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プロ野球

日米で学んだ経験を地方大学に還元 静岡から全国目指す指導者の挑戦


「野球」と「ベースボール」。習慣や向き合い方など、同じ競技であるのだが違和感を覚える部分も多い。その両方のトップクラスでの経験を学生に還元している男がいる。常葉大浜松キャンパス硬式野球部、永井浩二監督である。

■「考える」習慣を大切に― メジャーを知る常葉大浜松・永井監督が目指す野球

「野球」と「ベースボール」。習慣や向き合い方など、同じ競技であるのだが違和感を覚える部分も多い。その両方のトップクラスでの経験を学生に還元している男がいる。常葉大浜松キャンパス硬式野球部、永井浩二監督である。(以下常葉大)

 常葉大は、常葉学園浜松大として88年に創設された。07年センバツを制した常葉菊川高と同系列で、13年に富士常葉大との統合で現在の名称になった。スポーツに注力しており、サッカー部監督は澤登正朗氏(元清水エスパルス、日本代表)が務める。

 野球部は88年に準硬式として創設され、94年に硬式へ。静岡県リーグでは春3回、秋3回の優勝回数を誇る。東海地区リーグでは準優勝が最高位で、優勝しての神宮大会出場を目標としている。メインとサブ、そして第2球場を保有し、個室タイプの野球部寮も完備。80名近い学生がここでボールを追う。

 永井監督は広島商、亜細亜大、社会人・NKK福山(現JFE西日本)で捕手として活躍。プロ入りの夢がかなわず、1998年に渡米しニューヨーク・メッツのブルペン捕手を経験。1999年シーズン終了後に帰国し、クラブチームでプレーした。いわば「王道」と呼ばれる道を通ってきた身にとって、地方大学の環境はこれまで経験したことのないものだった。

「最初は驚くことが多かった。まず、選手の数が揃わない。選手を集めるのに必死」

 06年12月の監督就任から地道に鍛え上げていった。だが、決して恵まれた環境ではない。

「部の予算もそんなにない。だから、後援会やいろいろな人からのサポートは本当にありがたい。選手もバイトしたりして大変だと思う。野球をやりたい、という気持ちがないと続かない」

 球場などハード面は充実している。だが、それを活かすためには選手の意識が大事だと語る。

「六大学とかの強豪大学と地方大学の違いは、意識の差だと思う。目一杯やって、自分は違う、と思えるか。最初にそこをどう埋めていくか、が地方の難しさです」

■技術的な指導よりも「考える」習慣を重視

 練習中は、技術的なことはあまり指導しない。それ以前に大事にしているのは「考える」習慣。言われたことはしっかりこなすが、自分自身で「考える」ということが苦手な学生が多いという。まずは自分で「考える」ことでの意識改革に取り組んだ。

 その結果、チームとして結果も残しはじめ、上のカテゴリーでプレーする選手も出てきた。

 社会人・西濃運輸で活躍するプロ注目の横手投げ右腕、岡田圭市。15年ドラフトでは惜しくも指名されずに社会人入りしたが、今後に大きな期待を持たせる。

「変則だけど球速も出る。以前、亜細亜大でうけていた高津臣吾さん(現スワローズ投手コーチ※1)のような抜く球にも取り組んだ。本当に良い投手です」

 そう永井監督も高く評価する。

 地方大学が首都圏などのチームと対等に戦えないとは決して考えていない。実際、ここ数年、地方大学が大学選手権や神宮大会で結果を残している。

「東亜大(山口)は、神宮大会で3回(94、03、04)優勝している。八戸大(青森)もプロ選手を何人も出している。個人1人1人を比べると、やはり強豪大学のレベルは高い。でも、野球はチームプレーだから勝つ方法はあると思う」

 チームがさらなるステップアップを果たす。そのためには、真の強豪校を体感することも重要。そういった意味でも、全国大会への出場は最重要課題だ。

「神宮へ行きたい。静岡も東海地区も強いチームが多い。プロ入りする選手もいる。そういったチームを打ち破るために何ができるかを考えていきたい」

「大学、社会人、そしてメジャーリーグも見た。自分がやったり、見てきた厳しい世界の野球をやりたい。だけど、一気に変えることは難しい。でも、良いチームにするために勇気を持ってやりたい」

■肝に銘じる恩師の言葉「まず人を知りなさい」

 普段は大学職員、そして監督。連日の激務をこなす。だが、情熱、志の高さは衰えることがない。常に頭に入れている恩師の言葉がある。

「トップに立つ時には、まず人を知りなさい。人を知ることが、チームの監督になることで必要になっていく」

 メッツ時代にお世話になったボビー・バレンタイン監督(当時)から教えられた。

「なんで手を抜いて投げるんだ。お前ごときが手を抜いて抑えられる相手じゃないよ」

 就任直後の練習試合中、グラウンドに響き渡る声で怒鳴った。数年が経ち、怒鳴ることも少なくなったという。永井監督自身も日々、監督として成長している。そして、もちろんチームも。会話を交わし、人を知って、可能性を伸ばし強くする。常葉大を神宮で見られる日も遠い先の話ではないのではなかろうか。

◇永井浩二
71年広島県出身。広島商業、亜細亜大、NKK福山(現JFE西日本)と進み、98年渡米しニューヨーク・メッツ入団。ブルペン捕手兼バッティング投手を2年間務める。帰国後クラブチーム、浜松Kスポーツ・ベースボールクラブでプレー。06年12月から浜松大(現常葉大浜松)監督就任。

※1 高津臣吾
シンカーを武器にスワローズで286セーブを挙げた横手投げの名クローザー。メジャーでもプレーした。

山岡則夫●文 text by Norio Yamaoka
1972年島根県出身。千葉大学卒業後、アパレル会社勤務などを経て01年にInnings,Co.を設立、雑誌Ballpark Time!を発刊。現在はBallparkレーベルとして様々な書籍、雑誌を企画、製作するほか、多くの雑誌やホームページに寄稿している。最新刊は「岩隈久志のピッチングバイブル」、「躍進する広島カープを支える選手たち」(株式会社舵社)。 Ballpark Time!オフィシャルページ(http://www.ballparktime.com)にて取材日記を定期的に更新中。

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