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2017.12.08 18:56
プロ野球 故障の実態
■抹消日数4181日
あんなに故障者が出ていなければ、もっと――。という思いはチームの関係者から一般のファンまで共通する感覚だが、ではチームが相対的にどれほど多くの故障者を抱えていたのか、という観点から故障について語られることはあまりない。
今回はチームの公式発表やメディア報道より収集した、故障にまつわる情報の集計結果を紹介したい。主に故障によって登録を抹消されてから再び一軍に登録された日までの日数を計算し、球団や故障部位ごとの集計を行う。シーズンを終えるまでに一軍へ復帰できなかった選手については、抹消日からNPBのレギュラーシーズン最終日までの日数をカウントする。なお、今回の調査では年間を通じて一軍に登録されなかった選手については考慮していない。あくまでもシーズン中の故障を対象とした調査である点は、強調しておきたい。
今季のセ・リーグで、最も故障による抹消日数が多かったのは658日のヤクルト。4月に肉離れで登録抹消されると一軍に復帰できなかった畠山和洋、6月の終わりに右手有鉤骨を骨折してシーズン終盤まで復帰できなかった高井雄平、7月に右肩の違和感で2カ月を棒に振った秋吉亮など、主力の長期離脱が相次いだ。戦力面へのダメージは大きく、シーズンを通じて満足な戦いをすることができなかった。
ヤクルトに次いで抹消日数の多かった中日は、野手の故障者が目立った。平田良介が6月に右ひざを痛めて一軍を離脱すると、ビシエドは8月に死球による骨折で登録抹消。9月には大島洋平が足首に死球を受けて骨折し、各々が治療に専念せざるを得なかった。
パ・リーグで最も故障の影響が見られたのはソフトバンクだった。抹消日数の合計655日はヤクルトに肩を並べる日数で、パ・リーグの中では最も多い。ひじの不調でシーズンの4カ月以上を二軍で過ごした和田毅や、右肩の違和感で2カ月以上を治療に費やした武田翔太、指の骨折で2カ月不在だった内川聖一など、相対的に見ても主力級の不在期間は長かった。中心選手の離脱というマイナスでも吸収してしまう選手層の厚さは、他球団に真似のできないソフトバンクの強みだったと言える。
過去5年というスパンで12球団を比較すると、4181日というヤクルトの抹消日数の多さが目を引く。5年間で3度の最下位という成績の元凶とみるのは短絡的ではあるものの、無関係とは言えないだけに改善が求められる。投手、野手と満遍なく故障者が発生している状況で、複数の要因が絡んでいることが想像される。
抹消日数の少なかったDeNA、日本ハム、広島は比較的若い選手を起用する傾向が強い。やはり年齢が上がるほど故障のリスクも上がるため、若手重視の起用方針が故障者の少なさにつながっていたとみられる。チームの最終目標は勝利であって故障者を出さないことではないが、若い戦力を中心とした構成は故障離脱のリスクを抑えられるメリットがある。
■故障の多い部位
5年間の部位別の故障傾向も見ていく。上の図は投手、野手別の見た故障部位の発生件数トップ5を表している。投手は肩、ひじに故障の集まる傾向があり、これは5年間の推移で見ても変わることがなかった。肩の故障で登録を抹消されると復帰まで平均64.1日、ひじでも59.2日掛かり、2カ月前後の長い休養期間を必要とする。太もも、腰、脇腹の平均抹消期間は30~35日ほどなので、肩やひじの故障はその他の部位と比べて2倍近いロスを生んでいることになる。
野手の故障で多い部位が太ももで、特に太もも裏の肉離れが目立った。若手でも発生する可能性はあるが、データによると30歳前後から発症が増える傾向にあり、中堅からベテランに差し掛かる年齢の野手は注意が必要となる。抹消期間の平均は39.8日と極端に長い治療期間を要する訳ではないものの、再発パターンも見られる厄介な故障となっている。抹消期間が長引く傾向にある部位は、ひざの故障で平均55.5日。年齢的には20台後半から発症する傾向が見られ、一度痛めると完全な治癒が難しく、だましだましプレーを続けるケースも少なくないようだ。
一度選手登録を抹消すると10日間は再登録を行うことができないが、脳しんとうの疑いで登録を抹消した選手については10日未満での再登録を認める特例措置がある。2016年6月から施行され、これまで同プログラムの対象は5件となっている。脳しんとうはアスリートにとって深刻なダメージとなる可能性があるだけに、少しでも疑いがあればすぐに検査を行う必要がある。検査の結果、問題がなければ早期復帰も見込めるだけに、選手にとってもチームにとってもメリットの大きい制度改正と言える。MLBでは先んじること2011年より7日間の短期故障者リストを導入し、かつて日本ハムでもプレーしたエリック・アルモンテが適用第一号となっている。
■情報公開の是非
先日、ヤクルトは来季から故障者の詳細を公表しないことを発表した。「他球団に情報が伝わることはプラスにならない」ことを理由としている。球界でも故障情報の公表の度合いには温度差があり、詳細な症状まで公式に発表する球団もあれば、故障にまつわる情報を秘匿する球団までさまざまだ。制度としての故障者リストが存在していない以上、戦略上の理由から非公表の姿勢を取るのは仕方のないところだ。
一方で横断的な故障情報の収集は、野球界にとっても寄与するところは大きいと思われる。例えばMLBの故障者リストのような形で制度として確立し、確度の高い生の情報を集積することができれば、外部の専門機関と連携することでスポーツ医学への貢献も期待できるかもしれない。制度として12球団に義務付けられるのであれば、不公平感も生まれない。プレーヤーの健康は野球界にとっての大きな財産である以上、脳しんとうの特例措置の導入のように、より良い方向へ制度が変わっていくことが望ましい。
※データは2017年12月6日現在
文:データスタジアム株式会社 佐々木 浩哉