川対策をこう、話した
「キレはもちろん、コントロールもいいし、失投も少ない。打つのは難しい。でもマシンのスピードを速くして目慣らしをしてきました」
1番を打った桃谷惟吹外野手(3年)も「マシンで155キロから160キロを体感して振り遅れないようにしてきた」と。
ところが、だ。そのスピードは想像以上だったようだ。岡田監督は「高校生レベルを超えている」と完敗を認めるしかなかった。バッターたちも証言する。
4番・井上広大右翼手(3年)は通算23本塁打の注目の打者。
「高めのボール球の真っすぐに手を出してしまった。マシンで速いボールに目は慣れていましたが、キレが良く内外に投げ分けられた」
九回、代打出場した田上奏大外野手(2年)は「真っすぐにキレがあってボールが伸びてくる感じ。あまりに速くて思ったところよりボールの下でバットを振っていた」。
 奥川はスピードに加えて中盤からは緩急を織り交ぜる。変化球も抜群に冴えた。
井上は四回にストレートに振り遅れて三振。七回は全て変化球で最後はスライダーに体が動かず、見送って三振を喫した。
「フォークボールなど多彩な変化球も意識させられ対応できなかった。今までで一番いい投手だったと思う。直球と変化球の腕の振りも同じに感じた」と脱帽した。
 昨年夏、北大阪大会の準決勝で大阪桐蔭の根尾昂(中日)から2安打を放った3番・小深田大地三塁手(2年)も球種の多さに驚いたそうだ。
「変化球のキレもあった。特にスライダー。いろんな球種がありました。単純比較はできませんが、奥川さんの方が根尾さんより角度があり、狙い球も絞りづらかった」
桃谷の1打席目で奥川は自己最速の151キロをマーク。その次のボール、スライダーで空振り三振を奪う。
「ストレートだけだったら対応できるが、それを意識させられてスライダーについていけなかった」と桃谷は翻弄された。

林和也監督は奥川を絶賛した。
「どのボールもキレていましたね。17奪三振? 九回投げ切った中では一番、取ったんじゃないですかね。初戦で相手は優勝候補の履正社さん。プレッシャーもあってナーバスにもなっていたが、こういうピッチングができて、たいしたもの。100点満点です。堂々と投げ切る精神的な強さもたくましくなった。よく成長してくれたなと思います」

奥川は八回裏、一死1、2塁と初めて二人のランナーを許すが、ストレートで三振を奪って切り抜けるとガッツポーズ。ベンチに帰って林監督とも手を合わせた。
マウンドでは熱く感情を出すが、ベンチでは小学校からバッテリーを組む山瀬慎之助捕手(3年)と冷静に言葉を交わした。
「肌で感じる微妙なバランスを二人で話し合っていた。三回り目、四回り目はインコースを使いながら組み立てを変えていた」(林監督)
奥川は甲子園に来て一番、いいピッチングができたと言う。
「逃げない姿勢を見せられた。甲子園の緊張も楽しめた。今までの経験が生きたと思います」
そう、ここまで悔しい思いも重ねてきた。林監督が言う。
「1年の秋、日本航空石川には二桁得点を許した。2年で代表に選んで頂いたけど大学生には通用しなかった。そこからフォームを改善してステップを踏んできた。おごることなく真摯に練習に取り組んでいた。自分のやるべきことをわかって、一歩ずつハードルを超えていっている。伸びしろもまだあります」

 奥川は期待通り。新しい年号とともに新年度の主役になるかもしれない。
代表監督を続ける永田さんがインタビューを終えた奥川に声をかけた。
「ナイスピッチング」
奥川の笑顔がはじけた。

(文・清水岳志)