- プロ野球
2018.02.16 22:05
DeNA・細川成也の現在地
■指揮官絶賛の有望株
昨季、19年ぶりの日本シリーズ進出を果たしたDeNA。その中でひときわ大きなインパクトを残したのが、ドラフト5位ルーキーの細川成也だ。10月3日の中日戦でプロ初打席初本塁打の鮮烈なデビューを飾ると、そのままポストシーズンも一軍に帯同。日本シリーズでは高卒新人野手としては史上初の初打席初安打を放つなど、随所で大器の片りんをのぞかせた。そのポテンシャルはラミレス監督も高く評価するところで、2年目の今季は右翼のレギュラーを梶谷隆幸らと争わせることを明言している。
しかし、細川が順風満帆なルーキーイヤーを送ったかといえば、そうとはいえない。というのも、確かに一軍昇格後の活躍は見事だったが、そこに至る前の二軍では、ほとんどのスタッツで平均未満の数字しか残せなかったからだ(表1)。同学年の坂倉将吾(広島)や鈴木将平(西武)が1年目から二軍の平均を上回るOPSをマークしたのに比べれば、昨季の細川の成績は別段取り立てるほどのものではない。
■当たれば飛ぶが、当たらない
むしろ特筆に値するのが、過去に類を見ない三振の多さだ。昨季の二軍では435打席で182三振と、実に2.4打席に1個というハイペースで三振を量産。記録が残る1991年以降で見ても、三振数と三振割合は共にぶっちぎりのワースト記録であった(表2)。結果は二の次で、とにかくフルスイングを徹底させるというチームの指導方針があったにせよ、1年目はプロの高い壁に直面したといえるだろう。
ただ、細川が持つ最大の魅力は、ラミレス監督に「アレックス・カブレラ(元西武ほか)のよう」と言わしめたほどのパワーである。結果打球あたりの塁打数、すなわち「バットにボールが当たったときの長打率」を「平均塁打」として定義すると、昨季の細川がマークした.600という数字は、二軍で200打席以上に立った高卒新人では歴代6位に位置する(表3)。さらに、過去に.600以上を記録した5選手を見ると、キャリアが浅い森友哉(西武)のほかは、一軍でシーズン30本塁打を達成したスラッガーがずらりと並んでいる。打球を飛ばす能力に関していえば、細川は間違いなく高卒新人離れしていた。
■立ちはだかるプロの変化球
もっとも、この飛ばす能力も最初から十全に発揮できていたわけではない。平均塁打を期間別に見ると、シーズン序盤は打球がなかなか安打にならず、なっても大半が単打という状態だった(表4)。しかし、中盤から徐々に長打を増やすと、8月以降は7本のアーチを量産。この成績の推移と、高卒2年目という伸びしろを加味すれば、パワーの面ではさらなる成長を期待しても良さそうだ。
となれば、目下の課題は三振を減らし、飛ばす機会を増やすことになる。だが、こちらに関してはシーズン中も改善の兆しはほとんど見られなかった(表5)。そもそも、三振を減らすためにはバットにボールを当てる確率を高める必要があるが、昨季の二軍における細川のコンタクト率はトータルで55.2%しかない(表6)。この要因としては、昨オフのインタビューで本人が明かしている通り、プロの変化球に対応できなかったことが大きいと思われる。夏場からはボールを引き付けて逆方向へ打つ意識を持つなど、細川なりに変化球への対策は講じていたようだが、結局のところコンタクト率の改善という結果にはつながらなかった。
二軍では球種やコースの記録がないため、サンプル数は限られるが一軍のデータを見ていこう。すると、ポストシーズンも含めたストレートに対するコンタクト率が72.7%だったのに対し、変化球は33.3%と、やはり手を焼いていたことが分かる(表7)。投手の左右別に配球チャートで表すと、特に空振りが目立つのが対右投手の外角に逃げていくボールだ(図1)。象徴的なシーンが7番・DHでスタメン出場した日本シリーズ第2戦の第1打席で、東浜巨(ソフトバンク)が投じた外角ボールゾーンへのスライダーを3球連続で空振りし、三振に倒れている。こうした変化球へのもろさは、細川が「僕の長所はそれしかない」とまで言い切るフルスイングの代償かもしれない。だが、フルスイングの中で変化球に対応する術を身につけないことには、一軍の舞台で継続した活躍を見せるのは現実的に難しいといわざるを得ない。
■長所で短所をカバーする
傑出した長打力を備えることで、三振の多さをカバーするという選択肢もある。図2に示したのは、2リーグ制後に一軍でOPS.800以上を記録した規定打席到達者を対象とした、三振割合と平均塁打の散布図だ。これを見ると、決して多くはないものの、三振が多くともそれに釣り合うだけの長打を放ち、トータルで優秀なOPSを残した選手も存在することが分かる。冒頭で触れたように、細川は今季のレギュラー候補に名前が挙がっている状況だが、眼前のチャンスをものにするには、「バットに当たらない」という短所を克服するより、「当たれば飛ぶ」という長所を伸ばす方が近道かもしれない。
とはいえ、三振割合30%以上の位置にプロットされているのべ9選手は全員が外国人で、いずれも平均塁打は.750を上回る。ましてや、昨季の二軍における細川のように三振割合が40%を超えたのは、1990年のラルフ・ブライアント(近鉄)が唯一の例であり、もし細川がこの方向を目指すのなら、歴代の助っ人たちに匹敵する長打力が求められることになる。好意的に捉えれば、細川は日本人では前例がないタイプの打者になる可能性を秘めているともいえるだろう。細川はまだ高卒2年目の選手であり、成長の余地は十分にある。チーム期待の星が今後どのような打者に育っていくのか、その行く末を見守っていきたい。
【出典】
日刊スポーツ
https://www.nikkansports.com/baseball/column/bankisha/news/1870758.html
「DeNA・細川成也インタビュー フルスイングでつかむ一軍レギュラー」, 『週刊ベースボール』 2017年12月11号, pp.20-21, ベースボールマガジン社
※データは2017年シーズン終了時点
文:データスタジアム株式会社 佐藤 優太