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社会人野球復帰1年目で見た天国と地獄 サブマリン渡辺俊介が得た気付き


現役を上がる(=引退)可能性も……。様々な憶測が飛び交ったが、選んだのは再びマウンドへのぼることだった。渡辺俊介。新日鐵住金かずさマジックのコーチ兼任投手として、今シーズンもあの場所を目指して戦う。

■米挑戦後に選んだのは社会人への原点回帰

 現役を上がる(=引退)可能性も……。様々な憶測が飛び交ったが、選んだのは再びマウンドへのぼることだった。渡辺俊介。新日鐵住金かずさマジックのコーチ兼任投手として、今シーズンもあの場所を目指して戦う。

「俺よりいい投球をしないと投げられないぞ。俺のレベルを越えないと、投手の枠にも入れないぞ」

 2016年、チーム合流直後、投手陣に語りかけた。

 アメリカ独立リーグなどからメジャーリーグを目指した挑戦。その次に選んだのは、自ら社会人時代に在籍した新日鐵君津を母体にする、かずさマジック。コーチ兼任として、自らもプレーする。

「アメリカから帰って来た当時は、まだ投げる、やれる、という気持ちが強かった。いい状態だし投げたいというのもあった」

 NPB通算87勝。メジャーのキャンプにも参加したレジェンド。アンダースローから多くの球種を変幻自在に操る。独立リーグなどで手応えもつかんでいた。

 そんな中、かずさマジックで汗を流すうちに、気持ちの中で少しずつ変化も現れてきた。

■「エースは予選を勝つことで作り上げられる」

「勝ち上がる苦しさ、喜び、達成感があった。それをまた味わいたかったので社会人に帰ってきた。ただ、コーチという立場として、『投げない方がいい』というのは都市対抗の前あたりから思っていた。『必要とされるのであれば投げるけど……』というスタンスに気持ちが変わってきた」

 16年6月5日。埼玉・大宮での都市対抗出場をかけた南関東大会第二代表決定戦。延長13回までもつれ込んだ熱戦。渡辺は8回から6イニングを投げ、4安打無失点。チームの本戦出場に大きく貢献した。

「都市対抗で経験できることはスゴく大きい。特に本戦よりも予選。その一番苦しいところで僕が投げてしまった。僕がプロへ入る前に経験できた大きな場所。もしかすると他の選手が経験できた場所だったのに……。そこで僕が投げて抑えているようでは、ダメ。

 予選で投げた経験が大事。それはプロに入っても常に感じていた。一番苦しい場所で投げないと成長しない。意味も価値もある本当に重要な場所。また、そこで抑えられる投手でないと、エースとしては認めてもらえないと思う。エースは予選を勝つことで作り上げられる、というか」

■社会人野球の天国と地獄を味わった2016年

「2つの大会に出るためにやっている。都市対抗に出場を決めた時の達成感。(日本)選手権に出られなかった時の失望感。真逆の感覚を1年間で味わった。社会人野球においての天国と地獄というか……。社会人野球らしい1年を過ごしたと思う」

 夏に東京ドームでおこなわれる都市対抗。秋に京セラドーム大阪でおこなわれる日本選手権。社会人野球でプレーする選手が目指す場所。そこへ向けての戦いは、関係者、地元など多くのかかわり合う人々に夢と希望、勇気を与える。そして勝った時の喜びは何事にも代え難い。

「今は何も考えられない。自分が投げるのがいいのか、も含めて考えます」

 16年7月18日、都市対抗1回戦でかずさマジックはJR西日本に1-6と敗れた。試合後、渡辺は会見で今後について、そう語ってくれた。

 それから2か月後、9月27日、日本選手権の代表決定戦で鷺宮製作所に0-4で敗れてしまう。

■渡辺の姿に刺激を受けた選手、スタッフたち

 年が明け、渡辺は今季もコーチ兼投手でいることを表明した。

「気持ちの変化は今もない。昨年と同じで準備はしておいて、投げなくて良ければ投げない。だけど目指すものは何も変わらない」

「俊介さんと出会えて本当に良かった」

 投手だけではない。野手、そしてスタッフの誰もがそう語る。この場所に帰ってきてくれなかったら……。ここで会えなかったら……。ここまでの刺激を受けなかっただろうと。

「かずさマジックに渡辺俊介がいてよかった」

 17年シーズン、自らの背中で引っ張りながら、チームとしてさらなる高みを目指す。

◇渡辺俊介
1976年8月27日栃木県出身。右投右打。國學院栃木、國學院大、社会人・新日鐵君津(現かずさマジック)を経て、00年ドラフト4位でロッテ入団。米・独立リーグなどでプレー後、16年より新日鐵住金かずさマジックへコーチ兼任投手として復帰。

山岡則夫●文 text by Norio Yamaoka
1972年島根県出身。千葉大学卒業後、アパレル会社勤務などを経て01年にInnings,Co.を設立、雑誌Ballpark Time!を発刊。現在はBallparkレーベルとして様々な書籍、雑誌を企画、製作するほか、多くの雑誌やホームページに寄稿している。最新刊は「岩隈久志のピッチングバイブル」、「躍進する広島カープを支える選手たち」(株式会社舵社)。 Ballpark Time!オフィシャルページ(http://www.ballparktime.com)にて取材日記を定期的に更新中。

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