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【2018年注目の男たち④】栗林良吏(名城大) 最速153キロ右腕の軌跡

★リーグ開幕戦にプロ8球団スカウト

今年の東海地区ドラフト候補の目玉だ。4月7日の愛知大学リーグ開幕日に、オリックスやソフトバンク、ヤクルトなどプロ8球団のスカウトが集結した。この日は現れなかった球団のスカウトも、春先の練習試合などで既に栗林を見ているので、12球団全ての指名リストに挙がっているものとみられる。

ストレートの最速は153キロ。常時140キロ台を維持する。栗林は「全国レベルでみたら、特別すごいわけではないですが」と前置きしつつ、「愛知県の中では負けない自信はあります。他の投手に比べてスピードがある分、困ったらストレートで押せる。スピードのおかげで、今まで好投できた面もありました」と自身の長所に挙げる。

球質もよい。同じ愛知大学リーグ出身の筒井和也スカウト(阪神/愛知学院大OB)は「ストレートの質がすごく高い。タテの回転が効いています」と評価。打者の手元で球がホップするかのようだ。先述の開幕戦では最速146キロ止まりだったが、捕手の市川真悟(4年)は「ストレートの走り自体はもう一つだったのに、相手が対応しきれていませんでした。空振りや詰まったファールも多く、中盤までストレート中心でいけました」と証言する。

結局この日は96球で完投勝ち。「ストライク先行のピッチングができていました」(筒井スカウト)と安定感を示した。栗林自身は細かい制球力を課題に挙げるが、ストライクが入らずに崩れることはない。対戦相手の監督の一人は「スライダーでカウントがとれる」と評する。左打者にはツーシームやスプリットを使うなど工夫し、投球の総合力がある。


昨年は侍ジャパン大学代表にも選出され、日米大学野球とユニバーシアードにも出場した。


★高校2年秋に投手へ転向

栗林は愛知黎明高2年の秋、本格的に投手へ転向した。高校には内野手として入学。3番・遊撃手として起用された2年夏は全8試合で安打を放ち、愛知大会準優勝に貢献している。

投手転向を命じた愛知黎明高・田中宏毅監督は、当時の様子をこう話す。「もともとピッチャーとショートの両方で考えていました。ボールを投げる力があり、ショートから送球するときも腕の振りがすばらしかったです」。恩師が「運動能力の高い子で、よい動きをしていました」と1年夏から背番号を与えたように、センスもあった。

ただ、栗林自身はもともと「あまりピッチャーは好きではなかったです」と打ち明ける。野手業に後ろ髪をひかれながら名城大に進んだが、そこで素質が開花した。「大学でピッチャーの練習に専念したことが大きかったです。投げ方を覚えていったことで、球のスピードが速くなりました」(栗林)。

原点は、ホロ苦デビューとなった大学1年春のリーグ戦だ。開幕戦でリリーフを任されたが、打者2人を相手に一死もとれず降板。これがハングリー精神に火をつけた。「翌日から、動画サイトを見て自分なりにピッチャーとしての勉強を始めたんです。桑田真澄さん(元巨人ほか)が投げ方を基礎から解説している動画をまず見たり。当時は投手コーチもいなかったし、自分でやるしかないと思いました」。3日後のリーグ第3戦で好投すると、ハートは投手一色に染まった。

ここまで概ね順調に推移している。3年時には春のリーグ戦でノーヒット・ノーランを達成し、大学日本代表にも名を連ねた。昨年2月に加入した山内壮馬投手コーチ(元中日ほか)の指導も受け、成長は加速。「試合を見た人から、最近は力任せを脱し、力感なくスピードボールを投げていると言われます。そうとらえてもらえるのは嬉しいです」(栗林)。

2度経験した全国舞台で勝てなかったことだけが不本意だが、今年、栗林の思いは強い。名城大・安江均監督は「いつも通りに投げてくれればいい。負けずぎらいで責任感があり、アグレッシブな性格。反省点から学んでキャッチアップしていけるのもいい」と信頼を寄せる。リーグ開幕週で好スタートを切った愛知の快腕に、開ける未来は明るい。



栗林良吏(くりばやし・りょうじ)…1996年7月9日生まれ、愛知県愛西市出身。178センチ、80キロ。右投右打。最速153キロの快速球と多彩な変化球を操るオーソドックスな好投手。

文・写真=尾関雄一朗