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高校野球

1試合平均16奪三振を叩き出しプロ6球団が視察。「都立のドクターK」吉岡桃汰(東大和南)の正体

大阪桐蔭の連覇で幕を閉じたセンバツ高校野球。全高校球児の視線は既に、100回目を迎える夏に向かっている。
 そんな中、清宮幸太郎が巣立った西東京の高校野球界に彗星のごとく、奪三振ショーを繰り返す無名の左腕が現れた。それが都立東大和南高校の左腕・吉岡桃汰(よしおか・とうた)だ。
 この春の公式戦で奪った奪三振数は4試合で63個。昨年までの実績は皆無ながら、1試合平均15.75個と驚異的な数字を残した左腕は一体何者なのか。


吉岡桃汰(よしおか・とうた)・・・2000年11月25日生まれ、東京都羽村市出身。武蔵野ヤングライオンズ→羽村三中(軟式)→東大和南高3年。180cm73kg。左投右打(最初に打撃指導してくれた人が、吉岡を左利きと知らずに指導したため、以後ずっと右打だという)


★スカウトの前でも快投

 吉岡が一部の高校野球ファンをざわつかせたのはブロック予選初戦だ。淵江を相手になんと27個のアウトのうち22個を三振で奪う快投を演じたのだった。さらに続く代表決定戦でも18三振を奪い、東京大会本戦に駒を進めてきた。
 そこで1回戦の会場となった町田市の小野路球場に向かった。スタンドに着くと、そこには既にプロ4球団のスカウトたちが第2試合の日野台対東大和南の試合開始を待っていた。

「あの奥でキャッチボールしている選手かな?確かに良い投げ方してるね」とあるスカウトは、まずその身のこなしに目をつけた。そして試合が始まる。
 すると、次々と三振の山が築かれた。序盤の3イニングで8個の三振を奪うと、4回に1失点こそしたが、4回以外はこの日最速137km/hのストレートに、スライダー(縦変化と横変化)、カーブが冴えて日野台打線をほぼ危なげなく抑え込み16奪三振。前述のスカウトは「(リリースの際に)踏み出す足が地面に着いてから上で叩けますね」と評価した。

★怪我の功名

 試合後、吉岡と高田敏之監督に話を聞いた。すると驚いたことに投手歴はまだ1年半ほどだと言う。中学時代は部員が9人おらず2年秋から3年春までは試合ができなかった。さらにポジションはファースト。高校でも野球をする気は無かったそうだが、「これまで野球をやってきて、野球以外に特にやりたいこともなかったので」と野球部に入部した。そこで高田監督から肘から先の使い方が柔らかいことを理由に投手としての素質を見込まれ、1年秋から投手に転向。それでもなかなか結果は出ずに、今年に入るまでエースナンバーを背負うこともなかった。

 しかし、この冬のアクシデントが思わぬ幸運をもたらした。1月の練習でアメリカンノックを受けていた際に、ダイビングキャッチをしてグラブをはめていた右手首を骨折。前年には自転車でトラックに轢かれた際にかすり傷で済んだが、今回はしばらく投球ができなくなった。
 そこでしばらくの間、利き手の左手をサンドボール(ゴムボールの中に砂が入っているボール)を使ったトレーニングで鍛えたところ、球に力強さがついた。すると3月の練習試合では140km/hを計測するまでになり、手応えを持って公式戦に臨めたのだという。

★高い将来性

 中1日で迎えた2回戦は21世紀枠で2014年のセンバツ甲子園に出場するなど、都立屈指の強豪である小山台と対戦した。この日は1回戦とは異なる2球団のスカウトがバックネット裏に陣取った。
 この日は試合巧者の小山台の前に6失点を喫して三振も7個と控えめに終わった。それでもスカウトは「力がついてくれば面白い。フォームも良いし変化球も良い。これといった欠点は見当たらないですね」「クイックや牽制も上手い。大学行っても追いかけたい存在です」と評価は上々だった。

 吉岡は試合後「中1日の疲労が取れませんでした。夏に向けて回復力をつけていかないといけません」と、最後の夏へ課題を挙げた。高校卒業後の進路については「(力のついてきた)3月くらいから大学でも野球をやりたいと思ってきました」と話す。
 ついこの前まで平凡で無欲だった野球少年は、本人さえも驚く急成長で新たな世界を見つめようとしていた。

文・写真=高木遊