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高校野球

“野村の教え”引き継ぐ指揮官と野球を心から楽しむ選手たちで目指す初出場 昌平(北埼玉)【100回目の甲子園狙うダークホースVol.2】

 春の埼玉大会は初戦敗退。それでも、昌平(しょうへい)高校は「優勝候補の1つ」と言っていい。
 理由はいくつかある。まずは今夏の甲子園が100回目の記念大会となるため、埼玉は北埼玉と南埼玉の2地区に分かれる。南埼玉は春6連覇中の浦和学院や、プロ注目投手のいる聖望学園や新鋭の山村学園、川越東、公立校でも市川越やふじみ野に力があり群雄割拠だが、北埼玉は甲子園連覇を狙う花咲徳栄がいるとはいえ、春の埼玉大会で同校以外の8強進出は無し。
 また、過去を見ても80回記念大会では滑川(現滑川総合)、90回記念大会では本庄一が県2校代表の恩恵も生かして甲子園初出場を果たしている。
 そして、最大の理由は当然、昌平の選手たちの“実力”にある。黒坂洋介監督も「甲子園を狙える力はある」と評している。


学年関係なく仲の良いチームで結束力も強い


★1、2年生中心に有望選手多数

 チームの鍵を握るのはエース格の2年生左腕・米山魁乙(かいと)だ。勢いのあるスリークォーターのフォームから投じるストレートは最速で140キロに迫る。対角線上に投げ込むクロスファイアが武器で、インコースを果敢に攻めることができる。変化球もスライダーとチェンジアップに加えて、春前に習得したスローカーブも有効で、既にNPB球団のスカウトたちも熱視線を送る。
 春の埼玉大会初戦・山村国際戦は中盤まで試合を優位に進めながらも、9回に3点を奪われて逆転サヨナラ負け。その悔しさを糧に練習から「最後までやりきる」ことを胸に励んできた。まだ2年生ではあるが、チームを引っ張る気概は投球にも好影響を与えている。
 また、視察したNPB球団のスカウトが「え、あの子1年生なの?」と驚いていたのが、4番候補の一塁手・渡邉翔大(しょうだい)だ。県内外の強豪からも誘いはあったが、「練習の雰囲気が良かったから」と昌平を選んだ。1年生で大役を任されているが「自分が甲子園に連れて行きたい」と気後れは一切ない。さらに同じく1年生で中堅手のレギュラーを務める千田泰智(ちだ・たいち)は「野球をよく知っている」と黒坂監督も信頼を置いている。

★野球が楽しくなる指導

 そんな下級生の台頭が目立つチームの中で黒坂監督は「3年生がよくついてきてくれました。“もっと”こうなりたい、そのためにどうすればいいかと求めてきてくれました」と目を細める。
 夏の大会が終わった翌日、新チーム最初のミーティングで監督も選手も地べたに座り、今後の方針を全員で話し合った。そこで現3年生を中心とした選手たちから「緻密な細かい野球がしたいです」という声が挙がり、黒坂監督はこれまで歩んできた野球人生の中で学んだことを選手たちへ丁寧に伝えていった。

 黒坂監督は同校を卒業後に強豪の駒澤大とシダックス(廃部)でプレー。シダックス時代には野村克也監督の指導を受けた。現役引退後は母校の監督をしていたが、10年前に退任。社会人生活を経て昨秋から復帰した。
 選手たちの要望を受け、ワンプレーごとの定義づけやこれまで得てきた様々な知識を吹き込んだ。当然、細かな部分の指摘やサインが倍以上に増えるなどしたが、「指導が分かりやすい」「野球が楽しい」という声が選手から多く聞かれたのも印象的だった。3番を打ち巧打が光る外野手の比嘉蓮(3年)も「野球の知識を増やしてもらい、スイングも変えてもらい、成長を実感しています」と笑顔が溢れる。
 これについて黒坂監督は、高校野球の現場から離れていた間の社会人経験や我が子の野球を見て「指導のメリハリをより意識するようになりました」と話す。以前に監督を務めていた際は威厳を意識していたが、今では時には冗談も飛ばし、コミュニケーションも積極的に取る。先日の誕生日には選手からサプライズでネクタイのプレゼントがあり、組み合わせ抽選会ではそれを身につけて出席した。

 そして、その抽選の結果、1つ勝てばノーシードながら夏の甲子園出場5回の名門・春日部共栄と対戦することとなった。早くも大きな山場を迎えるが、主将を務める花岡拓哉が「実績のあるチームですが、それ相応の練習をしてきたので、絶対倒してやるという雰囲気ができています。絶対に勝ちます」と力を込める。
 経験豊富な指揮官に導かれ、野球を心から楽しむ選手たちが北埼玉で旋風を巻き起こすかもしれない。


「どんどん吸収していく選手たちです」と、どん欲な姿勢と日々の成長を選手たちから感じ取っている黒坂監督


文・写真=高木遊