- 高校野球
2018.08.25 14:27
【THE INSIDE】金足農の快進撃で盛り上がった100回目の夏を振り返る(その1)
終わってみれば下馬評通りで、まるで予定調和だったかのように大阪桐蔭の史上初となる二度目の春夏連覇で幕を閉じた今年の全国高校野球選手権大会。
第100回の記念大会ということもあって、ことのほか盛り上がって、観客動員も史上初の100万人突破ということで、改めて高校野球の注目度の高さを思い知らされた。
その要因となったのは、高校野球史上最強ではないかという声も聞かれるほど強いと目されていた大阪桐蔭が、結果として勝ち上がっていったということもあろう。ただ、それ以上に、秋田県の公立農業校の金足農が快進撃を果たして、この活躍が間違いなく動員に拍車をかけていた。
大阪桐蔭・柿木蓮君
金足農に関しては、大会前からエースの吉田輝星君の存在は注目されていた。とはいえ、いくら吉田君が好投手とはいえ、決勝に残るまでの快進撃を果たすとは、多くの人が予想しなかったであろう。
それが、初戦で鹿児島実を下して勢いづくと、2回戦の大垣日大とは7回まで3対3と競り合いながら、8回に大友朝陽君のソロホーマーで突き放し、その裏の吉田君は、まさに「ギアが入った」状態になり、3者三振。しかも、すべてが見逃しの三振だった点が、ボールのコースが厳しかったということを表しているのではないだろうか。実は、これが金足農の進撃の本格的スタートだったのだろう。
金足農は9回にも内野安打の走者をバントで進めて、その後に安打が出るという自分たちの戦い方で加点。そして、9回の裏も3人できっちりと抑えて23年ぶりのベスト16進出となった。
3回戦の相手は、誰もが格上ではないかと思っていた横浜だったが、3回に吉田君自身の同点2ラン。しかし6回、7回に横浜が1点ずつ奪い、健闘した金足農もさすがにここまでかと思われる展開となった。
ところが8回、3番吉田君から始まった攻撃は、無死一二塁となった。ただ、そこでバント失敗があり1死。スタンドにも、「やっぱりここまでかな…」という空気も感じられつつあったところだった。
ここで6番高橋佑輔君が、横浜のエース板川佳矢君の渾身のストレートを一振、打球はセンターバックスクリーン横に飛び込む逆転3ランとなった。まさに、「奇跡的一発」と表現されても過剰ではない一発だったが、こういうことが起きるのが高校野球。そして、これが間違いなくチームの見えない力となっていくのが高校野球だ。
9回の守りは、横浜は一発もある4番万波中正君からの打順だったが、吉田君は3者三振。ここぞという時に、三振を奪いに行って確実に三振を獲れるのも素晴らしい。ことに、内海貴斗君に対しては追い込んでから5球ファウルで粘られながらも、根負けすることなく勝負して最後は空振りを取ったのだから見事だった。
まさかの逆転負けに、呆然と挨拶に並ぶ横浜の選手たち
こうして、金足農の活躍が確実に大会を盛り上げていくこととなった。準々決勝では、ひたむきな戦い方が光る好チームで、ここまで確かな戦いで勝ち上がってきた近江に対して、1点を争う好試合となったが、最後は劇的な2ランスクイズを決めて、逆転サヨナラ勝ち。
そして、準決勝でも平成になって2度の全国制覇経験のある日大三に対して、堂々の戦いぶりで強力打線を抑え込み競り勝った。秋田県勢としては第1回大会の秋田中以来の103年ぶりとなる決勝進出を果たしたのである。こうなったら、メディアも含めて連日の金足農フィーバーとなっていったことは言うまでもない。
金足農の活躍は、高校野球が多くの人たちに指示され続けてきたことへの、さまざま要素が含まれていたともいえる。スポーツ新聞は連日、金足農というか、吉田君を大見出しで扱っていた。
投手の複数化が推奨される今の時代にあって、エースの吉田君が地区大会から一人で投げ続けてきたという事実。また、圧倒的に私学優勢となってきた今の高校野球にあって、地方都市の公立校が地元の選手だけでここまで躍進してきたということ。
また、中学生の普通科校進学指向にあって、かつては商業校などが甲子園にも多く名を連ねていた時代があったのだが、実業系の学校が少なくなって来ているのも現実だ。しかも、農業校は実習なども多く、チーム競技の部活動としては必ずしも条件としても恵まれてはいない。そんな中で頑張っているということが報じられることで、金足農の人気に拍車をかけていったことは間違いない。
勝利の挨拶も全力、金足農
また日頃はスポーツ報道などない、日本農業新聞も金足農の活躍を農業関係者という目線から報じるというものもあった。そうした現象が、いつも以上に高校野球とそこを取り巻く世界を盛り上げていったということもまた確かな夏だった。そして、この夏に日本中を熱くした金足農の野球部によって、高校野球の魅力を改めて示してくれたということは間違いない。
ただ、その一方で、かねてから問題となっている球数問題や、今年から導入されて今大会に2試合あったタイブレーク。また、例年以上の暑さが続いたことにより、熱中症対策も大きなテーマになった。果ては、真夏の大会としての開催時期や時間、果たして甲子園球場だけでなく、ドーム球場を使用したらどうかなど、様々な案も出てきた大会でもあった。
今大会を総括していく中で、そうした今後にまつわる話も検討していかなくてはいけないと思っている。