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2017.01.23 11:25
7年目、未完の大器が目覚めるか…広島・福井優也が秘める可能性
甲子園や神宮の杜を湧かせた右腕。大きな期待を受けてプロ入りしたが、今は十分な結果を出せずもがいている。だが、この男のプレースタイルや明るさは、見るものを磁石のように引き寄せる。福井優也。カープのエースになり得る逸材である。
■甲子園と神宮を席巻、鳴り物入りで入団も結果を残せず
甲子園や神宮の杜を湧かせた右腕。大きな期待を受けてプロ入りしたが、今は十分な結果を出せずもがいている。だが、この男のプレースタイルや明るさは、見るものを磁石のように引き寄せる。福井優也。カープのエースになり得る逸材である。
「めちゃくちゃ緊張しました。クライマックスシリーズ(以後CS)ってこんなに緊張するものなんですね……」
カープ・ブームが全国を席巻した16年。ベイスターズとのCSファイナルステージ第3戦の9回表、福井はマツダスタジアムのマウンドにのぼった。打者4人に投げ無失点に抑えたが球がばらつくなど、安定感には欠けていた。
「緊張で力が入り過ぎて球が上ずっちゃいました……」
その後、カープは日本シリーズに進出するも、福井の登板はこの1試合のみ。戦前には「先発の可能性も……」と期待されていたのだが、結局、その機会が与えられることはなかった。そして、カープはファイターズに敗れ去り、シーズンは終わりを告げた。
福井の歩んできた道は興味深い。
愛媛・済美高時代の04年春に2年生ながらエースとしてセンバツ大会で日本一。翌年秋のドラフトではジャイアンツからドラフト4位指名を受ける。だが、その指名を断り、大学進学を決意(※1)。
「大学なら早稲田大……」と思っていたが、推薦受験の締め切りに間に合わず、一般入試も不合格。1年間浪人し、翌年無事に早稲田大に合格した福井は、神宮のマウンドに立つこととなった。
大学では、斎藤佑樹(ファイターズ)、大石達也(ライオンズ)との3人で黄金期を築いたのは周知の事実だろう。
■甲子園と神宮を席巻、鳴り物入りで入団も結果を残せず
2011年、カープにドラフト1位で入団したルーキーイヤーから可能性を感じさせた。初登板のジャイアンツ戦でプロ初勝利を飾ると8勝を挙げた。しかし、翌年から勝てない時期が続く。
「今年は良いっすよ。絶対に2桁勝ちますよ(笑)」
毎年、春季キャンプで出会うと人懐っこい笑顔で語りかけてくる。しかし、結果はついてこない。
そして15年、夏場までに9勝を挙げる。「いよいよか……」と期待させるも、勝てなくなり、またしても10勝には届かなかった。例年のように……。本当に憎めない男である。
「縦のカーブをもっと有効活用したい。そうすれば打者の視線も上がるし、落ちる系の球ももっと活きると思うんですよね」と福井。
そこには理由があった。16年7月28日ジャイアンツ戦(京セラドーム)。初回先頭打者に投げたカーブが大きく抜ける。「今日は使えない球か……」と思わせるも、「より腕を振らないと、と思いました」と意識すると、試合中盤から決まり始めた。結果、勝利を収めるとともに、同年にはジャイアンツから3勝を挙げてみせた。
ドラフトでの指名を断った相手からのシーズン3勝。本人はそれについて多くは語らないが、どこか意地のようなものを感じさせてくれる。
■リーグ連覇を目指す広島、福井にかかる期待と責任
「早稲田の3人の中では一番闘争心を感じた」と、カープ関係者は以前語っていた。
岡山から瀬戸内海を渡り、愛媛で結果を残す。野球をする者なら憧れるプロ、しかも天下のジャイアンツの指名を断る。そして、浪人してまで希望の大学へ進学し、そこでも活躍。決して順風満帆な道のりではなかったはず。泥水をすするような苦しい思いもしただろう。だが、それを乗り越えてきたのは、野球への強い思いと、持ち前の気持ちの強さがあったからだ。
「男気」黒田博樹が引退。16年はダントツで優勝したとはいえ、今季はカープにとって重要なシーズンになる。そして、ジャイアンツは空前絶後の大補強を敢行。福井にかかる期待、責任は決して小さなものではない。
「今年は良いっすよ。絶対に2桁勝ちますよ(笑)」
恒例行事、春季キャンプでは語りかけてくるのだろう。そして17年シーズンこそ、有言実行、子供のようなあの笑顔をみせてくれるはずだ。
◇福井優也(ふくい・ゆうや)
1988年2月8日、岡山県出身。右投右打。10年のドラフト1位で早稲田大からカープ入団。
※1 ジャイアンツへの入団拒否
1973年1位指名の小林秀一が入団拒否。福井は1980年4位指名の瀬戸山満年以来25年ぶりの入団拒否だった。
山岡則夫●文 text by Norio Yamaoka
1972年島根県出身。千葉大学卒業後、アパレル会社勤務などを経て01年にInnings,Co.を設立、雑誌Ballpark Time!を発刊。現在はBallparkレーベルとして様々な書籍、雑誌を企画、製作するほか、多くの雑誌やホームページに寄稿している。最新刊は「岩隈久志のピッチングバイブル」、「躍進する広島カープを支える選手たち」(株式会社舵社)。 Ballpark Time!オフィシャルページ(http://www.ballparktime.com)にて取材日記を定期的に更新中。