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3度ドラフト指名漏れも追い求める夢「冷やかし」にも動じない24歳の成長


巨人からドラフト4位で指名された池田駿投手を擁するヤマハの初優勝で幕を閉じた社会人野球日本選手権。池田をはじめ、オリックスから1位指名された東京ガス・山岡泰輔投手、ロッテから2位指名された大阪ガス・酒居知史投手など、ドラフト指名選手に注目が集まった。

■日本通運でプレーするドラフト候補、大谷昇吾が描く夢

 巨人からドラフト4位で指名された池田駿投手を擁するヤマハの初優勝で幕を閉じた社会人野球日本選手権。池田をはじめ、オリックスから1位指名された東京ガス・山岡泰輔投手、ロッテから2位指名された大阪ガス・酒居知史投手など、ドラフト指名選手に注目が集まった。

 決勝でヤマハに敗れ、準優勝に終わった日本通運には、プロへの思いを胸に秘める選手がいた。大谷昇吾内野手(24)だ。同選手は実は高校、大学、社会人と計3回のドラフト指名漏れを経験している。

 鹿児島県の樟南高校では、2年生の時に夏の甲子園大会に出場。1番ショートとして活躍し、持ち味の俊足と強打で注目を集めた。ドラフト当日は、寮の食堂のテレビを見ながら指名を待ったが、名前を呼ばれることはなかった。

「高校生の時は、ちょっと天狗になっていたところがあったと思います。『指名されるだろう』と軽く考えていました。ショックで翌日は学校に行くことが出来ず、寮の部屋にいたら部長の先生から『学校に出ろ』と電話がかかってきました。学校に行ったら、クラスのみんなは普通に接してくれました」

 進学した上武大では、関甲新学生リーグ二塁手として4季連続ベストナイン。3年の秋には7本塁打、20打点を挙げ、連盟新記録を樹立した。しかし4年の秋は極度の打撃不振に陥った。

■指名漏れで坊主頭にしたことも、プロ入り実現した兄を「超えたい」

「ドラフトが近づくにつれて、周りを意識しすぎて結果を残せませんでした。プレッシャーに勝つことができなかった。ドラフト当日は監督室で、理事長、監督とテレビを見ていましたが、指名はなく『すみませんでした』と謝りました。

 残念でしたけど、幸い社会人のチームから声をかけてもらっていたので、強くてレベルの高いところにあるチームで、一から鍛え直そうと思いました。大学での最後の大会も控えていたので、坊主にして気合を入れ直しました」

 大谷の兄、龍次さんは07年にロッテからドラフト育成5位指名を受けた。しかし、1軍での出場機会はなく、わずか2年で自由契約になっている。プロで苦労した兄の姿を見ても、自身のプロへの思いは変わらない。

「兄を超えたいと思っています。兄がプロに入ったことで、プロの世界を近く感じました」

 社会人2年目で迎えた今年のドラフトは手応えがなかったと大谷は話す。

「プロからの調査書も来なかったので『今年はないだろうな』と思っていました。来年が一番大事。そこで行けなければもっと厳しくなると思います」

 なぜプロ入りを逃したのか――。自身の中では、「守備の安定性」が足りなかったと感じている。

■複雑な心境吐露する主将、それでも「本人が行きたいのであれば行って欲しい」

「大事なところでの守備のミスもありましたし、送球ミスも目立ちました。そこを直していかないといけないと思います」

 そんな大谷を周囲はどう見ているのか。

「大谷も同期がプロに入ったら、相当悔しいと思いますよ」

 そう話すのは、日本選手権で敢闘賞を獲得した日本通運の浦部剛史内野手(28)だ。浦部はキャプテンとして、チームメートの姿を常に気にかけている。

「プロ志望届を出したかどうかは、本人に直接聞いています。指名漏れした選手は、気にしている素振りは見せませんが、本人が一番辛いはず。ドラフトに指名されなかった選手を冷やかしている選手もいます。若いチームなので仕方ないと思いますが、本気でプロに行きたいと思っている選手に対して、それは違うと思います。あえて声をかける必要はないと思っています」

 来年は大谷以外にも、今年ルーキーで4番として活躍した北川利生外野手など、チームにはドラフト候補が名を連ねる。

「大谷も来年チャンスはあると思いますが、プロに行って欲しいけれど、行って欲しくない……。チームのことを考えると本当に痛いです。でも、本人が行きたいのであれば行って欲しいと思います」

 浦部はそうエールを送る。

■チームの勝利優先、「その上で、自分がプロに行けたら」

 追い続けるプロ入りの夢。それでも本人は自身の目標だけに優先させるつもりはない。チームに所属している限り、最大の目標は勝利。だからこそ、日本選手権で優勝したヤマハの池田が大会最高殊勲選手賞を獲得しても、特に意識することはなかった。「試合に負けたのが一番悔しい。そこが一番悔しいです。決勝まで行って負けるのは本当に辛かったです」。

 今後の目標も自身のプロ入りより、チームが勝つことだと大谷は力強く話す。

「高校、大学の時は、まずは『自分』になっていました。今はチームが勝つことが最優先です。その上で、自分がプロに行けたらいいですね」

 ドラフト指名に漏れ、チームメートに冷やかされても、今は何も思わない。

「大人になったんでしょうね」

 そう話す大谷に、ドラフトを意識しすぎて打撃不振に陥った大学時代の面影はない。冷やかされても動じず、チームの勝利を一番に考えられるようになった24歳は、さらなる成長を遂げ、来年のドラフトを待つ。

篠崎有理枝●文 text by Yurie Shinozaki

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