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侍ジャパンシリーズ2019からみたレベルアップするメキシコ野球【WORLD BASEBALL vol.2】



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 今回の野球日本代表春の強化試合、ENEOS侍ジャパンシリーズ2019で来日したメキシコ代表チームは、1勝1敗で帰国の途についた。日墨間のプロ野球チームの対戦は、1966年春のメキシコシティ・ティグレスの来日に遡ることができるが、その時は、NPB球団相手に13戦全敗。21世紀に入ってからの国際試合のメキシコチームの構成は、メジャーを含む「アメリカ組」中心だったことを思うと、メキシカンリーグの選手中心で臨んだ今回の結果は、「メキシコ野球」のレベルアップの賜物だと言っていいだろう。

 例年、この時期に国際試合に出場する選手の多くは、世界第2のパワーハウスである日本との試合を、アメリカや東アジアのプロリーグへの「ショーケース」と位置付けている。今回も、2試合とも5番に座り、計7打数3安打の好成績を残したルイス・フアレス(モンテレイ)は、共同記者会見の場でこう発言した。
「アジアの国でプレーすることは我々の夢です。幼いころから野球に打ち込んできた自分にとって、外国でプレーすることは憧れでしたから」

 メキシコのプロ野球選手の報酬は、月数十万円というのが相場だ。月100万円以上の「高給」を得るのは、元メジャーリーガーくらいである。そして、彼らは夏のメキシカンリーグとウィンターリーグの間を行き来し、旅から旅への選手生活を送る。

「去年は、夏のシーズンが2回あったんで(メキシカンリーグは昨年シーズンの前後期シーズンを全く別物としてそれぞれポストシーズンまで実施した)、ほとんど休みがなかったよ」
 と笑うのは、レフトで2試合とも先発出場したホセ・アギラール(ユカタン)だ。プロ野球選手が2人しかいないという、中部ミチョアカン州出身の彼は、夏のシーズン後、1週間だけ家族と過ごし、冬のシーズンに臨んだという。

 そういう彼らにとって、確かにアジアプロ野球やメジャーリーグに直接つながるアメリカのプロリーグは魅力だろう。しかし、多くの選手は現実の厳しさを知っている。

 私の、アメリカではやりたくないのか、日本ではどうだ、という質問に答えてくれたのは、第1戦でクローザーを務めたジェイク・サンチェス(ティファナ)だ。
「そうだね。4,5年前ならそう思ったけどね」
 彼の返事はそっけなかった。メキシコ系の両親をもつアメリカ人(両国籍)の彼は、プロキャリアをメキシカンリーグの下部リーグでスタートさせ、アメリカの独立リーグを経て、ホワイトソックスと契約し、3Aまで昇格したが、昨シーズン途中からメキシカンリーグでプレーしている。

 彼の話によれば、アメリカでプロスペクト、つまりメジャー予備軍とみなされるのは27歳くらいまで。その年齢を過ぎると、新しい選手を試すため、数字を残していても、マイナーでもプレーは難しくなるらしい。そうなれば、独立リーグか、メキシカンリーグでプレーするしかなくなるのだが、30歳になった彼は、アジアのプロリーグへの道も甘くないことを知っていた。

 しかし、このことが彼らの実力が、「マイナー以下」であることを示すものではない。むしろ実力がありながら、様々な事情で国境を南下せざるを得なかったものが集まるリーグ、それがメキシカンリーグと言えるだろう。
 プレミア12、東京五輪を前にして、チーム・メキシコの今後の編成についての問いに、アメリカ生まれのダン・フィロバ監督は、スペイン語でこう答えた。

「それは、その時のリーダー(監督)が考えることでしょう。仮に私が選ぶならば、今回のメンバーを多く集めると思います。メキシカンリーグにはタレントがそろっていますから」

 今シリーズは痛み分け。この秋の再戦が今から楽しみだ。


メキシカンリーグの人気チームユカタン・レオーネスの応援団


文・写真=阿佐智