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一度つまずいた才能を花開かせる―四国IL最多NPB輩出チームの指導法とは


NPB球団のない地域から、毎年のようにNPBに人材を送り込んでいるチームがある。独立リーグの四国アイランドリーグ(IL)plus、香川オリーブガイナーズ。なぜ、香川はNPBに才能を輩出し続けることできるのか。

■12年で24人…元広島の指揮官が明かす、独立Lならではの育成論「信頼して使い切る」

 NPB球団のない地域から、毎年のようにNPBに人材を送り込んでいるチームがある。独立リーグの四国アイランドリーグ(IL)plus、香川オリーブガイナーズ。高松にある小さなチームから、13年に独立リーグ史上最高のドラフト2位で中日に入団した又吉克樹、07年ドラフト6位のヤクルト・三輪正義ら、24人を輩出した。05年に創設された4チームのリーグでも指名数は断トツ。年平均2人がNPBに飛び込んでいる計算となる。

 近年、同じようにNPBに選手を送っている強豪アマチームと05年以降(社会人など上のカテゴリーを経由しての指名を除く)で比べても、東京六大学の名門・早大は19人、社会人野球の強豪・JR東日本は18人、甲子園春夏5度の優勝を誇る大阪桐蔭高は11人と数字的には上回る。もちろん、これらのチームは内容的には上位で指名されている選手も多く、一概に比較はできないが、それでも全国のエリート軍団とは対照的に大学中退者などもいる叩き上げ軍団で積み上げてきた数字は、特筆すべきものだろう。

 なぜ、香川はこれほどまでにNPBに才能を輩出し続けることできるのか。

「選手を信頼して使い切ること。試合に出なければ意味がない。独立リーグは一年一年、勝負していく場所だから。チームもリーグも選手も、我々を含めて、ね」

 そう話したのは、2007年から指揮する西田真二監督。13年間在籍した広島787試合に出場して4番に座り、引退後にはコーチも務めた往年の名選手である。

 信頼して使い切る――。リーグ最古参のベテラン監督の信念には、明確な裏付けがある。「ここに来る選手は高校、大学で力を発揮できなくて、社会人に進めなかったりしたような選手が数多くいる」と分析する。強豪大学に進んでも層の厚さに跳ね返されたり、一芸に秀でながらも勝利至上主義のあおりを受けたりして、チャンスに恵まれなかった選手が少なくない。「だから、とにかく試合で使っていく」にこだわるという。

■一度つまずいた才能を使いながら育てる…「成功例」となった中日・又吉

「NPBならミスをすれば、すぐに下に落とされるでしょう。でも、ここは人数的にも制約されているので、とっかえひっかえもできないし、よほどのことがない限り、解雇もされない。ミスをしてももう一度、もう一度……とチャンスを与えて、試合の中でつかんでいくことが大事。投手なら数多く先発させて、試合勘や配球を磨き、何よりも自分の投球に自信が持てる。そういう場所が、彼らにとっては必要なんです」

 一度はつまずいた才能を使いながら育てる。その指導において大事なのは「自分をコントロールする力をつけさせること」だ。

「技術的はバットや投球、メンタル面は心のコントロール。長く試合をすると良い時、悪い時がある。そこで打ち勝つためタフさを身につけるために私たちが経験上、アドバイスしていく」

 その「成功例」として名前に出したのが、又吉だ。環太平洋大から入団した12年オフ年のことを回想する。

「もともと野手上がりの選手。実戦で投げていたんだけど、変化球はまだまだ、荒い感じもあって大学ではチャンスが少なかった。物怖じはしないけど、神経質な部分もあった。そういう中で縁あってガイナーズに来てみたら、サイドハンドで投げる球のキレは抜群。これはNPBにいけるな、と」

 早速、チャンスを与えることに決めた。3月のオープン戦。広島2軍と対戦し、7回1失点の好投を演じたという。これが、本人にとって大きな自信になった。独立リーグでなければ、得られなかったプロとの直接対決。ここから大学時代とは見違えるような活躍で最多勝(13勝)を獲得し、わずか1年で史上最高のドラフト2位指名への階段を駆け上がっていった。

「人間というのは、いいものを引き出してあげて何か感覚をつかめば、そこに向かって努力しようとするから、伸びるのが早い。いつも失敗している選手はダメじゃないかとネガティブになる。私の現役時代も、いいホームランを打ったら、そこで感触を思い出して、また積み上げて成績を残していた。そういう、きっかけ作りをしてあげることが大事だと思う」

■「使い続けるリスクは監督が背負う」…独立リーグで指揮する監督の信念

 一方で、すべての選手がNPB入りという夢が叶えられるワケではない。それでも、指揮官は「目標をあきらめきれない選手が集まる場所でもある」と現実を受け止め、選手をグラウンドに立たせることにこだわっている。

「選手というのは自己満足でいい。甲子園に出れば、自己満足になるでしょう。でも、すべての人がそれを味わえるワケじゃない。独立リーグでもがき苦しみながら3割を打ったり、ベストナインを取ったりすれば、大いに自己満足にすればいい。めったに試合に出ない選手が代打でホームランを打ってファンに『よく打った』と喜ばれるとか、そういう単純なことの積み重ね。みんな、自分を認めてもらいたいということじゃないかな、まだオレはできるんだ、と」

 もちろん、すべては勝利は目指している。それでも「使い続けるリスクは監督が背負って、その中で信頼してあげることが大事。それで、もしダメで野球をあきらめるとしても、本人たちは納得してくれると思うから」と、独立リーグという特殊な環境で監督を務める役割を認識している。

 今年も2月1日から本格的に練習が開始。11年目のシーズンが幕を開ける。「NPBがトップとしたら社会人野球が3A、独立リーグが2Aくらい。社会人野球を含め、独立リーグのレベルを上げていかないと裾野の拡大にもつながらない」。かつてはプロ球団から指導者のオファーもあったが、さらなる野球界の活性化のため、体を張り続けるつもりでいる。

「野球界への恩返し。裾野を広げていくことにやりがいを感じるから。我々の想像を絶するような、そういう選手が出てきてほしいね」

 そう言って、視線を上げた指揮官。一人でも多いNPB行きを願いながら香川のグラウンドに立ち、必死に才能を花開かせようともがき続ける若き原石たちを見つめている。

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