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養豚家となった元プロ野球投手、培った「根気強さ」で続ける挑戦

 もう何年前だろうか。自宅に宅急便が届いた。箱を空けてみると、柔らかくて、脂に甘みがある特上の豚肉が詰め込まれていた。2012年、日本ハムからDeNAに移籍することになった菊地和正氏からだった。

現役時代に日本ハム、DeNAで活躍した菊地氏は、榛名山麓で養豚家に転身

 豚肉のお礼の電話をすると、「母の実家が養豚場なので…。おいしいんですよ」と教えてくれた。記者とは11歳違うが、学生時代に同じ関甲新リーグでプレーしたこともあって、個人的に慕ってくれた。

 14年までDeNAでプレーし、15年はBCリーグ群馬で独立リーグのマウンドにも上がった。NPBでちょうど10年プレー、09年には日本ハムで21ホールドをマークし、リーグ優勝に貢献。DeNAの12年には63試合に登板し、セ・リーグ歴代4位タイとなる30試合連続無失点も記録した。

 そんな菊地氏から連絡をもらった。現役引退後、全国制覇の経験がある母校・上武大や桐生第一でコーチとして野球を教えているのは知っていたが、新たな仕事にも挑戦するとの報告だった。

 それが養豚だった。「お中元やお歳暮で豚肉を送ると、みんなからおいしいと言ってもらえた。それならば、自分で現場に入ってきちんと勉強して、商品化できたらと思ったんです」。群馬県高崎市の山間にある「石曽根養豚」、叔父の石曽根勝五郎氏が経営する農場が新たな仕事場だ。

 現在は養豚家としての修業を始めたばかり。菊地氏のユニホームは、つなぎの作業着に替わった。「豚たちに餌をやることから、掃除、出荷の手伝いまでやっています。豚の種類や血統も勉強しているんですよ」と忙しい毎日を送っている。

 農場は榛名山麓標高450メートルに位置し、1万1000頭の豚が、こだわりの植物性飼料を中心に与えながら、ミネラルが豊富な天然水を飲んでいることで柔らかく、コクのある豚肉ができるあがるという。

 「昨年4月に創業者だった祖父が他界した。そして叔父、母、ここまで豚をつくりあげてきたものをしっかりと背負っていきたい」

 将来を見据え、具体的なプランも描いている。「“上州勝五郎豚”という銘柄でたくさんの人においしい豚肉を味わってほしいんです」。プロ野球では通算177試合に登板し、9勝7敗1セーブ。決して大成功とはいえないプロ生活だが、中学時代は控えの内野手、樹徳時代も控え投手だった男が、プロ野球選手になって1軍で活躍した。

 「正直、特別な才能があったわけではない。それでも1軍で投げさせてもらって、優勝も経験させてもらった。野球も養豚も根気強さが必要。まだまだ社会経験が足りないが、違うステージでも、もう一度、それを発揮したい」

 プロでは中継ぎ一筋。地道な作業を重ねた先に成功があることを、身をもって体験してきた。おいしい豚を育てる地道な作業は、野球と通じる。菊地氏はこんなことも話していた。「叔父の名前が勝五郎。偶然にも縁起がいい。すてきな名前だと思いませんか」。なるほど、勝五郎豚でつくった「とんかつ」か――。これは確かに、勝ち運がつきそうだ。(記者コラム・横市 勇)

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