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小中学野球

コラム:プロを生き抜いた“スーパーサブ”が有望小学生たちに伝えたこと【12球団ジュニアトーナメント】

 12月27 日から29日にかけて『NPB12球団ジュニアトーナメント supported by 日能研』が行われた。各球団が小学生16名の精鋭を選抜し、14回目を迎えた今大会は、多くのプロ野球選手も輩出してきた小学球界最高峰の戦いともいえる。
 そしてこの大会の大きな特徴がプロ野球経験者の指導を一定期間受けられることだ。今大会でも広島を除く11球団が監督・コーチをNPB経験者で固めた(広島ジュニアは横山竜士監督のみ経験者)。もちろんプロ経験が無くても優秀な指導者はたくさんいるが、競争の激しい日本最高峰の舞台で培った経験を伝えてもらえるのは小学生たちにとって貴重な場だ。

★全員が出られない中で

 優勝回数ともに最多3回を誇る読売ジュニアと中日ジュニアを倒して予選リーグ突破を果たしたヤクルトジュニアは、選手たちのハツラツとしたプレーと大きな声が目立った。今大会で「最も元気のあったチーム」だった。
指揮を執るのは度会博文監督。15年間ヤクルトでプレーし、代打やどこでも守れる守備固めとしてスーパーサブ的な役割を長年担い、親しみやすい人柄も仲間やファンに愛された。
今季からジュニアチームの監督に就任し、結団式の際から現役時代に自身が大切にしてきた「元気に、明るく、楽しく」という原点を伝えてきた。そして、もうひとつ伝えたのが「大会本番にメンバー全員が出られるわけではない」ということ。
 わずか16人の枠を勝ち取っただけに、全員が各所属チームでは「エースで4番」のようなもの。そんな選手たちが「上には上がいる」と体感した中で、9月の練習開始から約4ヶ月にわたり切磋琢磨をしてきたが、優勝を目指す中で、大会での出場機会に恵まれない選手も当然出てくる。
 「僕もベンチにいることが多かったから気持ちは分かるんです」と自身の現役時代を度会監督は振り返る。だからこそ「この16人で誰ひとりとして必要のない選手はいない。役割は必ずある」と伝え続けた。
 その伝え続けてきたことは大会でも見事に発揮された。初戦の相手である読売ジュニアには練習試合で1勝3敗と負け越していたが、16選手中13選手を使う積極采配に選手たちが応えて3対2で競り勝った。翌日の中日ジュニア戦では序盤から主導権を握り7対0で大勝。
 度会監督は「ベンチにいる子もすごく元気にやってくれています」と感謝し「本当に仲の良いチーム」と笑った。そして活躍した選手たちも「試合に出られていない選手の分も」と口を揃えた。
 準決勝では西武ジュニアに2対3惜しくも敗れたが、試合後には全員で悔しがり涙する姿があった。度会監督は「選手に恵まれて良いチームができました。選手たちが精神的にも大舞台で成長してくれました」と感慨深く語り「彼らの野球人生はこれからが長いので大きな経験になってくれたと思います」と、選手たちとの別れを名残惜しそうにしながらも話す姿が印象的だった。

笑顔を絶やさずに自ら円陣でチームを盛り上げる場面もあった。横浜高で活躍する次男・隆輝も2014年のヤクルトジュニアでプレーした


★準備と想像の大切さ

 読売ジュニアは初戦でヤクルトジュニアに接戦で敗れたが、翌日の中日ジュニア戦では吹っ切れたかのように攻守で躍動。決勝トーナメント進出こそ果たせなかったが、9対0の6回コールド勝ちを有終の美を飾った。指揮を執る加藤健監督は「昨日みんなでミーティングをして、負けから多くのことを学ぶことができました。何事も“気付こう”とすれば、何事にも成長できると思います」と選手たちの成長を頼もしく感じた。
 自身の現役時代は、一軍通算185試合の出場ながら18年間を巨人でプレー。阿部慎之助らのバックアップとして、どんな時も配慮や準備を欠かさない姿勢でチームに必要不可欠な捕手だった。
 「プロの世界でたくさんのことを経験させてもらったので、その世界ってどんなところなのかを彼らに想像させてあげたいんです」として、選手たちに「想像して準備すること」の大切さを、10月の始動時から口酸っぱく選手たちに伝えてきた。
 「ベンチに座っていても試合に出ている気持ちで“ここはどんなサイン出すんだろう?”とか“こういうサインが来そうだな”とか、たくさん想像していました。彼らもずっと野球やっている中で良いことばかりではない。そこで想像や準備をしておけば、もし脱線しても戻ってこられるし、壁にぶつかっても乗り越えていけるかなと思うんです」
 そして、その思いをああしろこうしろと頭ごなしに伝えるのではなく、グラウンド内外の些細な声かけから気づかせるように伝えてきた。それはたとえ今すぐに理解できなかったとしても、数年後に「そういえば、あの時・・・」と思い出し、引き出しを増やしてもらえればという願いがある。
 自身としても初めて采配を振るう経験をし「想像していた以上にコーチの気持ちやベンチワークを学べました。選手を動かすことにこれだけパワーがいるとは」と充実感に満ちた表情で苦笑いした。

現在はBCリーグの新潟アルビレックスBCで球団社長補佐としてフロント業務をこなしながら、各地で野球教室や侍ジャパンU-15代表の臨時コーチ(2017年)を務めるなど育成年代の普及や指導にも積極的に携わっている


 どのカテゴリーでも野球をする上で欠かせない「大切なこと」。それを各選手たちが経験豊富な指導者たちから学んだことは、今後の彼らの長い野球人生において大きな原動力や宝物になっていくことだろう。

文・写真=高木遊