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選抜出場有力の仙台育英、佐々木監督が掲げた今年のテーマとその意図は


昨秋の東北大会で優勝し、2年ぶりのセンバツ大会出場が確実視されている仙台育英。今年は今月6日から「大機大用」のテーマを掲げて活動を開始。9日には毎年、恒例となっている宮城県塩釜市にある塩釜神社での祈祷を受け、まずは“春”に向けてスタートを切った。西巻賢二主将は「今年は酉年なので、1つ1つをトリこぼさないように、てっぺんをトリたいと思います」と宣言した。

■選抜出場有力の仙台育英、2017年の始動を追う

 昨秋の東北大会で優勝し、2年ぶりのセンバツ大会出場が確実視されている仙台育英。今年は今月6日から「大機大用」のテーマを掲げて活動を開始。9日には毎年、恒例となっている宮城県塩釜市にある塩釜神社での祈祷を受け、まずは“春”に向けてスタートを切った。西巻賢二主将は「今年は酉年なので、1つ1つをトリこぼさないように、てっぺんをトリたいと思います」と宣言した。

「あけましておめでとうございます!」

 部員88人が声をそろえた新年の挨拶は清爽だった。6日の午後。仙台育英の選手たちがクラブハウスを略して「クラハ」と呼ぶ部室に佐々木順一朗監督が姿を表した時だった。「おめでとう!」と指揮官も返し、新年一発目のミーティングは始まった。

 最初は年賀状について。佐々木監督は部員たちから届いた年賀状にお礼を言った。年賀状が800枚を超えた頃から書く枚数を制限していることを説明し、「みんなにはこうやって会えるので、この場を借りて、ありがとう、と。一緒に頑張ろう、と伝えられれば」と“返信”。そして、この年賀状を題材に積極性のススメを説いた。

「これから社会に出て、年賀状をどうしようかなと迷った時は必ず出す。言った方がいいかな、言わない方がいいかなと思った時は言う、とかね。どっちにしようかなと思った時は何もしない方を選ぶのではなく、何かする方を選んだ方が間違いがない。やった方がいいかな、やらない方がいいかなと思った時は間違いなく行動した方がいい。そういうクセをつけておくと、何もやらない日がなくなっていくと思うんだよ。

 とにかくやってみた。そしたら何かが起きた。行動を一歩でも起こせば、いいにつけ、悪いにつけ、何かしら結果がそこに生まれる。悪いことは反省が残る。何もしなければ何も起こらないんだけど、つまりその先も何もない。迷ったらやる。迷ったら言う。そんな感覚をつけてください」

 こう話すと佐々木監督はすでに壁に貼られた全部員の今年の目標を見渡した。仙台育英では毎年、年末年始の休みの間に目標を書き初めしてくることになっている。佐々木監督もその年のチームのテーマを書道用紙にしたためてくる。今年のテーマは「大機大用」。指揮官はその意味を部員たちに説明しはじめた。

■「気合いが入っている時に書く文字にはエネルギーがある」

「機はチャンスです。人生には必ずチャンスが訪れる。チャンスはみんなに訪れているんだけど、チャンスが来ただけでは何も起きない。チャンスは来ているんだけど、何もしなかったということがないように。チャンスを何とかするためには用、活用すること。チャンスがあったら何とかする工夫がないと物事は大成しないという意味です」

 大機大用はかつて勤めていたNTTの上司が、NTT東北硬式野球部がクラブチームになる際に用いた言葉だと伝え、「何か事を起こす時にはいいので選びました」と話した。

 前述の通り、部員同様、佐々木監督も正月に筆を走らせる。筆にたっぷり墨を付け、いざ「大機大用」と書いたが、「一発目がやばいなと思って、“十発”くらい書きました」と部員を笑わせた。そして、「“十発”くらい書いて、結局、何発目を持ってきたと思いますか」と質問すると、部員らは「一発目」と回答した。

「一発目です(笑)。これが面白いね。(貼ってある)これ、やばいと思ったやつです。でも、一番、気合が入っているんだね。どれも気合いは入っているんだよ。最初は機が嫌だった。次は機をちゃんと書くとバランスがおかしかった。その次は用がダメだった。何回やってもそう。結局、パッと見たらこれが一番、良かったんだね」

 部員が声を上げて笑う中、佐々木監督が続ける。

「パッと見とか、インスピレーションとか、そういうのがとっても大事なんだなと教えられたね。やっぱり、一番、気合いが入っている時に書く文字にはエネルギーがある。そんな1年にしたいと思います。大きいことはいいことだということで、大きくみんなでチャンスをつかめるように心を1つにしてやっていきましょう」

 この日は時間の都合上、2年生のみが目標の設定理由や意味を前に出て発表した。“トップバッター”は昨秋、途中出場ながら公式戦13試合で打率.563をマークした若山壮樹。「脱皮」を掲げ、「高校野球最後の年に大きく脱皮したい」と意気込んだ。昨年までプロ野球楽天の2軍投手コーチを務め、今季は台湾プロ野球チームのコーチをする杉山賢人氏の長男で、明治神宮大会でも安打を放った杉山拓海は「強い心、諦めない心が大事」と「心」を選んだ。

■グラウンドマネージャーが選んだ言葉、「仙台育英の歴史の中に革命を起こせれば」

 年末年始の課題には読書もある。オリックス・佐藤世那投手の弟・令央はムードメーカーらしく、「僕が読んだ本は……」と仕込んでおいた本を手にし、「違う! 違う!」と総ツッコミを浴びながら、投手らしく「真っ向勝負にしました。去年はみんなに迷惑をかけたり、神宮大会で情けない結果で終わったりしたのでどんな壁にも正面からぶつかっていけるようにしたい」と力強く話した。

 その後も「初志貫徹」「因果応報」「誇」「力」「夢叶」「激変」「覚悟」「男気」「勢」「実」「鉄心」「兄貴」「獣」「満開」「求」「笑顔」「燃」「健」「一」「怒涛」」日進月歩」「一勝懸命」「巨大化」「理想」「笑顔」「凸凹」「優」「必笑」「平常心」「負けん気」「意志堅固」「変進」「深謀遠慮」と、それぞれが個性的な目標を発表。笑いが多く混じる中、和やかな雰囲気で想いを語った。

 グラウンドマネージャーの小野寺航希は「革命」と一筆入魂。現チームが始まってからこれまでを振り返り、「アップにエアロビクス、トレーニングで本格的にレッドコードが入り、いろいろと例年にないことに取り組んでいます。それをやっているだけで終わらせるのではなく、仙台育英の歴史の中に革命を起こせればいいなと思い、革命にしました。また、この夏は99回目の大会なので、100回大会になる前に仙台育英として高校野球の中に革命を起こせればいいかなと思っています」と理由を説明。丁寧に「恩返し」と書いた西巻賢二主将は高校野球最後の年を迎え、「甲子園優勝が親やこれまでお世話になった指導者の方への恩返しになると思う」と頂点への想いを話した。

 土日だった7、8日の1日練習を経て、9日は恒例の必勝祈願が行われた。塩釜神社に各々集合し、チームスタッフ・部員が祈祷を受けた。その後、制服からジャージーに着替え、グラウンドまで約7キロの道のりをランニング。全員が戻ると、チームスタッフ、保護者も室内練習場にそろい、神聖な空気が漂う中、だるまの目入れなどをした。餅つきも行われ、雑煮として振る舞われた。あんこやきな粉に宮城県北部の郷土料理「ふすべ餅」にも舌鼓を打った。

■「素数の年は滅多に来ない」「今年1年は100年から100回大会へつなぐ大会でもある」

 この日、郷古武部長はあいさつの中で「2017年がスタートしました。この2017という数字は2017と1でしか割れません。それを何と言いますか、杉山くん」と質問。杉山が「素数です」と答えると、「さすがですね。素数の年は滅多に来ません。これは何かを成し遂げるにはいいチャンスだと感じました。しかし、その何かを成し遂げるためには1つ1つを準備して、きちんとこなしていかないといけません。結局はいつも通り、1つ1つをきちんとやっていくことです」と語りかけた。

 佐々木監督はこの日もテーマの「大機大用」に触れ、「しっかりとチャンスを活かす日々を送ってほしい。今回はみんなの努力によって、春のセンバツという機会を与えられるはずです。そのチャンスを生かすも殺すも自分たち次第だと肝に銘じていかないといけないのではないかと思います」と強調。そして、「全部、つながっているんだということを感じて日々を送ってほしい」とも話した。

「甲子園が始まって100年という年に自分たちは甲子園準優勝でした。その後、第100回大会に向けて、甲子園は動いています。つまり、一時代が終わります。そんな狭間に今回はいます。今年の夏は99回大会です。そんな中で、今年1年は100年から100回大会へつなぐ大会でもある。そんな思いを持って監督という仕事をやっています。時代は変わるんだなと思いながら、それをつないでいかないといけないんだなと思っています。春のセンバツを頑張るぞだけではなく、春は夏につながっている、全部はつながっているということを感じて今年1年、頑張っていきたいと思います」

 仙台育英の硬式野球部は1930年に創部された。63年夏に甲子園初出場を果たすと、これまで夏25度、春11度の出場があり、89年夏、01年春、15年夏と3度の準優勝。明治神宮大会は12年と14年の2度、制した。様々な出来事がつながり、織りなしてきたチームの歴史がある。西巻主将は「1日1日を大切にして、センバツに向けてやっています。今年は酉年なので、1つ1つトリこぼさないように、てっぺんをトリたいと思います」と、今年の干支にかけて抱負を語った。

 千里の道も一歩から――。センバツ大会出場を決める選考委員回は今月27日に開かれ、出場32校が発表される。

高橋昌江●文 text by Masae Takahashi

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