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事故死した父のために―中日ドラ1柳裕也が目指す「勝てるピッチャー」


明大から中日にドラフト1位で入団した柳裕也投手。大学では川上憲伸投手(元中日)以来、19年ぶりに投手でキャプテンを務め、春秋リーグ戦、明治神宮大会の3冠に貢献。2年連続でメンバー入りした大学日本代表でも4年次にキャプテンを務め、2大会連続の日米大学選手権優勝に導いた。キャプテンシーを発揮し、チームを牽引してきた右腕に自身が考えるリーダー像、プロでの目標を聞いた。

■ケーキに顔埋めたことも…明大&大学代表では主将としてチーム統率

 明大から中日にドラフト1位で入団した柳裕也投手。大学では川上憲伸投手(元中日)以来、19年ぶりに投手でキャプテンを務め、春秋リーグ戦、明治神宮大会の3冠に貢献。2年連続でメンバー入りした大学日本代表でも4年次にキャプテンを務め、2大会連続の日米大学選手権優勝に導いた。キャプテンシーを発揮し、チームを牽引してきた右腕に自身が考えるリーダー像、プロでの目標を聞いた。

 大学日本代表のキャプテンとして、2大会連続18度目の優勝を飾った昨年7月の第40回日米大学選手権。「キャプテンだから」と立場におごらず、チームを良くしたいという純粋な思いから、チームのために動いた。まだ任命されていなかった6月の選考合宿初日、チーム全員の部屋を回って挨拶した。

「ジャパンに入るつもりでやっていたので、日本代表への思いは強かったですね。みんな部屋で素振りをしたり、コンビニに行ったりして時間があったので、その時にチーム全員の部屋を回りました。

 3年の時から選んでもらっていますが、先輩に話しかけてもらうと、すごくうれしかったんです。初めて代表に来る人は、そこで話しかけてもらうだけでも次の日、やりやすいんじゃないかと思いました。グラウンドでも、全員に話しかけるように心がけました」

 キャプテンに就任した7月の直前合宿が始まってすぐに開かれた楠本泰史内野手(東北福祉大3年)の誕生日パーティーでは、バースデーケーキに顔を埋めた。

「みんな硬かったんで。自分、やるしかないと思いました(笑)」

 そんなおどけた行動にも考えがあった。大役を務める上で、日本代表でも、大学のチーム内でも、キャプテンという雰囲気を出さないよう努めていた。

「『キャプテン』というと、後輩は身構えます。時にはふざけて、そういう雰囲気を出さないようにして、やる時はしっかりやろうと決めていました。後輩に怒るのは簡単ですが、それよりも同級生に言いづらいですけど、きついことを言えるように心がけていました」

■小学6年で他界した父にプロ入り報告「天国で喜んでくれていると思う」

 キャプテンとして同級生にも厳しいことが言えたのは、日頃の信頼関係があったからだ。寮の廊下で会った時に声をかけるなど、常にチーム全員とコミュニケーションを取っていた。チームメートを気遣う姿は、中日に入団した今でも変わらない。

「同期はいい雰囲気ですね。高校を卒業してすぐの2人(石垣雅海内野手、藤嶋健人投手)がいるので、その2人はかわいがっていきたいです。高卒ですぐにプロに入団して、不安もたくさんあると思います。自分も慣れない環境ですが、しっかり支えていきたいと思います」

 1月7日に昇竜館に入寮した。寮生活は高校から8年目。不安は全くないと話す。中学を卒業してすぐ、横浜高の寮に入寮した時のことを懐かしそうに振り返った。

「今は不安や心配事はないですね。むしろ『よし』という感じで来ました。宮崎から横浜に出てきたときが、一番やばかったです。寂しかったですよ。でも寂しいと言うのは簡単だし、そんなこと言うと親も心配します。口には出さないようにしていました」

 昨年末、プロ入りが決まって初めて、故郷の宮崎に帰省した。

「周りの人が本当に喜んでくれました。母も喜んでくれています。プロで活躍するところを見せたいですね」

 小学6年の時に事故死した父の墓前にも、プロ入りを報告した。

「上手い下手は別にして、キャッチボールをよくしてくれました。宮崎なので、巨人やソフトバンクのキャンプも見に行っていました。野球が好きだったので、天国で喜んでくれていると思います」

■目標の選手はナシ、柳が目指す理想の投手像とは…

 プロで目標にしている選手は特にいないという。目指す投手像は「勝てるピッチャー」だ。

「『すごいな』と思う選手はいますが、誰を目標にしようというのはありません。一番目指しているのは『勝てるピッチャー』になることです。活躍する選手が一番すごいと思います」

 シーズンで何勝を目標にしているかを尋ねると、少し間を置いた後に「勝ちたいですね」と力を込めた返事が返ってきた。しかし「何勝」という目標は、まだ立てていない。

「まずは1軍の舞台に立つこと、ローテーションに入ることを目指したいです。1軍を勝ち取り、シーズンが始まってそのポジションで投げられて、初めて考えられると思います。まずは1軍で開幕を迎えられるように頑張ります」

 パ・リーグのソフトバンク・田中正義、ロッテ・佐々木千隼らとともに、セ・リーグの新人王候補の呼び声も高いが「1日、1球を必死にやるだけです。自分のレベルアップが、チームのためになると思います。その結果、新人王などのタイトルが付いてくると思います」と謙虚な姿勢を崩さない。

「ファンの皆さんに応援してもらえる、チームの顔になりたいと思います」

 気さくで飾り気のない受け答えの中に、野球に対する意思の強さを垣間見せる。誰からも好かれる明るくまじめな性格。自身が思い描く「勝てるピッチャー」になることができれば、おのずとその思いは叶うはずだ。

篠崎有理枝●文 text by Yurie Shinozaki

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