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おかやま山陽・堤監督 ジンバブエ率いて東京五輪へ…恩返しの指導、12月に代表合宿

 17年夏と18年春の甲子園に出場したおかやま山陽・堤尚彦監督(47)が、12月6~19日までの日程で代表監督に就任したアフリカ・ジンバブエへと赴いた。2020年の東京五輪代表を目指すナショナルチームの選手選考会、強化合宿に参加。高校野球の監督としては超異例となる挑戦を追った。

2020年の東京五輪出場を目指すジンバブエ代表チーム

 関西国際空港から香港、ヨハネスブルグを経由して約30時間。1997年12月以来21年ぶりに、堤監督はブラワヨ空港へ降り立った。

 「自分がまいた種がどうなっているのか見てみたい」

 青年海外協力隊の一員としてジンバブエ、ガーナ、全日本アマチュア野球連盟AA強化部会委員としてインドネシアの代表チームのコーチなどを歴任したが、指導者生活をスタートさせたのがアフリカ南部に位置するジンバブエだった。野球の普及活動に邁進した95年からの2年間。現地スタッフとして苦楽を共にしたのが、ジンバブエ野球協会会長を務めるモーリス・バンダ氏だった。日本へ帰国後も年に数回連絡を取り合う関係が続き、15年4月には同氏がおかやま山陽を訪問したことで18年ぶりに再会。それが端緒となり、代表監督に就任する運びとなった。

 到着した翌日7日から9日までの3日間は、ナショナルチームの選考をかねて同国内のドリームカップを視察した。前回の滞在時は堤監督をはじめとする協力隊員が前面に出ての大会運営だったが、今回はバンダ会長が中心となり審判、スコアラー、設営などジンバブエ人が全てを手がけた。当時からすれば、それだけでも大きな進歩。野球が文化として根付きつつあることを実感した瞬間だった。

 28人で結成されたナショナルチームといえど、環境は恵まれてるとは言いがたい。現地は経済情勢が不安定で、ガソリンスタンドは長蛇の列。1回の給油に10時間以上を要することもあるという。チームに潤沢な資金を求めることは到底不可能で、野球道具も中古品がほとんどだ。バケツいっぱいに詰め込まれていたのは軟式球。数少ない硬式球はどれもが、糸がほつれた状態だった。そして、テニスボールが少々……。石ころだらけの赤土グラウンドでは、シートノックですら容易ではない。それでも真摯に野球と向き合い、白球を追いかける彼らの姿がまぶしい。

 10~18日までの合宿期間中に、こんなことがあった。堤監督は日本から4ダースの硬式球を持参した。2日目。フリー打撃で使用すると、外野後方の草むらで1球を紛失した。その翌日にも、もう1球。すると、代表チームの中心選手で独立リーグ・香川で2年間のプレー経験を持つシェパード・シバンタ内野手がナインを集め、必死にボールを探し始めた。貴重なはずの練習時間を中断。堤監督はその一部始終を見守ったが、チーム全員で2時間以上かけて懸命に探し回ったという。

 18日の合宿最終日。堤監督は熱い思いを、彼らに改めて伝えた。

 「オレが前回、ジンバブエに来たときはまだ20代で、平均以下の指導者だった。その後もうまくいかないことがたくさんあったけど、そういう経験が礎となって甲子園にも行くことができた。ジンバブエがオレを成長させてくれたと思っている。だから、これからは、君たちにその恩返しをしたい」

 ジンバブエの発展に尽力するだけではない。堤監督を突き動かすもう一つの原動力は、日本における子供たちの野球離れの深刻化だ。

 「野球離れの要因は、野球界の天井の低さにあると思います。オリンピックの参加国もわずか6チーム。サッカーのワールドカップと比べるまでもありません。イングランドで“サッカーの普及を”などと言うでしょうか? アメリカと並ぶ野球大国のはずが、いよいよ“日本で野球の普及を”ということまで聞こえてくるようになっています。アフリカでの野球の普及というよりも、日本球界へのメッセージという意味合いも強く持っています」

 いつまでも過去の栄光にあぐらをかいているようでは、野球界に明るい未来はない。今回の訪問を機に、改めてその思いを強くした。

 4月23日からは強豪・南アフリカ、ボツワナ、レソト、ナミビアとともにアフリカ南部予選に臨む。優勝すれば5月1日からのアフリカ代表決定戦へと進出。その先にはヨーロッパ代表との決戦が待つ。代表枠は「1」と狭き門であることに変わりないが、チームを2度の甲子園に導いた練習法を伝授した。150キロのストレートを打つためのドリル。コントロールの精度を上げるための、投手用ドリルも教え込んだ。同校の名物である、ラインを細かく引いてのバント練習に、リードの取り方も一から変えた。3月には投手陣を同校の練習に参加させるプランもある。

 「相手の分析はこれからなので何とも言えませんが、ドリルをきっちりやってくれれば必ず打てるようになるし、南部予選のある南アフリカはグラウンドも良くなり守りやすくなります。細かい野球を伝えてきたので、何とか予選を突破させたい」

 アフリカ南部予選の勝算を尋ねると、そんな答えが返ってきた。勝負師・堤監督が描く東京五輪への道。バンダ会長の口癖である「Passion!」に彩られた28人が、奇跡を起こす。